ブログに書き残してきたことを時間が経ったけど書いていこうのコーナー!
1月の思い出はもう全部書き終わったと思っていたんですが、まだあったので書いていきます!
と言うわけで今回は、1/28、29の土日に松本市のピカデリーホールで行われた、演劇裁縫室ミシンさんの「ミシン」について書いていきます。
僕は、1/29(日)に松本に遊びに行った時に観て来ました。
演劇裁縫質ミシンさんは、長野県の劇団で、松本に住んでいた時に初めて観た2010年の「ストロウマン」がとても面白くて、そこから好きになった劇団です。
劇団員の人達とも普通に知り合いなので、すごく親しみのある劇団でもあります。
新潟に来てからは、なかなか観に行くことは出来ないのですが、2012年の「ぱっとみて鯖」と、2015年の「男子禁制★殺人事件」は観に行っていて、どちらもとても面白かったです。
特に「ぱっとみて鯖」は今までの人生で観た演劇の中でかなり上位に食い込むほど大好きです。
ミシンさんの演劇は、練られた脚本と、アマチュア劇団の手作りとは思えないほどの大掛かりな舞台装置、そしてそんな中で繰り広げらる予想不可能なナンセンスなギャグの数々が本当に面白くて、特にギャグは心の底から大爆笑させられます。
BLUESのメンバーもミシンさんのギャグが大好きでよくネタにしていますし、僕自身、プロ・アマ問わず、ここまで面白い劇団なかなかないんじゃないかと言っても過言ではないくらい、本当に大好きな劇団でございます。
で、そんな大好きなミシンさんの演劇が久し振りに観られるぞ!ということで、本当にわくわくしながら観に行って来ました。
しかも、今回のタイトルは劇団名と同じ「ミシン」だったので、何かこう、今までとは違うとんでもない演劇になるのではないか・・・?という期待もありました。
そんな気持ちで観て来た演劇裁縫室ミシンさんの「ミシン」ですが・・・結論から言うと、大傑作だと思います!
そもそも僕は期待値のハードルをかなり上げて観に行ったのですが、余裕で越えてきたというか、プロ・アマ関係なくこんなに面白い演劇なかなか出会えない!って本気で思いましたし、間違いなく自分の中で2017年のベスト候補の演劇だと思います。
具体的に感想を書いていきますと、まず、舞台の真ん中に正方形のステージが置かれているのですが、演劇が始まると同時にそのステージ上に様々な登場人物たちが一度に登場したと思ったら、なんとその正方形のステージがぐるぐると回り出し、それと同時に出演者さんたちが順番にこの演劇のモノローグを語り出したではないか!
演劇開始直後に、こんな予想外のシーンが始まり、僕はもう心の底から「格好いいいいいい!!!!!」と大興奮してしまって、一気に引き込まれてしまいました。
ちなみにこの回転するステージ、演劇の中でも何度も回転し、シーンの転換などにすごく効果的に使われていました。
また、一つのシーンの最中に回転することもあり、そのことで客席からの視点が動いていくという、演劇なのに映画のようにカメラワークを楽しめるという画期的なステージだったと思います。
そんな訳で、回転する格好いいモノローグから物語が始まるのですが、この演劇は、ある港町の1971年、1991年、2011年、2021年の様々な人間ドラマを描いた群像劇でした。
なので、あるシーンで子供だった人が、その後のシーンでは大人になって登場してきたり、人が死んだり新たに生まれたり、時代によって登場人物がちの設定がどんどん変化していきます。
だから、舞台となる時代によって、役者さんが演じる年齢が変化したり、様々な役を一人二役で演じ分けたりしていました。
そのため、ちょっと気を抜くとややこしいことになりそうなものですが・・・この演劇はそんなことがまったくありませんでした。
丁寧に作られた役者さんたちの演技や、時代の特徴を踏まえた衣装などの力によって、時代によって変化する登場人物の設定や人間関係も、とても分かりやすく頭に入って来ました。
何より、物語が最初から最後までとても面白くて、まったく集中が途切れなかったので、ちょっとややこしい時代設定も見落とすことなく頭に入って来ました。
また、何気ない会話の積み重ねの中でそれぞれの時代背景や登場人物やストーリーを語るのが本当に見事だったなあと思います。
基本的には静かな会話劇で、ミシンさんの得意とするギャグがほとんど登場しなかったのには驚きましたが、会話の一つ一つにちゃんと意味があり、役者さんもそれをしっかり表現できていたからこそ、そんな人間関係が時代によってどんどん変化していく物語に、次はどうなるんだろう?と最初から最後までどんどん引き込まれてしまいました。
この、時代によって登場人物たちの置かれている状況や人間関係がどんどん変化していく、というのが、この演劇の一番の特徴だったと思うのですが、印象的だったのは、様々な登場人物やエピソードが全て平等に淡々と描いていたことでした。
