水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-74- 心地(ここち)

2018年07月28日 00時00分00秒 | #小説

 人々にとって必要な休養は、なにも身体(からだ)に限ったことではない。心身ともに・・という言葉があるように、暮らしの中で心の休養、リフレッシュも必要なのだ。ああ…いい心地(ここち)だっ! と感じるのは、心が寛(くつろ)いでいる状態であり、恰(あたか)も心がのんびりと温泉に浸(つ)かり、いい気分で湯治(とうじ)しているような状況である。♪アァァァ~~~♪と、鼻歌が出ているかも知れない。夢見心地・・という言葉も、心の一杯気分でリフレッシュしている、そんな状態を指(さ)す言葉だろう。
 久しぶりに温泉旅行に出かけた二人の列車内の会話である。田畑が散開(さんかい)する中、列車は長閑(のどか)にゆったりと揺れ、走っている。
「なんか、流れる自然の風景を眺(なが)めているだけで、いい心地ですなっ!」
「そうですっ! どういう訳か心が和(なご)みますなっ!」
「え~~と、次は腰板(こしいた)駅で乗り換えてと…祇部洲(ぎぶす)線の地量(ちりょう)駅でしたなっ!」
「はい、そうですっ! 地量駅からは里波尾里(りはびり)線で目的地の対印(たいいん)温泉まででした、確か…。地方のローカル線は、なんとも風情があっていいっ! 無人駅が結構、ありますからなっ!」
「そうそう! その無人駅が、またなんというか…」
「ええ、そうです。人気(ひとけ)のない寂(さび)れた感ですか? これがまた、実にいいんですなっ!」
「そうそう! 心地いい訳ですっ!」
「…で、そのイヤホンで聴いておられるのは?」
「ああ、これですか。私、旅に出るときは、いつも童謡カラオケのCDを持ち歩くんですよっ! ははは…お笑い下さい」
「いえ、ちっとも。いいことです。私も次からそうしましょう」
「はあ、そうなさるといい。いい心地で、倍(ばい)、心が和みます」
「これは、いいことをお聞きしました。それだけで、この旅、もういい心地になりましたよ、ははは…」
 いい心地を求めて、二人の旅は続くのであった。^^
 心地の休養、リフレッシュは、殺伐(さつばつ)とした今の時代、身体以上に必要なのかも知れない。

                                 


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