人は働(はたら)いて楽しみ、そしてまた楽しむために働く。その楽しみは、いろいろとあるが、家族の安らぎ、趣味の楽しみなど、さまざまだ。それらを楽しむことで、人はホッコリとした気分になり、メンタル[心理]面で寛(くつろ)げる時間を得(う)る。要は、癒(いや)される訳だ。そして満足な気分を満タンにして明日(あす)の殺伐(さつばつ)とした社会へと向う訳である。このホッコリ感で癒されないと、人はトラウマに陥(おちい)ったり、フラストレーション、ストレスの類(たぐい)を鬱積(うっせき)することになりかねない。その点でも、ホッコリ感を得るのは暮らしの中で重要となる。
早朝の公園である。ラジオ体操が終わり、いつもの話好きのご老人二人が、いつもの石段に腰をかけ、ペチャクチャと語り出した。座る石段の位置も同じ、語るタイミングも同じ・・といった具合で、周囲の老人達に迷惑をかけている訳でもないから、取り分けて苦情も出ない。というか、苦情はあったとしても、話すのをやめて下さい! とも言えないから、他の老人達は見て見ぬ振りを決め込んでいる感がなくもなかった。だが、二人にとってはホッコリ感を得る至福(しふく)の、ひとときだったのである。
「そうそう、最近は頓(とみ)に悪質化してますなっ!」
「ですなっ! 私らの頃は、まだいい方でした…」
「今日は、こんな情報が入りました…」
一人の老人は、もう一人の老人に、なにやら書かれたメモ書きを手渡した。
「どれどれ…。ほう! なるほど! これは、いけません、いけませんぞぉ~~っ!!」
二人が座る周囲の老人達は、警報のサイレンが鳴ったときのように迷惑顔で二人から離れ出した。老人の声が大きくなり始めたからである。二人にとってはホッコリ感を得るいい時間だったが、他の老人達にはホッコリ感を失う悪い時間だったというお話である。この二人のご老人、元制服組でエリートの警視監だった。
ホッコリ感は、密(ひそ)やかに味わう方がいいようだ。^^
完
必需品のようにもて囃(はや)されるようになった最近のPC[パソコン]事情だが、インターネットの普及(ふきゅう)にともない、さまざまなトラブルが発生するようになった。ウイルスとかバグとか、なにやら厄介(やっかい)な盗賊一味(とうぞくいちみ)のような存在が暗躍(あんやく)するようになったからだ。これが組織的に行われると、さらに悪質なサイバー攻撃・・とか言われる機密内容の漏洩(ろうえい)や機能無能化の攻撃に晒(さら)される。まあ、これは大々的な問題だが、個人的にも、PCが傷つかないよう、セキュリティ面で細心の安全確保が必要となる。この中の一つが最適化・・と呼ばれる保守方法だ。
最適化は、なにもPCに限ったことではなく、暮らしのさまざまなところで必要視されている。職場での人事管理、物流管理、職場の人間関係、家族関係、学校環境・・など、多岐(たき)に亘(わた)る。
とある職場の上司と部下の会話である。
「アレ、どう思います? 課長」
「ああ、いつやらのアレな…。アレはそのままでいいだろう」
「いや、僕は最適化しておいた方が、後々(のちのち)のためにも、いいのではないかと…」
「後々のためなぁ~。…アレはそんなに力むほどのことでもないだろ?」
「そうですかぁ? いや、最適化は必要ですよ、絶対っ!!」
部下は意固地(いこじ)になって強調した。
「いや、その必要はないって!」
上司も意固地になって部下に返した。
「アレですよ? 課長」
「アレだろ? 一昨日(おととい)話していた花瓶の位置」
「違いますよっ! 在庫ですよっ、在庫っ!!」
「…? おっ! おおっ!! それは、最適化しておかんとなっ! おおおお!」
アレは二人の間で大きな違いを見せていた。
最適化が求められるのは重要課題や事項であり、花瓶の位置ではない。^^
完
