水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-56- まあ、いいか…

2018年07月10日 00時00分00秒 | #小説

 物事をやっていると、どうしてもやらねばならない重要ごとと、まあ、いいか…というような、どうでもいい内容が出現する。重要ごとは当然、やってしまわないとその後(ご)に影響が出るから最優先されるが、どうでもいい内容は後(あと)回しされ、まあ、いいか…と、時には忘れ去られることだってあるのだ。
 通勤帰りの夕方、とある駅近くを歩く先輩、後輩社員の会話である。
「そんな急ぎの用でもないんでしょ? 先輩っ!! まあ、いいじゃないですかっ! キュ~~ッ!! っと!」
「そう言われりゃ、そうだな…。明日(あす)でも、まあ、いいか…」
「そうですよっ! 行きましょ!!」
「ああ…」
 後輩社員に押し切られ、先輩社員は行きつけの飲み屋街へと後(あと)に従って歩き出した。ところが、である。その物事は、ちっとも、まあ、よかなかったのである。その結果が出たのは、ヘベレケになった二人が飲み屋街からフラフラと千鳥足(ちどりあし)で駅へと歩き出したときだった。
「せ、先輩、鳴ってますよっ!」
「ウイッ! …な、なにがっ?」
「携帯ですよっ。携帯っ!」
「んっ? おおっ! け、携帯さんでしたなっ! 携帯さん、出世されたんですなっ! ス、スマホさんにおなりでしたかっ?!」
 先輩社員は、背広の内ポケットからやっと最近、買い換(か)えたスマホを出し、手にした。
「えっ!! なにっ! …先方がっ?! わ、分かった! すぐ、帰るっ!!」
「ウィッ! …どうかしたんですか~、先輩?」
「先方のご両親がお見えらしい。すぐ帰らんとっ!!」
「すぐ帰らんとっ! って、すぐ帰れませんよっ! 次は確か…10:40でしたから、まだ半時間はあります! あるんですっ!! …ウイッ!」
 後輩社員は腕を見ながら、千鳥足に加え、呂律(ろれつ)が回らない口調(くちょう)で言った。
「まあ、よかないが…ウイッ! まあ、いいか…」
 酩酊(めいてい)は、急ぎの事態を、まあ、いいか…と変えるようだ。^^

                                 


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