欠伸(あくび)をしながら新聞を畳(たた)んだ竹松末男は、妻の美弥をそれとなく眺(なが)めた。美弥は食後の洗いものをしていた。
「なんか、アフリカでは、また紛争らしいぞ。テロも起こってる…」
「ふ~~ん」
美弥は政治にはまったく興味がない。軽く聞き流す返事を末男に返した。湯呑みの茶をひと口、飲んだとき、末男はふと、疑問が浮かんだ。
「兵器がないと戦えないよな…。まあ、せいぜい殴り合うくらいだ」
「んっ? ええ、そうね…」
美弥は洗い物を終わり、ネルドリップ式でコーヒーを淹(い)れ始めた。
「太古の昔から、食べるために獣(けもの)とか魚などを獲る道具として武器が生まれたんだよ。それが歴史の中で、人を殺傷する武器と食べるための武器が分かれた訳だ」
美弥は洗い物を終わり、コーヒーカップを運んで末男の前のソファーへ座った。
「なるほど…」
「人を殺傷する武器は時代とともに、どんどん進化して兵器になった」
「本来の目的を離れて、間違った方向へ進んだ訳ね」
「そうそう…」
二人はコーヒーを啜(すす)った。
「紛争や戦争には原因がある。それを突き詰めていけば、解決策は必ず見つかるはずなんだ」
「難しいことは、よく分かんないけど…」
「まあ、聞いてくれよ。争い合う組織とか国とかの言い分の違いが原因じゃないんだ」
「どういうこと?」
「さっき言ったとおりさ。言い分が違ったって、争う兵器がなけりゃ紛争や戦争は出来ないだろ?」
「まあ、そうよね…」
「得てして、低開発国とか開発途上国でトラブルが起きている。その原因はなぜか? という訳だ」
「原因を掘り進めていくのね。少し犯人探しのサスペンスみたいで面白そう」
「馬鹿! 茶化すんじゃない」
「ごめん…」
美弥はふてくされてコーヒーを啜った。
「君が謝(あやま)るこっちゃないけどさ。原因は先進諸国の武器援助とか輸出にあるのさ」
「それは、そうね」
「国の利権とか、いろいろ絡(から)んで大変なんだろうけど、解決策は国連で地球レベルの武器輸出禁止条約を作ることが、まず第一歩だろうな」
末男は言い終え、またひと口、コーヒーを啜った。
「あくまでも、理想よね。そうなると、いいけど…」
「ああ…」
末男はテレビのリモコンを手にし、ボタンを押した。すると不思議なことに、見なれた家の全景が映し出された。
「あれっ!? これ俺ん家(ち)じゃないか?」
「そうよね…」
美弥も訝(いぶか)しそうに画面に見入った。そのとき、画面に一人の女性が、マイク片手にしゃしゃり出た。
『竹松さん、有難うございました! 貴重な音声は放送局を通じ、国連本部へ届けられます。以上、ご意見探訪を終わります。藤崎がお送りしました!』
「ええ~~~っ!!」
二人は同時に大声を上げた。
よくよく考えると、末男は放送局から依頼を受け、了承した事実をうっかり忘れていたのだった。末男のポケットには局から預かった送信機が入っていた。
完