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「偽装みなし労働」不払い残業代請求訴訟における7.2不当判決について(下)

2010年07月23日 09時59分43秒 | 添乗員・旅行業界

7月2日の東京地裁民事第36部田中一裁判官の判決。自ら労働時間を「算定」しておきながら、「事業場外みなし労働」を容認するという「離れ業」。
今回は、田中裁判官がなぜ「みなし労働」を是としたのか、その判断について検証します。
以下は前回の検証文の続きです。

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第二 事業場外みなし労働時間制容認=「添乗業務は労働時間が算定し難い」の「根拠」が不明であること

 1.「事後の労働時間の算定可能」であっても労働時間は算定し難い
まず田中裁判官は、労働時間が算定でき、かつ裁判官自身が労働時間算定作業を行っているにもかかわらず、「『労働時間を算定し難いとき』かどうかと事後的に裁判所がどのように労働時間を認定するかは、別個の問題である。事後的に労働時間を認定できる場合であっても、『労働時間を算定し難いとき』に該当する場合はあり得る」として、「みなし労働」を容認するのであるが、なぜそう言えるのか、どのようにそう判断したのか、まったくその理由・根拠を明らかにしていないのである。
 
 2.「具体的な指揮命令」下にあることが必要
また、「労働時間を算定し難いとき」は客観的に判断されるべきであって、使用者が主観的に困難と考えるかどうかは影響しない、とする原告の主張に対しても、「確かに、労基法上の労働時間は、労働者の行為が使用者の指揮命令下におかれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものである。しかし、事業場外みなし労働時間制が適用になる場合でも、労働時間である以上、労働者が使用者の指揮命令下にあることは当然であり、問題は具体的な指揮命令下にあるか否かであり、指揮命令下にあるから、『労働時間を算定し難いとき』に該当するということはできない」と切って捨てている。しかし、では「具体的な指揮命令」とは何なのか、それが全く示されてはいないのである。
  
 3.自己申告を一方的に排除
 労働時間算定においては、自己申告による方法が認められている。会社においては、帰着後に日報に記載された時刻を確認することで、この自己申告により労働時間を把握することが可能と言える。
 しかし、田中裁判官は「自己申告制によって労働時間を算定することができる場合であっても、『労働時間を算定し難いとき』に該当する場合があると解される。なぜなら、もし自己申告制により労働時間を算定できる場合を事業場外みなし労働時間制から排除するとすれば、事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうからである」と切って捨てるのである。
 
 4.小活
  以上のことから、また、特に前項の自己申告制を排除した判断の部分に、田中裁判官の本質が表れている。田中裁判官はまず「みなし労働」の維持というところから問題を立てる。前記「労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまう」、また、通信手段の発達により、「みなし労働」の適用は限定的な場合に限られるものになるはずであるという原告の主張について「(このような主張が認められるのであれば)電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず」として切って捨てていることからも明らかである。
 
第三 「みなし時間は11時間」の「根拠」が外形的であること
そして、判決では、「『みなし労働』が適用される以上、実労働時間を認定したとしても、それはあくまでも『みなし労働』上の『通常必要とされる労働時間』が不足している」との判断で、「みなし労働を前提とした不払い」という虚構を作り出しているのである。

しかし、「みなし労働」と「不払い残業代」を両立させるという矛盾をむりやり正当化しようとしているため、なぜ「通常必要とされる労働時間が11時間なのか」につき、明らかに外形的な判断を行うという無理を重ねているのである。
 
それは、以下のようなものである。
 1.旅行業約款(お客と旅行会社との契約文書。添乗員の労働について定めている雇用契約書ではない)記載の「サービス提供時間」である8時から20時の12時間から法定の休憩時間(実際、添乗員は1時間の休憩はとれていない)1時間を引いた時間は11時間である。
 2.2008年11月1日付で、会社と従業員代表が「みなし労働」についての協定書を作成し、これに多くの賛同者がいる
第2組合(阪急トラベルサポート添乗員労働組合)東京支部長が、労働時間を11時間とみなすことが妥当であると通知書を提出している。
 3.自分で計算してみたらおよそ11時間だった。

まとめ
 前述の2010年5月11日鈴木拓児判決では、労働時間が認定できるから「みなし労働」は適用できない、会社が過去に時間把握を行っていたかいないかではなく、客観的、社会通念上、時間把握ができるかどうかが「みなし労働」適用の可否を決めるとの趣旨で、実態に即した「みなし労働」は適用できない、との判決をくだした。そして、「みなし労働」はあくまでも例外である、とも判断している。
 それと比較し、今回の田中裁判官は、前述したように、「まず『みなし労働』は適用される」との前提から問題を立てている(なぜそのように判断したのかの理由・根拠は示されていないが)のである。
 実態に目をつぶり、観念論および矛盾だらけの判決、そう断じざるを得ない。満腔の怒りをもって、この不当判決に抗議するものである。

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私たち東部労組・HTS支部は、このような添乗員の労働実態とかけはなれたデタラメな判決に屈することなく、控訴審(7月7日、控訴しました)で争っていきます!

