読売新聞 中国の習近平国家主席が、力による統治を一段とエスカレートさせているということだろう。
習政権が今月、「反テロ法」を施行した。インターネットサービス企業などを対象に、テロ防止のため暗号解読技術を提供するよう義務づけている。模倣されかねないテロを詳細に報じることも禁じた。
外国企業の活動規制や言論・報道統制が強化されるとの懸念が、国際社会で高まる一方である。
反テロ法はテロについて、「暴力などの手段で社会をパニックに陥れ、その政治目的を実現する主張と行為」と定義している。
中国当局が認めていない主張をしただけで処罰される可能性があるのは問題だ。テロ活動の規定も曖昧で、裁量の余地が大きい。
深刻なのは、イスラム過激派のテロ対策に名を借りて、少数民族のウイグル族の抑圧に法を恣意しい的に利用する恐れがあることだ。
施行前の昨年末には、ウイグル族政策を批判する記事を書いた北京駐在の仏誌記者が既に、事実上の国外退去処分となっている。
共産党の一党独裁下にある中国は、「法治」を掲げながらも、「司法の独立」はない。法は党の統治を徹底するための手段だ。
人権擁護に努める弁護士や活動家らを多数拘束し、一方的に弾圧している状況も看過できまい。
今月も、中国の人権問題に取り組むスウェーデン人男性を拘束した。海外の民間活動団体(NGO)などから資金援助を受けて人権派弁護士を支援し、「国家の安全を脅かした」のが理由という。
習氏は、汚職摘発で政敵を排除し、権力基盤を固めてきた。それでも依然として、民主主義や人権などの価値観が社会に浸透し、経済の減速などで国民の不満が膨らむことに強い危機感を持っているのではないか。
「一国二制度」が適用されている香港に、中国式の強権的手法を持ち込むことも容認できない。
香港では、書店の株主や店長ら関係者5人が相次いで失踪する事件が起きた。書店は、中国本土で出版や販売ができない中国に批判的な「発禁本」を扱っていた。
中国側は、このうち2人が本土にいると認めたが、自らの判断で入ったなどと強調している。
捜査権限もないのに、中国当局が香港から関係者を連行、拘束したとの批判をかわす狙いだろう。連行が事実なら、「高度な自治」を覆す由々ゆゆしい事態だ。香港住民だけでなく、世界に説明を尽くすことが習政権の責任である。