劇中で登場人物たちは様々な体験をするのですが、どれが正解でどれが不正解か、などということをはっきりとさせずに、あくまで観客の判断に委ねていると思いました。
しかもこの演劇は時代がどんどん変化するので、あるシーンで良かったと思ったことが、次のシーンではそれが原因で物凄く悲しい出来事に繋がっていたり、またその逆もあったりと、何がどう次に繋がっていくか分からないのです。
だからこそ、この演劇を観ながら、このシーンは次にどう繋がるのだろう?この会話は次にどう活きてくるのだろう?と、全てのシーンから目が離せなくなってしまうという、本当によく出来た脚本だと思いました。
さらに、この時代による変化というものがあるからこそ、登場人物にも深みが出ていたなあと思います。
例えばあるシーンですごく幸せなことがあると、その前の時代の出来事がここに繋がったんだなあ・・・と、まるでその人の人生を一緒に振り返って見ているような感動があったり、また、あるシーンで悪役みたいになってしまう登場人物に対しても、その前の時代では魅力的な人物として描かれたりしているからこそ、どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・という悲しみが増していたと思います。
で、ですね、このように時代による変化の中で、どんなエピソードも登場人物も一言で正解/不正解だとか、善人/悪人と言った線引きをせずに、全てをありのままに表現する、というのがこの演劇の最大の特徴だと思うのですが、これは本当にすごいことだと思うのです。
何がそんなにすごいかって言うと、それってつまり、私たちが生きている現実そのものじゃないか!っていうことなのです。
当たり前のことですが、私たちの人生、私たちが生きる現実って、日々変化していくものだし、一言で何が正解で不正解か、何が善で悪かなんて分からないものですよね。
そんな私たちの生きる現実そのものを、こうして一つの演劇の中で表現して、さらに全ての登場人物を丁寧に深みのある存在として描く、これは本当に私たちの生きる現実をまっすぐに見つめた人間賛歌そのものだと思うのですが・・・考えすぎでしょうか(笑)
少なくとも僕は、観劇しながら、そこにはこの現実と地続きの世界がちゃんと存在しているとしか思えませんでしたし、そこで演じられる登場人物たちは私たちと同じこの世界のどこかに実在している人物のように感じてしまったほどでした。
それを成し遂げるために役者さんの演技一つ一つが物凄く緻密に作り上げられていることにも感動しましたし、それと同時に、そこまで現実にありそうな出来事を淡々と描きながらもしっかりエンターテインメントとしても成立していた脚本も本当に完成度が高いと思いました。
そんな、私たちの生きる現実と地続きとしか思えないような演劇が、後半で2011年を迎えた時、僕はとてもハラハラしている自分に気付きました。
そう、言うまでもなく、東日本大震災の発生した、私たち日本人にとって決して忘れることの出来ない年だからです。
しかも、この演劇の舞台は日本のどこかの港町なので、まさか・・・という嫌な予感はどんどん高まっていきました。
それとは裏腹に、2011年を迎えても、最初はとても平和な感じで、まるでハッピーエンドに向かうかのように物語は進行していくのですが・・・やっぱりと言うかなんと言うか、そんな物語に突然震災が襲います。
この時の演出が本当に素晴らしくて、それまでただの回転するセットだったステージの床が突然割れて、床を作っていた板が何本も上に飛び出してきて、一瞬にして被災地のように変化するという見事な演出でした。
しかもこれが突然発生するし、その時の床が割れる時の音なんかもあって、来るぞ来るぞ・・・とは思っていても実際すごくびっくりしたし、まさに突然何の前触れもなくやってきて生活を一変してしまう震災の恐ろしさを表現していたと思います。
ただ、この演劇の本当に素晴らしいと思ったところは、そこで物語が終わらないところで、震災の10年後、2021年まで描かれています。
とは言っても、そこで描かれるのは「震災からの復興!」みたいな分かりやすいメッセージなどではなく、やっぱりそこでも、色んな登場人物たちの日常が淡々と描かれるだけです。
そこで、、様々な登場人物の2021年の姿や、そこでの会話によって、2011年からの10年間で起こった様々な出来事が分かります。
震災で亡くなった人や、離れ離れになった家族がある一方で、それでも生き残った人達の人生は続いていて、時にはいいこともあったりする、そんな様々な絶望や希望が、あくまで淡々と描かれていきます。
で、そんな演劇のラストに、この物語のテーマそのものを象徴するかのように登場するのが、タイトルにもあるミシンです。
と言っても、ミシンが登場するのはこのシーンだけではなく、実は一番最初からずっと登場しているのですが・・・という訳で、本当は一番最初にするべきだった主人公の説明をこのタイミングでしようと思います!