日々、暮らしていると、どうしても欲が出てくるものだ。アレも欲しい…コレも欲しい…いや、ソレも…いやいや、コチラも、いやいやいや、ソチラも・・となる。こうした心を慎(つつし)むには、やはり自分自身に自戒の念が必要となる。巷(ちまた)では、人々を誘惑しようとする魔物が、虎視眈々(こしたんたん)と機会を窺(うかが)っているのだ。
とある高級洋服店である。一人の客が、アチラ…いや、コチラ…と注文を決められず、迷っていた。
[1]「誠に申し訳ございません。そろそろ閉店の時間でございますので…」
早く決めろよっ! という気分を、店の店員は遠回しに言った。
「ああ、悪い悪い。君なら、どちらがいいと思う?」
[2]「ははは…どちらも、よくお似合いで…。お決めになるのはお客さま次第でございます」
どっぢでも、いいだろうがっ! 全然、似合ってねぇ~よっ、どっちもっ! という気分を、店の店員は、また遠回しに言った。
「そうかねぇ? いや、実は少し欲が出てきてねっ! 値段は高いが、この二つよりアチラの方がよかぁ~ないかい?」
[3]「はあ、確かに…。ですが、そろそろ…」
いい加減、慎むのがアンタの相場だっ! 早く買って、とっとと帰ってくれっ!! という気分を、店の店員は、またまた遠回しに言った。[1]~[3]とも、店員としての慎む言い方だったが、[1]→[3]と進むにつれ、トーンだけは幾らか高く、大きくなっていた。
真(しん)に慎む心は、その人の声に表(あらわ)れるようだ。^^
完
人は暮らしの中で、さまざまな過(あやま)ちを犯(おか)す。多くの場合、やろうとしてやった訳ではない、過失と言われる過ちである。しかし、一度(ひとたび)起こされた過ちは、二度と元へ戻(もど)すことが出来ない。切り倒された樹木は、苗木(なえぎ)を植樹したとしても、数百年以上、経(た)たなければ元の生(お)い繁った姿を取り戻すことは出来ない・・ということだ。文明進歩は人を駆使(くし)して、さまざまな破壊や悪さを、し続けている。もちろん、表面上は便利で快適な暮らしを提供しているかのように見せかけてはいるのだが…。その蔭(かげ)では、絶滅する生命や破壊された自然が泣いている・・といった寸法(すんぽう)だ。では、どうすればいいのか? だが、それが過失治療・・と呼ばれる世間には到底(とうてい)、存在しない治療法なのである。
とある植物医院である。と言っても、この世にそんな医院が存在する訳もない。それは盆栽好きの植川(うえかわ)の昂(こう)じた妄想(もうそう)の世界でしかない。^^
『先生! 患者さんがお見えになりました…』
「ああ、そう。お通(とお)しして…」
妄想看護師で美人の苗浜(なえはま)に言われ、植川は単に返した。むろん、相手がいない独(ひと)り言(ごと)である。
「どうされました?」
『いやぁ~、火傷(やけど)負(お)わされちまいましてねぇ~』
庭の木は症状を訴(うった)えた。
「ほう! どれどれ…。ああ、なるほど…。これなら大したことはない。大事に至らずよかったですなっ! お薬(くすり)をお出ししときましょう! 君! いつやらのお写真をお渡ししてっ!」
『はい、先生っ!』
「過失治療は氷(こおり)しかないんですわっ!」
『はあ?』
意味が分らず、庭の木は訝(いぶか)しげに植川を見た。
「いや、ご説明いたしますと、過去の姿に現状復帰するまで待つしかない訳です。それまでは、過去のお写真で…つまり、時代劇ですなっ! 数ヶ月の短期から数百年規模の長期に至るまで、過失治療には様々(さまざま)あるというお話です。幸(さいわ)い、あなたの場合は完治するまで数ヶ月でしょう。お大事に…」
『はあ…』
燃やされた剪定ゴミの焼却(しょうきゃく)で葉が焦(こ)げついた木は、首を傾(かし)げながら写真薬を貰(もら)うと帰っていった。もちろん植木が動ける訳がなく、薬を貰える訳もない。これも飽(あ)くまで、植川の脳裏(のうり)に描かれた妄想の世界である。