引き続き、全国の添乗員のみなさんの激励、ご支援、お願いいたします!

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8 コメント

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だって (Unknown)
2010-07-24 00:32:20
裁判官さんのようなお金持ちはトラピの様な貧乏暇なしツアーに参加した事ないから・・・いつものヴァカンスは高額ゆったりツアー。で同行添乗員はフリータイム時OPにPAX送ってのーんびり。そんなツアーにしか参加してないから、いくら言っても想像できない。一度トラピツアーにご招待してさしあげれば、いかに庶民対象薄利多売ツアーが酷いか、理解できるでしょう。もちろんお客様からの深夜のしょーもない電話もその度に連絡して申告します。現場を知って頂く為には是非必要だと思うのですが・・・やっぱ現場検証が必要です。
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スイスの事故 (Unknown)
2010-07-24 15:22:59
他人事ではないです。
阪急の添乗員さんは39人ものお客さんを連れていたと報じられています。
スペインの時もそうでしたが、大人数のグループは非常時の対処も速やかには出来ないと思います。
JTBでも40人とかありますけど。
もしも自分の親を参加させるなら、やっぱりこんなツアーには参加させないです。
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スイス列車転覆事故 (Unknown)
2010-07-24 18:50:27
スイスの列車転覆事故、他人事ではありません。
亡くなられた方、負傷した方、事故で怖い思いをした方々に心からご同情申し上げます。
3つの会社の添乗員の方々はどんなに辛い思いをなさったでしょう。本当に大変でしたね。
身体に怪我がなくても精神への打撃は相当なものがあるはずです。旅行会社も派遣会社も今後のお客様・添乗員へのサポートやケアーをしっかりやって頂けることを切に願います。まさに「労災」に違いないのですから。
返信する
海外ツアーにおける事故 (o.m)
2010-07-26 21:55:25
私はフランスの現地旅行係員です。スイス列車転覆事故の記事を読みましたが、ANA S JTBのコメントはありましたが、事故にあった日本人観光客の総数と合わず不思議に思っていました。阪急のグループ39人がいた事を上記コメントではじめて知りました。

07/22 ある添乗員さんから受け取ったメール*********
本当に添乗員の仕事が嫌になって来ました。●●●は若者が多かったからやりやすかったのですが、最近年配が多くて。
最近のエジプトでJTBのバス事故とかも添乗員がきちんっとシートベルトをするように言っているかどうか問題になっているらしい。エジプトや中国は運転が乱暴だから本当にいつ事故で死んでもおかしくない状態です。この間、同僚がエジプト添乗中にお客さんが倒れたのだけれど、添乗員とガイドが日陰で説明しなかったのが原因として●●●に帰ってクレームをあげています。それを●●●の担当者はうのみにして添乗員に落ち度はなかったか確かめたそうです。だいたい気温が50度近くになるエジプトと知りながら、旅行代金が安いからと参加して70代の人が倒れても不思議でないですよね。私は明後日から南イタリア添乗だけれど、90歳のおばあさんがいます。気温が35度あるし心配です。おかしいのですよ。今の旅行業界。自信ないです。何かあったら、責任はすべて添乗員って感じです。トホホ
**********