この演劇の主人公は、一人の結構地味な女性で、どの時代でも彼女は常に、家にあるミシンで淡々と洋服を縫って生きています。
最初は趣味で自作していた洋服が突然注目されて一躍有名人になったかと思えば、それがきっかけで犯罪に巻き込まれてしまったりと、色んな体験をしながら、彼女はどんどん年老いていくのですが、いつの時代もただ淡々とミシンを踏み続けていたのです。
そんなミシンが、震災の年に盗まれてしまうという事件が発生したりもするのですが、最後の最後の2022年のラストシーンに、そのミシンが再び発見され、舞台に戻ってきます。
そして再びミシンが回し始めるところで、物語は静かに終わります。
このように、この演劇は、50年に及ぶどこに向かうとも分からない様々な人間の営みを、淡々と描いただけの物語です。
しかし同時に、過去から未来へと、色んな人間たちの色んな出来事が続いているんだよなあ・・・と、物凄い壮大な広がりを感じる物語でした。
そんなこの演劇全体を象徴するかのように、いつの時代も静かに回り続けるミシンの存在と、そのミシンが一度は失われても再び動き出すというラストに、色んな絶望や希望を乗せて時間が回り続けるようで、なんだか言葉にならない感動に襲われてしまって正直ちょっと泣きました。
悲しいことがあっても嬉しいことがあっても、震災みたいなとんでもないことが起こった時でさえも、時間は進み続けるし、生きている限り人生は続いていく、それは残酷なことでもあるんだけど同時に希望でもあるんだなあ、と、演劇を観終わったあとも、ふと自分の人生に思いをはせたくなるような、深い余韻の残る、素晴らしい演劇でした。
という訳で、長々感想を書いてきましたけど、演劇裁縫室ミシンさんの「ミシン」、渾身の一作って感じの本当に素晴らしい演劇だったと思います。
いやー、面白かったです!新潟から観に行けて本当に良かった!出演者の皆さん皆さんお疲れ様でした!
1月の思い出はもう全部書き終わったと思っていたんですが、まだあったので書いていきます!
と言うわけで今回は、1/28、29の土日に松本市のピカデリーホールで行われた、演劇裁縫室ミシンさんの「ミシン」について書いていきます。
僕は、1/29(日)に松本に遊びに行った時に観て来ました。
演劇裁縫質ミシンさんは、長野県の劇団で、松本に住んでいた時に初めて観た2010年の「ストロウマン」がとても面白くて、そこから好きになった劇団です。
劇団員の人達とも普通に知り合いなので、すごく親しみのある劇団でもあります。
新潟に来てからは、なかなか観に行くことは出来ないのですが、2012年の「ぱっとみて鯖」と、2015年の「男子禁制★殺人事件」は観に行っていて、どちらもとても面白かったです。
特に「ぱっとみて鯖」は今までの人生で観た演劇の中でかなり上位に食い込むほど大好きです。
ミシンさんの演劇は、練られた脚本と、アマチュア劇団の手作りとは思えないほどの大掛かりな舞台装置、そしてそんな中で繰り広げらる予想不可能なナンセンスなギャグの数々が本当に面白くて、特にギャグは心の底から大爆笑させられます。
BLUESのメンバーもミシンさんのギャグが大好きでよくネタにしていますし、僕自身、プロ・アマ問わず、ここまで面白い劇団なかなかないんじゃないかと言っても過言ではないくらい、本当に大好きな劇団でございます。
で、そんな大好きなミシンさんの演劇が久し振りに観られるぞ!ということで、本当にわくわくしながら観に行って来ました。
しかも、今回のタイトルは劇団名と同じ「ミシン」だったので、何かこう、今までとは違うとんでもない演劇になるのではないか・・・?という期待もありました。
そんな気持ちで観て来た演劇裁縫室ミシンさんの「ミシン」ですが・・・結論から言うと、大傑作だと思います!
そもそも僕は期待値のハードルをかなり上げて観に行ったのですが、余裕で越えてきたというか、プロ・アマ関係なくこんなに面白い演劇なかなか出会えない!って本気で思いましたし、間違いなく自分の中で2017年のベスト候補の演劇だと思います。
具体的に感想を書いていきますと、まず、舞台の真ん中に正方形のステージが置かれているのですが、演劇が始まると同時にそのステージ上に様々な登場人物たちが一度に登場したと思ったら、なんとその正方形のステージがぐるぐると回り出し、それと同時に出演者さんたちが順番にこの演劇のモノローグを語り出したではないか!