患者が帰ったあと、植川は肥料と活力剤を焦げた木の根元に施(ほどこ)した。ふと、顔を上げると、遠くに見えていた大木が切り倒され、景観(けいかん)が空虚(くうきょ)になっていた。
「ありゃ、数百年の口だな…」
植川は過失治療を思い、ふたたび独りごちた。
過失治療は過ぎ去った記憶に頼(たよ)るしかない・・という、実にもどかしいお話である。^^
完
頭を冷(ひ)やす・・と聞けば、熱が出たのか? と、すぐ思い浮かぶが、その意味意外でも使われることがある。
とある役場の財政課である。朝から課長になったばかりの吹玉(ふきだま)が偉そうに採用されたばかりの職員、椙鑿(すぎのみ)を叱責(しっせき)していた。ちょいと出世風を吹かせたい気分がなくもなかった。
「あのなっ! あ、頭を冷(ひ)やせっ!! 椙鑿っ!」
「はい…何か問題でも?」
椙鑿は、吹玉が怒っている意味が分らず、怪訝(けげん)な面持(おもも)ちで吹玉の顔を窺(うかが)った。
「馬鹿野郎っ!! 歳入歳出は同額だっ! こんな入りと出が違う予算書がどこにあるっ!!」
「ええぇっ~~! そんな馬鹿なっ!! 同額で加味(かみ)さんに渡したはずですっ!」
椙鑿は自分の仕事には自信があったから、頭を冷やすのはお前だろっ! と内心で思いながらも、そうとは言えず、単に否定したした。
「よ~~く見ろっ! これが同額かっ!!」
吹玉は机上(きじょう)に置かれた出来立ての予算書を片手で椙鑿の前へ突き出した。椙鑿は、マジマジと予算書を見たあと、軽く言った。
「あ~~~っ、これ、加味さんの打ち間違えですわっ、課長!」
「なにぃ~~っ!!」
吹玉は突き返された予算書をマジマジと見た。確かに計算は合致(がっち)しており、総額欄(らん)の数値だけが異(こと)なっていた。
「… ああ! いやいや、ごくろうさんっ! ははは…」
吹玉は180°変身した笑顔で椙鑿を小さく見た。椙鑿は、何が、ははは…だっ! と怒れたが、思うにとどめ、自席へと戻(もど)った。
頭を冷やす間違いは、やはり、熱を帯(お)びると起こるようだ。^^
完
オリジナルという言葉も私達の暮らしの中で、もはや日本語化して根づいている和製英語の一つだ。コピーに対する対義語で、独創的で他に似通(にかよ)った存在がない場合に使用される言葉である。
とある研究所で実験に明け暮れる入豚(にゅうとん)という風変わりな教授がいた。彼はオリジナルな発想で、ここ数十年の間(あいだ)、講義時間以外は人工重力生成の研究を続けてきたのである。
「先生! もう、やめましょうよっ!!」
長年、入豚の助手を務め、ここ最近、講師に昇格したばかりの引力(いんりき)が、極限に達した金切り声(ごえ)を上げた。
「ここまで続けてきたんだぞっ! いまさら、君っ!!」
「来年から大学の研究費も出なくなる・・ってことですよっ!」
引力は、それでも続けるんですかっ! とも言えず、遠回しに言った。
「もう少しじゃないかっ、引力君っ!! このオリジナル理論が完成を見れば、私達は一躍(いちやく)、世界のホープだぞっ! もちろん、ノーペリストだっ!!」
「しかし、先生…。また、ですよ~っ!!」
引力は、理論が振り出しに戻(もど)ってるじゃないですかっ! とも言えず、ふたたび、遠回しに言った。
「今度は大丈夫だっ!」
「なら、いいんですが…」
引力はオリジナルよりコピーの方がいいなっ! と本音で思った。ところが、入豚の理論は事実、完成に近づいていたのだから面白い。
オリジナルは失敗の積み重ねから偶然(ぐうぜん)、生まれるようだ。^^
完
組織は一本の樹木に似通(にかよ)ったところがある。組織を・・平たく言えば会社や店、家族などだが、これらを樹木の枝や葉、根、幹(みき)に分かち、それぞれを組織の構成部分に当てはめることが出来る。葉は言うまでもなく従業員、社員、家族の個人などといった末端の人々に当たる。例(たと)えば会社だが、会社自体は幹であリ、根は末端に広がる組織、これも平たく言えば、出張所、支社、個々の店舗・・などといった類(たぐい)に当たる。枝葉(えだは)や根を繁らせたり張らせ過ぎたりすれば、強い雨風で幹がボキッ! と折れるし、枯らすことにもなる。海外の現地生産工場や支社は根に相当するだろう。海外へ進出し過ぎた結果、根腐れで幹が枯れ、倒産とかのお通夜な事態に至る。チ~~ン! と鉦(かね)が鳴るようなことは戴(いただ)けないから、経営トップには留意が求められる。
「また種(たね)が飛んで生(は)えてるな…」
ご近所の大木から飛んだ種が自然生(しぜんば)えし、輿神(こしがみ)の家の敷地内に多数、芽吹いた。輿神は、まったり・・とした気分で何も考えず、それらの芽を抜くと鉢へ植えたり、ご近所の敷地に植え替えたりしたあと、敷地内の際面(さいめん)部分に除草剤を、まったりと撒(ま)いた。ところが、それがいけなかった。家の庭木がその影響で枯れ始めたのである。迂闊(うかつ)を通り越し、ぼんくら・・だな…と輿神は自(みずか)らのアホさ加減(かげん)を、まったりと思った。が、過失は元に戻(もど)しようもない。過失責任を償(つぐな)うという気分でもなく、輿神は水に溶かした栄養剤をまったりと施(ほどこ)し、樹木の回復を願った。そして、その庭木を、しんみりと見て、まったりと思った。
『飛んで生えた芽は、さしずめ産業スパイか…』
と。そして、また考えた。
『事態に気づかず、何げなく除草剤を撒(ま)いて庭木を弱らせる・・というのは機密情報が漏(も)れることを意味する…』
と。そして、またまた考えた。
『そうなると、組織は弱体化し、下手(へた)をすれば倒産だな…。家族なら崩壊(ほうかい)か…。この木、大丈夫かっ!?』
と。
その後、輿神の庭木がどうなったのか? 私はよく知らない。ただ、樹木と組織が、よく似通っていることは確かだ。^^
完
暮らしの中で完璧(かんぺき)を求めるのは至難(しなん)の業(わざ)である。人の世は完璧でない、どこかファジー[あいまい]な部分があって初めて成立するといったところがあるのだ。要するに白でもなく黒でもない、適度な灰色なのである。むろん、黒過ぎれば警察沙汰(けいさつざた)になるし、白過ぎれば、社会生活に馴染(なじ)めず、生き辛(づら)い。
霜川は朝からDIY[DO IT YOURSELFの略で自分でやる・・意となり、日曜大工を意味することが多い]で垣根のペンキを塗り始めたのだが、最初の目論見を外(はず)し、3分の1ほど残したところで昼のチャイムを聞いた。当初の予定より手間取ったことになる。
「チェッ! 昼かっ!!」
霜川は思わず愚痴(ぐち)っていた。だが、現実はどうしようもなく、変えることは出来ない。完璧を追求する霜川には耐(た)えられなかった。
「よしっ!!」
開口(かいこう)一番、下川は作業を継続することにした。空腹はカップ麺で手早く済ませ、作業を急いだ。そして、昼の3時を回った頃、ようやく作業は終結し、完璧に垣根は塗り終えられた。…いや、やに見えた。それは迂闊(うかつ)にも、霜川が色を塗り間違えていたからである。霜川の予定では白ペンキで塗るはずだった。それが、朝陽の関係からか、霜川の早とちりからか・・は定かでないが、塗った色はアイポリーだったのである。アイボリーは白に少し黄味(きみ)の混ざった色合いで、間違えやすいのは否(いな)めない。
「チェッ! 色違いかっ!!」
霜川は思わず愚痴(ぐち)っていた。だが、現実はどうしようもなく、変えることは出来ない。完璧を追求する霜川には耐(た)えられなかった。
「よしっ!!」
開口(かいこう)一番、下川は作業を継続することにした。
作業が終結に近づいたのは夕暮れだった。ほんの数時間のつもりで始めた作業が、完璧に一日を費(ついや)してしまったのである。それでもまあ、霜川としては完璧に作業を終結出来そうで満足だった。ところがっ! である。今度は、あと少しのところで白ペンキが足らなくなった。霜川はDIY専門店へ買いに急いだ。生憎(あいにく)、DIY専門店は棚卸(たなおろ)しで臨時休業していた。
