12/22(水)、T・ジョイ新潟万代で「梅切らぬバカ」を観てきました。
自閉症の息子とその母が、隣に引っ越してきた家族や地域の人達と衝突しながらも交流していく人間ドラマ。
まず、自閉症の息子・忠夫を演じた、ドランクドラゴンの塚地武雅さんが素晴らしすぎる!
本当に自閉症の人にしか見えない作り込まれたリアルな演技と、同時に人としての愛すべき魅力も見せる。
「こんな夜更けにバナナかよ」の大泉洋さんに匹敵する名演技だと思います!
脚本も本当に素晴らしくて、例えば自閉症の忠男とその母の家の庭からは大きな梅の木が道まではみ出し、隣に引っ越してきた家族は邪魔だと言う。
しかし梅の木は親子にとって大切なものである。
大切なものを守って生きるだけで、周囲から批判を受けてしまうという、障害者やその家族の生きづらさそのものを、もう、この梅の木自体象徴している。
さらに、ネタバレなので詳しくは書きませんが、その梅の木にはその親子にある過去にまつわる由来があり、タイトルにもある梅の木だけで、メインとなる親子の生き方や背景まで、深く描いている。
さらに、隣の家族が引っ越してきた時、梅の木にぶつかって荷物を落としてしまうのですが、その中に隣の家の息子・草太が大切にしていたボールがある。
ある日、自閉症の忠男は隣の家に勝手に入って怒鳴られるのですが、本当は落としたボールを届けていて、それを知った隣の息子・草太との交流が始まる。
もう、この、梅の木を巡るこのエピソードだけで、二軒の家と、そこに暮らす2組の家族、それぞれの気持ちの変化などが、本当に見事に描かれていて、脚本に一つも無駄がない。
梅の木が、ある時は親子の生き方を象徴し、ある時はストーリーを動かすきっかけとなっているという、この物語の多面性、本当に素晴らしいと思いました。
自閉症の忠男がグループホームに入る下りも、グループホームに入ることでかえって不自由を感じたり、グループホームが地域住民の反対運動を受けていたり、何が正解かはっきり分からない、障害を巡る社会の複雑さや多面性をしっかり描いていたと思いました。
障害を決して綺麗事にせずに、対岸の火事としても描かずに、障害者/健常者どちらも、登場人物の一人一人を本当にリアルに、生きた人間として描いていく。
忠男が隣の家の息子・草太と交流する場面も、一見ハートウォーミングな場面ですが、でもそれが原因で問題を起こしてしまい事態をさらに悪化させ…と、常に物事を多面的に描く深い脚本だと思いました。
ちなみにここで、小学生の草太が、一度逃げ出すけれど罪悪感から泣いてしまう場面、彼の気持ちの変化を思うとすごく見事な脚本だと思ったし、そういう繊細な気持ちをしっかり描くあたり、本当に優しい映画だなと思いました。
そんな感じで、障害を巡る社会の難しさを描きつつも、根底には人間への愛やユーモアがあり、自閉症の忠男にも人としての魅力を描く温かい映画だと思いました。
息子に困りながらも深い愛情を注ぐ加賀まりこさんが演じた母親や、最初は反発していても少しずつ理解し合っていく渡辺いっけいさんをはじめとする隣の家族が、この映画の優しさを象徴していたと思いました。