演劇開始直後に、こんな予想外のシーンが始まり、僕はもう心の底から「格好いいいいいい!!!!!」と大興奮してしまって、一気に引き込まれてしまいました。
ちなみにこの回転するステージ、演劇の中でも何度も回転し、シーンの転換などにすごく効果的に使われていました。
また、一つのシーンの最中に回転することもあり、そのことで客席からの視点が動いていくという、演劇なのに映画のようにカメラワークを楽しめるという画期的なステージだったと思います。
そんな訳で、回転する格好いいモノローグから物語が始まるのですが、この演劇は、ある港町の1971年、1991年、2011年、2021年の様々な人間ドラマを描いた群像劇でした。
なので、あるシーンで子供だった人が、その後のシーンでは大人になって登場してきたり、人が死んだり新たに生まれたり、時代によって登場人物がちの設定がどんどん変化していきます。
だから、舞台となる時代によって、役者さんが演じる年齢が変化したり、様々な役を一人二役で演じ分けたりしていました。
そのため、ちょっと気を抜くとややこしいことになりそうなものですが・・・この演劇はそんなことがまったくありませんでした。
丁寧に作られた役者さんたちの演技や、時代の特徴を踏まえた衣装などの力によって、時代によって変化する登場人物の設定や人間関係も、とても分かりやすく頭に入って来ました。
何より、物語が最初から最後までとても面白くて、まったく集中が途切れなかったので、ちょっとややこしい時代設定も見落とすことなく頭に入って来ました。
また、何気ない会話の積み重ねの中でそれぞれの時代背景や登場人物やストーリーを語るのが本当に見事だったなあと思います。
基本的には静かな会話劇で、ミシンさんの得意とするギャグがほとんど登場しなかったのには驚きましたが、会話の一つ一つにちゃんと意味があり、役者さんもそれをしっかり表現できていたからこそ、そんな人間関係が時代によってどんどん変化していく物語に、次はどうなるんだろう?と最初から最後までどんどん引き込まれてしまいました。
この、時代によって登場人物たちの置かれている状況や人間関係がどんどん変化していく、というのが、この演劇の一番の特徴だったと思うのですが、印象的だったのは、様々な登場人物やエピソードが全て平等に淡々と描いていたことでした。
劇中で登場人物たちは様々な体験をするのですが、どれが正解でどれが不正解か、などということをはっきりとさせずに、あくまで観客の判断に委ねていると思いました。
しかもこの演劇は時代がどんどん変化するので、あるシーンで良かったと思ったことが、次のシーンではそれが原因で物凄く悲しい出来事に繋がっていたり、またその逆もあったりと、何がどう次に繋がっていくか分からないのです。
だからこそ、この演劇を観ながら、このシーンは次にどう繋がるのだろう?この会話は次にどう活きてくるのだろう?と、全てのシーンから目が離せなくなってしまうという、本当によく出来た脚本だと思いました。
さらに、この時代による変化というものがあるからこそ、登場人物にも深みが出ていたなあと思います。
例えばあるシーンですごく幸せなことがあると、その前の時代の出来事がここに繋がったんだなあ・・・と、まるでその人の人生を一緒に振り返って見ているような感動があったり、また、あるシーンで悪役みたいになってしまう登場人物に対しても、その前の時代では魅力的な人物として描かれたりしているからこそ、どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・という悲しみが増していたと思います。
で、ですね、このように時代による変化の中で、どんなエピソードも登場人物も一言で正解/不正解だとか、善人/悪人と言った線引きをせずに、全てをありのままに表現する、というのがこの演劇の最大の特徴だと思うのですが、これは本当にすごいことだと思うのです。
何がそんなにすごいかって言うと、それってつまり、私たちが生きている現実そのものじゃないか!っていうことなのです。
当たり前のことですが、私たちの人生、私たちが生きる現実って、日々変化していくものだし、一言で何が正解で不正解か、何が善で悪かなんて分からないものですよね。
そんな私たちの生きる現実そのものを、こうして一つの演劇の中で表現して、さらに全ての登場人物を丁寧に深みのある存在として描く、これは本当に私たちの生きる現実をまっすぐに見つめた人間賛歌そのものだと思うのですが・・・考えすぎでしょうか(笑)