「チェッ! 臨時休業かっ!!」
霜川は思わず愚痴(ぐち)っていた。
完璧を極(きわ)めるのは、やはり至難の業のようだ。^^
完
物を有効に使うことは必要なことだ。最近の社会は、この考えとは真逆(まぎゃく)の方向、早い話、物を使い捨て感覚で捉(とら)えている節(ふし)が、なくもない。個人のボイ捨て感覚もそうだが、電化製品の部品保有期間がその顕著(けんちょ)な具体例で、部品さえあれば修理可能だった物が、粗大芥(そだいごみ)と化すのは悲しい話である。部品永年保管部の設置を企業にお願いしたいくらいのものだ。
凡倉(ぼんくら)は勤め休みの朝、ふと、漬物(つけもの)壷(つぼ)の蓋(ふた)を開けた。
「まだ、いけるとは思うが…」
そう独(ひと)りごち、凡倉は水洗いしたあと、適当な大きさにスライスし、ひと口、頬張(ほおば)った。食べられなくはないが、味はかなり酸(す)っぱかった。乳酸発酵が進んだものと解された。
「ちょっと無理か…。とはいえ、捨てるのもなぁ~」
凡倉は母が作っていた塩し茄子(なすび)を想い出した。茄子が獲れ過ぎ、食べられない分を塩を効(き)かせて漬け込むのだ。そして、食べるときは水で塩抜きしながら炊(た)く訳である。
「茄子がいけるなら、大根もいけるだろう…」
凡倉は単純なアホのように作業を開始した。休日だったから時間はたっぷりとあった。
「使いきる・・っていうのは大事なことだっ!」
凡倉は偉そうに断言し、調理を続けた。とはいえ、それはただ水で煮るというだけの作業で、これといって工夫をした・・という訳ではなかったのだが…。
そうこうして、何度か味を見ながら炊き直したが、いっこう酸っぱ味(み)は抜けなかった。凡倉は次第に焦(あせ)り出した。果たして美味(うま)い一品(いっぴん)に仕上がるのだろうか? 凡倉は少しずつ疑心暗鬼(ぎしんあんき)になり始めた。
さて! その結果はどうなったのか・・だが、それは来週のお楽しみ・・続くっ! とはいかないから、結果報告すれば、まあなんとか食べられなくもない・・といったところだった・・と言っておきたい。捨てずに食べられたのなら、それでいいじゃないかっ! と言われる方もおられるだろうが、問題は美味(おい)しく食べられたのか?・・である。私は聞いていないが、食べた凡倉本人にしか分からない。
使いきるのも、技術が必要なようだ。^^
完
早いもので毎年、恒例(こうれい)となっている春の剪定(せんてい)と整枝(せいし)作業の季節が巡ってきた。
「忘れずに、よく伸びるなぁ~」
彦崎(ひこざき)はそう言って大きな溜め息(ためいき)を一つ吐(つ)くと、庭先の足継ぎ石から居間へと上がった。この日は休日で、彦崎が勤める村役場は当然、休みだった。
彦崎の朝の庭巡りは恒例となっている彦崎の日課で、これをしないと朝食が美味くない…と常々、彦崎は思っていた。そして、今朝も当然、そうしたのだが、生憎(あいにく)、彦崎の目に飛び込んだのは、伸びた松の芽立ちだった。毎年、この時期には伸びた枝や芽立ちの剪定と整枝をするのが恒例になっていたから、彦崎の脳裏にふと、そのことが過(よぎ)ぎったのである。過ぎればどうなるか・・それは、分かりきったことで、『ああ、またか…』という気分になり、溜め息を吐くことになる。それならやらなければいい訳だが、彦崎は、つい、やってしまっていた。彦崎はパブロフの犬・・のように、条件反射的に動いたとも考えられる。
「さてっ! やるかっ…」
朝食を終えた彦崎は、水を得た魚のように、勢いよくキッチンを出た。顔には心なしか笑(え)みさえ浮かべて…。彦崎の恒例となっている人間的な生活の朝の始まりである。
彦崎の家前の水田に白鷺が舞い降り、餌を啄(つい)ばみ始めた。
この光景も恒例となっている動物的な生活の朝の始まりである。^^
完