本日1月22日は、孝徳天皇が改新の詔を発布した日で、スイス傭兵の最初の150人がローマ教皇領に到着した日で、神聖ローマ皇帝カール5世がヴォルムス帝国議会を召集してマルティン・ルターを召喚した日で、スペインがイギリス領フォークランド諸島のポート・エグモントを占領した日で、平田篤胤が儒教批判・尊王思想により江戸幕府から著述禁止・江戸退去の命令を受けた日で、ロシア帝国支配下のポーランドで一月蜂起が始まった日で、ロシアの首都サンクトペテルブルクで労働者のデモ隊に軍隊が発砲して1千人以上が死亡した血の日曜日事件が起こった日で、初の国産飛行船である陸軍の雄飛号が所沢・大阪間で実験飛行を行った日で、ソ連の最高指導者レオニード・ブレジネフの暗殺未遂事件が起こった日で、米最高裁が妊娠中絶を規制する米国内法の大部分を違憲無効とする判断を示した日で、ソ連のアフガニスタン侵攻を批判した物理学者アンドレイ・サハロフが閉鎖都市ゴーリキー市へ流刑にされた日で、科学技術庁のホームページが改竄された日で、太陽系外へ向け飛行中の宇宙探査機「パイオニア10号」との通信がこの日の信号を最後に途絶した日で、TBSテレビの情報番組『みのもんたの朝ズバッ!』が番組中に不二家の期限切れ原材料使用問題に関する一連の報道で(事実ではないことを基にして)不二家を不当に批判・非難した日です。
本日の倉敷は晴れていましたよ。
最高気温は六度。最低気温は二度でありました。
明日は予報では倉敷は晴れのち曇りとなっております。
狐と狐のお師匠様は群衆の中にいた。
群集はいずれも嬉しそうな顔をしていた。
そこを通り抜けて花も人も見えない林の中へ来るまでは会話をする機会がなかった。
「恋は罪悪ですか?」と狐は突然お師匠様に訊いた。
「罪悪です。確かに」と答えた時のお師匠様の語気は強かった。
「何故ですか?」
「何故だか今に解ります。今にじゃない。もう解っているはずです。あなたの心はとっくの昔からすでに恋で動いているぢゃありませんか」
狐は一応自分の胸の中を調べて見た。
けれどもそこは案外に空虚であった。思いあたるようなものは何にもなかった。
「私の胸の中にこれという目的物は一つもありません。私はお師匠様に何も隠してはいないつもりです」
「目的物がないから動くのです。目的物があれば落ち付けるだろうと思って動きたくなるのです」
「今はそれほど動いちゃいません」
「あなたは物足りない結果私の所に動いて来たぢゃありませんか」
「待って待って待って待って。そんなんじゃないそんなんじゃないそんなんじゃない。それは恋とは違います」
「恋に上る楷段なんです。異性と抱き合う順序としてまず私の所へ動いて来たのです」
「いやいやいやいや。私には二つのものが全く性質を異にしているように思われます」
「いや同じです。私はあなたに満足を与えられない人間なのです。それから、ある特別の事情があって尚更あなたに満足を与えられないでいるのです。私は実際お気の毒に思っています。あなたが私から余所へ動いて行くのは仕方がない。私はむしろそれを希望しているのです。しかし……」
狐は変に悲しくなった。分かってない。お師匠様は全く何も分かってない。
「私がお師匠様から離れて行くようにお思いになれば仕方がありませんが、私にそんな気の起った事はまだありません」
お師匠様は狐の言葉に耳を貸さなかった。
「しかし気を付けないといけない。恋は罪悪なんだから。私の所では満足が得られない代りに危険もないが、君、人に縛られた時の心持を知っていますか?」
狐は想像で知っていた。しかし事実としては知らなかった。いずれにしてもお師匠様の言う罪悪という意味は朦朧としてよく解らなかった。その上、狐は少し不愉快になった。お師匠様が仰っていることはまるでピントがずれている。
「お師匠様。罪悪という意味をもっと判然と言って聞かして下さい。それでなければこの問題をここで切り上げて下さい。私自身に罪悪という意味が判然と解るまで」
「悪い事をした。私はあなたに真実を話している気でいた。ところが実際は、あなたを焦慮していたのだ。私は悪い事をした」
お師匠様と狐は博物館の裏から街の方角に静かな歩調で歩いて行った。垣の隙間から広い庭の一部に茂る熊笹が幽邃に見えた。
「君は私が何故毎月、友人の墓へ参るのか知っていますか?」
お師匠様のこの問いは全く突然であった。しかもお師匠様は狐がこの問いに対して答えられないという事もよく承知していた。
狐はしばらく返事をしなかった。
するとお師匠様は始めて気が付いたようにこう言った。
「また悪い事を言った。焦慮せるのが悪いと思って説明しようとすると、その説明がまたあなたを焦慮せるような結果になる。どうも仕方がない。この問題はこれで止めましょう。とにかく恋は罪悪ですよ、よござんすか。そうして神聖なものですよ」
狐にはお師匠様の話がますます解らなくなった。
しかしお師匠様はそれぎり恋を口にしなかった。