少なくとも僕は、観劇しながら、そこにはこの現実と地続きの世界がちゃんと存在しているとしか思えませんでしたし、そこで演じられる登場人物たちは私たちと同じこの世界のどこかに実在している人物のように感じてしまったほどでした。
それを成し遂げるために役者さんの演技一つ一つが物凄く緻密に作り上げられていることにも感動しましたし、それと同時に、そこまで現実にありそうな出来事を淡々と描きながらもしっかりエンターテインメントとしても成立していた脚本も本当に完成度が高いと思いました。
そんな、私たちの生きる現実と地続きとしか思えないような演劇が、後半で2011年を迎えた時、僕はとてもハラハラしている自分に気付きました。
そう、言うまでもなく、東日本大震災の発生した、私たち日本人にとって決して忘れることの出来ない年だからです。
しかも、この演劇の舞台は日本のどこかの港町なので、まさか・・・という嫌な予感はどんどん高まっていきました。
それとは裏腹に、2011年を迎えても、最初はとても平和な感じで、まるでハッピーエンドに向かうかのように物語は進行していくのですが・・・やっぱりと言うかなんと言うか、そんな物語に突然震災が襲います。
この時の演出が本当に素晴らしくて、それまでただの回転するセットだったステージの床が突然割れて、床を作っていた板が何本も上に飛び出してきて、一瞬にして被災地のように変化するという見事な演出でした。
しかもこれが突然発生するし、その時の床が割れる時の音なんかもあって、来るぞ来るぞ・・・とは思っていても実際すごくびっくりしたし、まさに突然何の前触れもなくやってきて生活を一変してしまう震災の恐ろしさを表現していたと思います。
ただ、この演劇の本当に素晴らしいと思ったところは、そこで物語が終わらないところで、震災の10年後、2021年まで描かれています。
とは言っても、そこで描かれるのは「震災からの復興!」みたいな分かりやすいメッセージなどではなく、やっぱりそこでも、色んな登場人物たちの日常が淡々と描かれるだけです。
そこで、、様々な登場人物の2021年の姿や、そこでの会話によって、2011年からの10年間で起こった様々な出来事が分かります。
震災で亡くなった人や、離れ離れになった家族がある一方で、それでも生き残った人達の人生は続いていて、時にはいいこともあったりする、そんな様々な絶望や希望が、あくまで淡々と描かれていきます。
で、そんな演劇のラストに、この物語のテーマそのものを象徴するかのように登場するのが、タイトルにもあるミシンです。
と言っても、ミシンが登場するのはこのシーンだけではなく、実は一番最初からずっと登場しているのですが・・・という訳で、本当は一番最初にするべきだった主人公の説明をこのタイミングでしようと思います!
この演劇の主人公は、一人の結構地味な女性で、どの時代でも彼女は常に、家にあるミシンで淡々と洋服を縫って生きています。
最初は趣味で自作していた洋服が突然注目されて一躍有名人になったかと思えば、それがきっかけで犯罪に巻き込まれてしまったりと、色んな体験をしながら、彼女はどんどん年老いていくのですが、いつの時代もただ淡々とミシンを踏み続けていたのです。
そんなミシンが、震災の年に盗まれてしまうという事件が発生したりもするのですが、最後の最後の2022年のラストシーンに、そのミシンが再び発見され、舞台に戻ってきます。
そして再びミシンが回し始めるところで、物語は静かに終わります。
このように、この演劇は、50年に及ぶどこに向かうとも分からない様々な人間の営みを、淡々と描いただけの物語です。
しかし同時に、過去から未来へと、色んな人間たちの色んな出来事が続いているんだよなあ・・・と、物凄い壮大な広がりを感じる物語でした。
そんなこの演劇全体を象徴するかのように、いつの時代も静かに回り続けるミシンの存在と、そのミシンが一度は失われても再び動き出すというラストに、色んな絶望や希望を乗せて時間が回り続けるようで、なんだか言葉にならない感動に襲われてしまって正直ちょっと泣きました。
悲しいことがあっても嬉しいことがあっても、震災みたいなとんでもないことが起こった時でさえも、時間は進み続けるし、生きている限り人生は続いていく、それは残酷なことでもあるんだけど同時に希望でもあるんだなあ、と、演劇を観終わったあとも、ふと自分の人生に思いをはせたくなるような、深い余韻の残る、素晴らしい演劇でした。
という訳で、長々感想を書いてきましたけど、演劇裁縫室ミシンさんの「ミシン」、渾身の一作って感じの本当に素晴らしい演劇だったと思います。
いやー、面白かったです!新潟から観に行けて本当に良かった!出演者の皆さん皆さんお疲れ様でした!