goo blog サービス終了のお知らせ 

水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-48- もどかしい

2018年07月02日 00時00分00秒 | #小説

 日本語は実に語彙(ごい)[ボキャブラリー]に豊んでいる。日々の暮らしの中では、自分の思いのままにならない状況がある。もどかしい・・と表現される言葉だが、この言葉も語彙の多さを物語る言葉の一つだ。思いのままにならない政治、生活など、もどかしい状況は私達の暮らしの周(まわ)りに渦巻(うずま)いている。
「そろそろどうでしょう、衣(ころも)さん!」
「えっ? …」
「いやですよ、アレです!」
「アレ! アレと言いますと、あのアレですか?」
 訊(たず)ねられた衣は、はて? と訝(いぶか)しげに揚油(あゆ)の顔を見た。
「そう、そのアレですよ」
「アレはもう買って食べてしまいましたよっ! 嫌だなぁ~ははは…」
「食べたっ!? アレをですかっ? アレは食べられんでしょう、ははは…」
「なにをおっしゃる! 美味(おい)しく食べましたよ、ははは…」
「アレですよっ!? アレは食えない、ははは…」
「いや、美味しかったですよっ!」
「あなたが言っておられるのは、ナニじゃないんですかっ!」                   完
 揚油は、もどかしい顔つきで返した。
「いや! ナニじゃない。アレですっ!」
 衣も、もどかしげに返した。
 実は二人ともアレとナニの名をド忘れし、出てこなかったのだ。
 この二人の遣(や)り取りこそ、実に、もどかしい話なのである。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする