http://hrp-newsfile.jp/2019/3632/
HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆日本政府を揺さぶった、トランプの「同盟不平等」発言
G20に出かける前に、トランプ大統領は、日米同盟が不平等だと指摘し、日本政府にゆさぶりをかけました。
(※以下の発言は6月26日のFOX BUSINESSのインタビューでのコメント)
「我々は日本と同盟を結んでいる」
「もし、日本が攻撃されたら、我々は第三次世界大戦を戦うことになる」
「我々はそこに行き、彼らを守る。我々の生命と予算を費やして戦う。我々はどんな犠牲を払ってでも戦うのだ」
「しかし、我々が攻撃された時、日本は我々のために戦う必要はない」
(その時)「彼らは、その攻撃をソニーのテレビで見ているだけだ」
政府関係者やマスコミは、トランプ氏がG20を前にして、急に大統領選の頃のような同盟否定論を語ったことに驚きました。
大統領になった後は、持論と現実との落差を知り、トランプ氏も「丸く」なったのではなかったのか――。
この発言は、そうした想定に「揺らぎ」を与える一撃だったからです。
◆トランプの本音は変わらない
こうした発言は、大統領選の頃から、トランプ氏が繰り返し語ってきた持論ではあります。
しかし、トランプ氏は、大統領になった後は、日米首脳会談などで同盟堅持を表明し、歴代政権に近い立場を取ってきました。
2018年までは、マティス国防長官(当時)のように、同盟を重視する軍人閣僚が政策を支えていたので、トランプ氏はこの種の発言を減らしていましたが、最近は、日本への不満がたまり、また本音を語り始めています。
その不満の典型は「中国や日本は、ホルムズ海峡を通る自国のタンカーを自国で守るべきだ」という主張です。
24日のツイッターでは「中国が輸入する石油の91%はホルムズ海峡を通る。日本の石油の62%もそうだ。どうして米国は、こうした国々のために代償なしでシーレーンを守る必要があるのか」と書き、「米国は世界最大のエネルギー生産国なのだから、(この海峡に)とどまる必要さえない」とまで述べています。
日本は、米国に安全保障を依存しすぎていると考えているわけです。
◆日米同盟は「かつてないほど強固」ではなかったのか?
ただ、こうした本音を語っても、トランプ大統領が、すぐに同盟破棄のために動く可能性は低いでしょう。
現在、対決している中国が最も嫌がっているのは「日米同盟の抑止力」です。
北朝鮮にとっても、同盟を根拠に日本に展開する在日米軍は、大きな脅威になっています。
ここで同盟を解消すれば、中国と北朝鮮が手を叩いて大喜びするだけだからです。
5月の訪日時に、トランプ大統領は、米国の強襲揚陸艦「ワスプ」の上で「同盟はかつてないほど強固だ」と述べています。
訪問した横須賀基地は「鉄壁の日米協力のあかしだ」とも語りました。
結局、トランプ大統領は「同盟は必要」という現実を認めながらも、本音を語ることで、同盟国に、安全保障への「本気の取組み」を求めています。
また、威嚇をちらつかせることで、日米通商交渉を有利に進めようとしているのです。
◆「日米同盟は不公平」と主張するのはトランプ氏だけではない
こうした「日米同盟は不公平だ」という主張は、トランプ氏だけが言っているわけではありません。
古森義久氏(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)は、議会からもそうした声が出ていることに注意を喚起しています。
JBプレスの記事で「日米同盟は不公正であり、日本は憲法を改正して集団自衛権の完全行使を可能にし、米国を支援すべきだ」と主張してきたブラッド・シャーマン議員(民主党)が米下院の外交委員会で要職についたことを紹介していました。
この人がアジア太平洋を扱う「アジア太平洋・核不拡散小委員会」の委員長に就いたので、日本は、もっと防衛努力が要求されるだろうと指摘しているのです。
◆「集団的自衛権の限定容認」の限界
しかし、安倍政権は「集団的自衛権」の限定容認がなされたので、有事に米国を支援できると考えているのかもしれません。
ただ、その要件をみると、実際は、米国が攻撃されただけでは、集団的自衛権を使えないようになっています。
現状では、日本にとって「国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がない限り、米国が攻撃を受けても、集団的自衛権を使う条件は整わないのです。
世界最強の米国が被害を受けても、日本に前掲の「明白な危険」が生じないことは十分に起こりえます。
この場合は、米国大統領が参戦を求めても、集団的自衛権を使えない事態が発生しうるわけです。
(例えば、2001年にワールドトレードセンターが崩落しましたが、これで直接、我が国に被害は出ないので、「日本の存立が脅かされた」と言えるかどうかは疑問です。どこかの反米国が自国の工作員を用いて米国の重要施設にテロ攻撃をした程度では、前掲の「集団的自衛権を行使する要件」が満たされない可能性があります)
こうした仕組みができているのは、日本の政治家が「米国の戦争に巻き込まれる」ことを避けようとしたからです。
「無駄な戦争に巻き込まれたくない」というのは、もっともな話ではありますが、その反面、日本は、米国にとって「当てにならない同盟国」になっているのも事実なのです。
◆年間伸び率1%の防衛費で「ゆるぎない防衛力を整備する」?
米国のもう一つの不満は、日本の防衛費が少ないと言うことです。
トランプ政権は、NATO加盟国に「GDP比で2%の防衛費負担」を求めているので、GDP比1%程度の防衛費は、とても小さく見えるはずです。
安倍政権は、防衛費を増やしましたが、規模が小さく、物価も上がっているので、実際は、たいして変わっていません。
防衛白書(H30)によれば2014年から18年までの防衛関係費の増額は3063億円。
伸び率は約6.3%です。
しかし、同時期の物価は約2.1%上がっているので、実質で見た防衛費の伸び率は4年間で4.2%。
年間伸び率は1%程度にすぎません。
自民党の「ゆるぎない防衛力を整備する」という公約は、もはや看板倒れです。
※上記計算
・5兆1911億円 −4兆8848億円=3063億円。3063億÷4兆8848億で6.27%
・消費者物価指数〔食料及びエネルギーを除く〕で15年を100とすると、14年は99.2、18年は101.3なので、物価は2.1ポイント増。
◆日米同盟を本当に機能させるために
トランプ大統領は「日米同盟は不公平だ」と考えながらも、すぐに破棄する動きは見せていません。
そのため、同盟の機能を改善すれば、米国側の不満を解消することは可能です。
安倍政権は、集団的自衛権の限定容認や安保法制でよしとしていますが、実際は、集団的自衛権の「行使の要件」や防衛予算などに不備があります。
防衛法制に関しても、決められた範囲でしか自衛隊が動けないという問題があり、同盟強化の妨げになっています。
(例えば、2010年には、インド洋での米軍に給油活動をしていた自衛隊が、法律失効のために帰国を余儀なくされたことがありました)
トランプがいうホルムズ海峡のタンカー防衛にしても、いちいち根拠法をつくらなければ守れないのが現状です。
こうした法制度では、想定外の出来事が続く有事には、対応しきれなくなる危険性があります。
本当は、今後も改革を続ける必要があるのですが、自公政権は、その先に進む勇気がありません。
しかし、幸福実現党は、その先にある道を開きたいと考えています。
より有事に対応できるよう、諸外国と同じように「集団的自衛権の全面的な行使」が可能な体制をつくらなければなりません。
また、主要国の多くがGDP比で2%程度の防衛予算を使っていることを踏まえ、防衛費を倍増させるべく、力を尽くしてまいります。
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