フランス映画『アスファルト』。
新潟ではシネ・ウインドで1/21~2/3に上映していました。
予告編はこちら。
この映画は、フランス郊外のボロい団地が舞台の群像劇です。
どのくらいボロいかと言うと、団地のエレベーターがしょっちゅう故障するので何時間も閉じ込められてしまう人が続出してしまうくらいボロいようです。
と言う訳で、映画の冒頭は、故障したエレベーターを修理するために金を出し合うかどうかを、住民が一室に集まって話し合っている、という場面から始まります。
ここで、一人の男性だけ「自分は二階に住んでいるので修理しなくていい」と言って完全に孤立してしまうという気まずい状況が、かなりコミカルに描かれます。
しかし、そんな男性はエレベーターの修理よりも、部屋の片隅に置かれたエアロバイクが気になって仕方ない様子で、話し合いが終わって部屋に戻ると、一人密かにエアロバイクを購入してしまうのです。
数日後、部屋に届いたエアロバイクを喜んで漕ぎまくっているうちに、なんと漕ぎ続けながら寝てしまい、そのことで下半身を負傷、突然の車椅子生活に・・・
車椅子になったために、エレベーターを使わないと二階に行けなくなってしまうものの、数日前にエレベーターの修理に反対した立場上、使うことも出来ずに一人葛藤する男性・・・
そんな彼は、なんと部屋のドアの隙間から一日中こっそりエレベーターを監視し続け、団地の住民全員のエレベーターの利用時間を事細かにチェックし、誰も利用しない時間を調べ上げるという驚きの行動に出るのであった・・・
・・・という、気の毒なんだけど妙に人間臭くてコミカルで可愛らしささえ感じてしまうという、笑っていいのかいけないのか分からない独特な雰囲気で、この映画は進んでいきます。
そして、この映画はこの男性だけでなく、同じ団地に過ごす3つの人間模様を同時平行で描いていく群像劇なのですが、この独特な人間臭くてコミカルな雰囲気は、この映画全体に常に漂っています。
団地の別の部屋では、一人の少年が母親と二人暮らしをしているのですが、どうやら母親が忙しいらしくなかなか会えないため母親と仲良くなれず、かと言って不良みたいな友人達の世界にも馴染めない彼は、何とも言えない寂しさを漂わせています。
そんな彼の数少ない楽しみの一つが、団地のドアののぞき穴から外を眺めて、そこに暮らす人々の生活を観察することなのですが、ある日、そんな彼の家の向かいに一人の女性が引っ越して来ます。
最初は、そんな女性をただ眺めているだけの少年でしたが、その女性が引っ越しの際に、エレベーターが動かずに困っていたりするのを見かねて、つい部屋を飛び出して助けてあげるのです。
こうして、誰とも関わりを持つことなく少していた少年と、その女性との不思議な交流が静かに始まっていきます。
さらにこの映画にはもう一つのエピソードが登場し、やっぱり同じ団地に住む一人のオバちゃんが主人公です。
どうやら彼女の息子は刑務所に入っているらしく、毎日息子に面会に行くのが習慣になっています。
そんなある日、団地の屋上に宇宙飛行士を乗せた宇宙船が不時着していくるという、まさかの超展開が発生します。
そして、そんな宇宙飛行士が助けを求めに入ったのが、先程のオバちゃんの部屋という、冷静に考えたら非情に困惑する展開が発生するのですが、オバちゃんは何だかんだ宇宙飛行士を受け入れ、ゆるい感じで二人の交流が始まります。
宇宙飛行士はオバちゃんの家の電話を借りてNASAに電話をかけると、NASAから「迎えが来るまで数日間その家で待機していてもらいたい」というまさかの通達が来たために、英語を話すNASAの宇宙飛行士と、フランス語を話すオバちゃんとのぎこちなくも微笑ましい生活が交流が始まっていきます。
僕は宇宙飛行士が不時着したとき、静かな群像劇の中に、突然あまりにぶっ飛んだエピソードが登場したので、マジかよ!?とちょっと笑ってしまったのですが、やっぱりこのエピソードも、あくまで二人の交流を軸に、あくまで静かにちょっとコミカルに進行していきます。
と言う訳で、こっそりエレベーターに乗る車椅子の男性、母親と仲良くなれない少年と引っ越してきた女性との出会い、息子が受刑中のオバちゃんと突然やってきた宇宙飛行士の交流、という3つのエピソードを軸に、この映画は進んでいきます。
やがて車椅子の男性も、夜中だけにこっそり外出する生活になるのですが、そこで夜勤の看護師の女性と知り合い、そこでもまた新たな交流が始まります。
そして、少年と知り合った女性は実は女優ということが明らかになり、彼女が出演した映画を見たりしながら二人は仲良くなっていきます。
さらに、一緒に暮らすことになったオバちゃんと宇宙飛行士もだんだん仲良くなっていって、徐々にオバちゃんの生活も明るくなっていって、受刑中との息子との関係も徐々に明るくなっていくのです。
というわけで、この映画に出てくるのは誰も不器用な人ばかりなのですが、そんな不器用な人達がそれぞれの場所で新しい誰かと出会い、ささやかな幸せを見つけていくという、とても心温まる映画でした。
また、この3つのエピソードは基本的には交わることがないのですが、最後の最後で、それぞれが同じ空を見上げているようなシーンが登場し、この映画の登場人物たちがそれぞれ同じ団地に、もっと言えば同じ世界に住んでいることが印象付けられて、この映画は終わります。
この映画を見ると、この世界に生きている人達はそれぞれ全員が出会う訳ではないけれど、それぞれの場所でそれぞれの人生で幸せを見つけて一生懸命生きているんだなあ・・・という気持ちになり、見終わった後は少しだけ優しい気持ちになれます。
とても静かな映画なのですが、もう一度観たいなあ・・・と思わせるような映画でした。