荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『エルドラド』 メナハム・ゴーラン

2012-12-08 07:45:45 | 映画
 イスラエルの大プロデューサー、メナハム・ゴーラン(『グローイング・アップ』『デルタ・フォース』『スーパーマン4』から『ゴダールのリア王』『ラヴ・ストリームス』まで幅広い作品歴)が33歳の時に撮った監督デビュー作『エルドラド』(1963)が、東京フィルメックスのイスラエル特集で上映された。しかし、メナハム・ゴーランの監督作とうたっても、有り難がる人というのは現在の日本にはそういるはずもなく、場内は閑古鳥が鳴いていた。
 デビュー作とはいえ、それなりに出来のいい正統派フィルム・ノワールで、キッチュに走らないのがいい。ある侠気のあるチンピラ(ハイム・トポル)をめぐる対照的な二人の女──弁護士令嬢と売春婦──の愛の奪い合いが、イスラエルの最大都市テル・アヴィヴの夜のクールさで語られる。表面上はクールだが、主人公の放つセックス・アピールに二人の女はかなりメロメロのようで、画面に漏れ出してくる欲望はただならぬものがある。娼婦マルゴを演じたジラ・アルマゴールは、スピルバーグの『ミュンヘン』(2005)では主人公(エリック・バナ)の母親を演っていたそうだが、覚えていない。
 この作品には、夜の闇に溶け込んで目に見えないラインが引かれている。劇場やナイトクラブ、ブティックが建ち並ぶ華麗な新都市テル・アヴィヴと、これに隣接する古代都市ヤッファ。イスラエル建国前はパレスチナ人の街となっていたヤッファは、イスラエル建国後は麻薬と犯罪のゲットーと化した。
 本作で登場人物たちは、双方の都市を行き来するが、ヤッファの住人は下層階級という扱いを受けている。そしてヤッファの人々は、夜になると、海岸線につらなるテル・アヴィヴの夜景を嘆息まじりに眺めるのである。ただし行政区分的には、本作は1963年の作品だから、テル・アヴィヴがヤッファをとっくに吸収合併している。つまり、テル・アヴィヴ市のヤッファ地区になってはいるらしいのである。


第13回東京フィルメックス〈イスラエル映画傑作選〉にて上映(オーディトリウム渋谷で12/8に再上映あり)
http://filmex.net/