時は江戸中期と申しますから、話はかなり以前へと遡(さかのぼ)ります。
とある長屋でございます。ここに寝ては食い、食っては眠る…これは少々、大袈裟ではございますが、それほどの、ところてん好きがおりました。名を仙太、通称を仙公と申します。
この男、それほどのところてん好きでございますから、ところてんを欠かすと体調を崩すという、なんとも奇っ怪な病(やまい)を患(わずら)っておりました。そんなことで、この仙太、とうとう、ところてん屋に奉公することに決めたのでございます。そうなりますと、居ても立ってもいられない性分でございますから、話はトントン拍子に進みます。数日のうちに美濃屋(みのや)という店を見つけ、勤め始めます。月日は流れ、瞬く間に三年ばかりが過ぎ去ったのでございます。
「お前も、そろそろな! 一度、やってみなよ」
それまでは雑用一切をやっておりましたものが、初めてご主人の多助からお許しを得た仙太、へいっ! とばかりに意気込んで、手筒のところてんを押し出します。するとこれが太いの細いのと波打って筒先から出て参ります。
「ははは…だめだだめだ! ちと、早かったか。どれ、かしてみろい!」
多助は仙太が手にした筒を取り上げます。
「こうだ、仙太!」
やはり、年季の差は歴然でございます。多助の押し出すところてんは波のように滑(なめ)らかで、終始、その細さが同じように器へとそそがれます。程よいところで、黒糖の甘酢蜜をかけます。
「よしっ! お出ししろ」
さすがは親方! と横で眺(なが)めておりました仙太、器を盆に乗せますと、あたふたと客へ運びます。
まあ、こんなことが何度も続き、やがて仙太も一人前となります。お礼奉公も勤めあげ、晴れて暖簾(のれん)分けの運びでございます。これでやっと、心おきなくところてんが食える…と仙太、喜びます。浮かれ気分で店を出しましたのが、本所は深川、富岡八幡宮さまの近くでございます。幸い、店は賑わいまして繁盛いたします。そうなりますって~と、仙太、益々、ところてん三昧(ざんまい)でございます。商売が先か、食うのが先か…好きこそものの上手なれ・・これはちと、違うと存じますが、なにはともあれ、働きますからお店は繁盛を続けます。さて、そうこうするうちに、ここへ足繁く通う芸者の華奴(はなやっこ)というのが仙太を見染めます。仙太もぞっこんとなり、一、二度の出会いで二人は恋仲となります。華奴も根っからのところてん好きでございまして当然、話は噛み合います。いつの間にかコレのコレのコレコレと子連れの所帯持ちへと発展して参ります。今でいう発展リーチのパチンコ台でございましょうか。いずれにいたしましても、ところてんが取り持ったご縁、というやつでございましょう。出来た子供もやはり、ところてん好きでございます。ですから、ところてん三昧の日々が一家にその後も続いて参ります。聞くところによりますと、ある日、客が店へ入りますって~と、ところてんがところてんを作っていたと…まあ、これは、やっかみの作り話でございましょうが、そのようなことがあったそうにございます。ところてんだけに、クニャリクニャリしたお話でございますな。おあとが、よろしいようで…。
完