07/23 日本のある機関に送ったメール(部分)**********
現在行われている阪急の添乗員さん達の訴訟に絡んで「日本の添乗員さん達が海外において、旅行会社に1日15~6時間の過重労働を強いられ、それに伴い当然 現地係員の私達は仕事を失う。」この矛盾の要因は、日本の旅行商品の「価格競争の激化」に因るもので、「価格競争」の為に、フランスにおいては日本の旅行業界が仏の法令を無視している事を証明する為、基本となる外国人の「入国滞在法」「就労法」「違法ガイディング」和訳をメールしました。こうした法令は日本にもフランス以外の外国にも存在すると思います。
厚労省に関しては受信確認メールも来ません。明らかに仏の法例文の受領を回避する姿勢と解釈せざるを得ません。
こうなると日本においては外国に住む数百人 フランスにおいては数百人の外国人労働者の問題では無いと思います。
フランスでは日本の旅行会社のコストダウンに応じる為
・現地係員削除、あるいはポイント・ガイド/アシスタントと言って移動は日本の添乗員さんが単独で引率し現地にガイドやアシスタントを配置。
・フランス パリ市内の主要道路も知らない東欧のバス会社を手配したり
と、価格競争が激化する以前には想像も及ばない手配が行われています。
05年のモンサンミッシェル事故以降も マレーシア今年に入ってからはオーストリア エジプトで日本の旅行会社主催のツアーの観光バス事故が起こっている様ですが
コストダウンの為に無理な手配を行っていなかったか?
就労法違反や違法ガイディングによって添乗員に過度な負担を負わせ、事故発生とともに担当添乗員に降りかかる更に大きな負担!主催旅行会社の責任はバス会社や添乗員に転嫁していないでしょうか。
事故の再発防止の為にまずは
・各国での法令は守られていたか。
・手配自体に無理は無かったか。
この点から事故原因調査を行わなければ事故再発防止対策は何の意味もなさないと思います。
私達数百人、日本の添乗員さん達全員の不利益と同時にこれらの格安価格の宣伝につられて、ツアーに参加する一般消費者の不利益を見逃してはならないと思います。
旅行主催会社の「安全管理の不備」という視点に立って、日本の行政機関は真剣に取り組むべきだと思います。
**********

07/25 JATAに送ったメール(部分)**********
旅行商品の価値は現場に働く、 添乗員 現地係員によって形成されると思います。
旅行商品の「価格競争」が激化と同時に
添乗員さん達は海外で過重労働となり、それによって私達は仕事を奪われる、あるいは賃金を含んだ悪労働条件を強いられる
これは現場に働く私達の不利益同時にツアー参加者の不利益でもあると思います。
ノーマルな旅行商品価格(現在では高額商品になってしまいました。)であるJALPAK、I'llやJTBのLOOK 等、フランスに関しては、従来通りにフランスの法令を遵守した現地係員付き旅行商品は限界に達しております。
 昨日24日もスイスで列車事故が起こり、騒然とした様子を新聞記事で読みました。
以前は、各社に完備された現地緊急連絡網で私達現地係員も傷病 盗難事故と日本語のヘルパーが必要な場合、早朝深夜を問わず、現場に駆けつける体制がありましたが
現在は緊急連絡先、各社ツアーDESK等が大幅に縮小廃止され、不足の事態において困難を極めているのではないかと想像しております。
以前通り、ツアーに必ず現地係員が付いていれば未然に防げる事故やクレームは沢山あります。
不足の事態も臨機応変な対応ができる体制があれば旅行会社の「ツアーの安全性の確保」の責任を果たせると思います。
**********
これまでも、各種行政機関とメールコンタクトしていますが「詰め」の段階に入ろうとするとコンタクトが途絶えます。
行政機関というのは国民全体のものでは無く、大企業の為のものという印象です。
今回の上記判決も、一般から見て「公正中立の立場」みたいな「見せかけ」の判決でその実「企業擁護」としか受け取れません。
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Unknown (Unknown)
2010-07-29 14:02:25
いまさらながら、登録制であるからいけないんですよ、この業界。お客様もびっくりするんじゃないですか、添乗員が毎回の契約で雇われてる日雇いみたいな人間だと知ったら。。。
日雇いなら、いやな事あったら、さっさとやーメタ、といって帰ることが出来る。今まで、そうして来なかった人ばかりだと思うけど、時代も待遇も変わって来ている今、いつ、そんな事が起きるやら....
返信する
Unknown (Unknown)
2010-07-31 02:58:25
阪急交通社営業の方々へ
いったい、ツアー中のいつが、休憩になるんですか?
これって、誰の?指示ですか?
休憩を作るなら、私たちでなく、お客様に指示出されたらいかが??
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Unknown (Unknown)
2010-07-31 14:42:34
本日17時半からTBSテレビにて 「旅行会社の補償問題」として過去に事故にあった人などの証言などを放送されます。
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Unknown (Unknown)
2010-08-08 02:02:39
そもそもみなし労働の規定なんて撤廃すべきだと思います。
私も営業職ですが、昼の休憩時間を惜しんでまでも営業職は大多数があくせく働いています。
逆にみなしの適応の無い社内の事務職の方が昼休憩を1時間十分に取り、お茶やタバコの休憩をとりながら夏は冷房、冬は暖房の環境で働いています。営業自分のミスではないのに場合によってはお客さんから罵倒され、平謝りをして神経をすり減らしているにも関わらず、何時間働いても事業場外にいる限りみなしが適応されるというのはどう考えても不合理です。
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