早いもので毎年、恒例(こうれい)となっている春の剪定(せんてい)と整枝(せいし)作業の季節が巡ってきた。
「忘れずに、よく伸びるなぁ~」
彦崎(ひこざき)はそう言って大きな溜め息(ためいき)を一つ吐(つ)くと、庭先の足継ぎ石から居間へと上がった。この日は休日で、彦崎が勤める村役場は当然、休みだった。
彦崎の朝の庭巡りは恒例となっている彦崎の日課で、これをしないと朝食が美味くない…と常々、彦崎は思っていた。そして、今朝も当然、そうしたのだが、生憎(あいにく)、彦崎の目に飛び込んだのは、伸びた松の芽立ちだった。毎年、この時期には伸びた枝や芽立ちの剪定と整枝をするのが恒例になっていたから、彦崎の脳裏にふと、そのことが過(よぎ)ぎったのである。過ぎればどうなるか・・それは、分かりきったことで、『ああ、またか…』という気分になり、溜め息を吐くことになる。それならやらなければいい訳だが、彦崎は、つい、やってしまっていた。彦崎はパブロフの犬・・のように、条件反射的に動いたとも考えられる。
「さてっ! やるかっ…」
朝食を終えた彦崎は、水を得た魚のように、勢いよくキッチンを出た。顔には心なしか笑(え)みさえ浮かべて…。彦崎の恒例となっている人間的な生活の朝の始まりである。
彦崎の家前の水田に白鷺が舞い降り、餌を啄(つい)ばみ始めた。
この光景も恒例となっている動物的な生活の朝の始まりである。^^
完