舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

映画「野火」2020年の再上映、観てきました。

2020-08-25 22:57:30 | Weblog


8/25(火)、シネ・ウインドで「野火」を観てきました。



2015年の映画ですが、終戦記念日のある8月にシネ・ウインドの戦争特集の中で、一つ前の記事に書いた「蟻の兵隊」とともに上映していました。
よく考えたら、2015年にシネ・ウインドは「野火」を1ヶ月も上映していたわけで、何が何でも戦争の恐怖を語り継ぐというシネ・ウインドの強い意志を感じます。





塚本信也監督の言葉も貼ってありました。





シネ・ウインドだけでなく、高田世界館でも8月の戦争特集上映をしているそうでで、その記事も貼ってありました。





予告編はこちら。



2015年の公開時にも観ましたが、初見では何の前情報もなく観たこともあり、理不尽に襲い掛かる戦争の恐怖に翻弄される物語に、まるで自分も右も左も分からない戦場に突然放り込まれたような恐怖と衝撃を覚えました。
今回、2回目の鑑賞ということで、初見ほどの衝撃ではなかったものの、今回は映画のストーリーや構成などについて色々と新たな発見もあり、より深くこの映画について知ることができました。

まず、これは初見で思ったことですが、「野火」の何が怖いって「人間は人間を殺せる」という事実に気付かされること、そしてそれが日常になるのが戦争だということなんです。
人と人が出会えばそこで殺人が起こるのが当たり前、死ぬのは相手か自分か、殺すか殺されるかの違いでしかない。

だから、画面上に人が二人いるだけでもう死の恐怖に襲われるわけです。
これが戦争の恐怖なのか…ということをこんなにも強烈に描いた映画は、なかなか観たことがないです。

普通の戦争映画って、それでも敵/味方みたいなものが描かれるし、基本的に「敵と戦う」物語になっているものが多いと思うんです。
でも「野火」では、誰が敵なのか何のために戦っているのかもはや何も分からないような状況で、誰がいつ誰かに殺されても、いつ空腹で死んでもおかしくないという、地獄のような極限状態なんですよね。

それでも主人公は、最初は人としての越えてはいけない一線はギリギリ越えないようにしているというか、他人を思いやる「人間らしさ」みたいなものを何となく持っているんですよ。
でも、周りでどんどん人が冗談みたい殺されていく中で、自分もふとした瞬間に誰かを殺してしまうという体験を経て、そういう常識みたいなものがどんどん失われ、見える世界がどんどん狂っていくわけです。

でも、もしかしたら、そういう暴力性をむき出しにした姿こそが真実の「人間らしさ」なのではないか…
なんてことを、映画を観ながらふと考えてしまうし、その気付いてはいけない真実みたいなものに気付いてしまいそうになる感じがとにかく怖いのです。

まさに人間が狂うのが戦争であり、自分が狂っているのか世界が狂っているのか分からなくなる悪夢のような戦争の恐怖を極限まで描いた映画。
ちなみに、個人的にこの5年間で「鉄男」「KOTOKO」「斬、」を観たのですが、「自分が狂っているのか世界が狂ってるのか分からなくなる」は塚本晋也監督の一貫したテーマかもなと思いました。

世界は実は本来そういう暴力性を持っていて、そういう暴力性を内包しながら、それを抑えて平和に生きているのが人間である。
しかし、その隠された暴力性が表出してしまうのが戦争である、ということなのかも知れません。

あと、戦争映画って何だかんだカッコ良かったりノスタルジックだったりすることもあって、娯楽映画だったらそれはアリなんですけど、「野火」はそういう余計なものを極力削ぎ落しているんですよね。
我々と同じごくごく普通の人達が(もはや役者さんだということさえも忘れてしまう)戦争に巻き込まれているし、それを普通のテレビカメラみたいなごくごく普通の映像で淡々と撮っていくから、ただただ恐怖だけが際立って突き刺さるのです。

ところで、今回の上映は、上映前に塚本晋也監督のビデオメッセージも流れていました。
2011年の東日本震災の混乱を経て、日本が戦争に近付いていくような危機感を感じた塚本監督は、戦争体験者がどんどん亡くなっていく現実を受けて、少しでも戦争の恐怖を映画で伝えようと「野火」を撮ったそうです。

あれから世の中が戦争に近づいていくような不安はさらに強くなっているけれど、毎年上映していて、この5年間に9万人もの方に観てもらえたこと、そうして戦争について考えてもらったことも、意味があることだと思うし、「野火」を撮れて良かったと、塚本監督は語りました。
塚本監督、そして再上映してくれたシネ・ウインド、ありがとうございました!
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