蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

『アンナ・パヴロワ』 (関西公演)(1922.10)

2020年07月03日 | バレエ 1 アンナ・パヴロワ 

   

 アンナ パヴロワ
 
  パヴロワ夫人について
        ホノルヽにて 三浦環 しるす

〔口絵写真〕

       

 ・瀕死の白鳥 
 ・六つの花 
 ・妖精 〔上の写真:左から1枚目〕
 ・アンナ・パヴロワ 〔同 2枚目〕
 ・ヒルダ・バストウ 〔同 3枚目:『サンデー毎日』第一年第廿四号の表紙のもの〕 
 ・六つの花 
 ・蜻蛉
 ・新築の帝国ホテルにて 花が花につゝまれて 〔同 4枚目〕
  
目次

 ・序文

 今の世界に、たつたひとつ咲き出た花、それは人間のもつ「美しさ」の最高を表現するアンナ、パヴロワ夫人のことです。おゝ、われわれは今日が日まで彼女の來れるをどれほど待ちわび待ちこがれてゐたことであらう。
 「舞踊の女王 レエヌ、ド、ラ、ダンス」とフランスの人々が捧げる讃仰の言葉はやがて同じくわれゝがとなふる言葉となるでありますせう、洵 まこと や、彼女の舞踊は、ことにそのトウダンスは彼女にして、はじめて完成されたものなのです。
 舞踊會は開らかれた。美しい、びろうどのやうな夢は、彼女の踊である。それがいつまでもゝ覺めぬ記念のために‥‥‥。

 ・アンナ・パヴロワ夫人招聘に就て 松竹合名社 白井松次郎

 上演曲目解説
 
  ▲パヴロワ夫人露國舞踊劇 一座 〔技芸員 音楽指揮 等の人名表〕

  舞踊小品目録    

  パヴロワ夫人獨演舞踊

    瀕死の白鳥           ‥‥‥ サンサン     作曲
    ゼ、ドラゴン、フライ(蜻蛉)  ‥‥‥ クライスラー   作曲
    カルホルニヤの罌栗       ‥‥‥ チヤイコウスキー 作曲
    夜               ‥‥‥ ルービンスタイン 作曲
    ロンド             ‥‥‥ ベトーヴェン、クライスラー 作曲
    萎み行く薔薇          ‥‥‥ チヤイコウスキー 作曲
    舞踏              ‥‥‥ クライスラー   作曲

  パヴロワ女史 ヴオリニン氏 二人舞踊 

    悲調なるウオルツ        ‥‥‥ シベリウス    作曲
    ガヴオツト、パヴロワ      ‥‥‥ リンケ      作曲
    バツキヤナル          ‥‥‥ グラヅノフ    作曲
    ウオルツ、カプリス       ‥‥‥ ルービンスタイン 作曲
    クリスマス           ‥‥‥ チヤイコウスキー 作曲
    二人舞踊            ‥‥‥ 同上
    時の経過            ‥‥‥ ポンキエリ    作曲

  ヴオリニン獨演舞踊

    ピエロツト           ‥‥‥ ドウボルシヤツク 作曲
    シムバルの舞踊         ‥‥‥ グウノー     作曲
    弓と矢             ‥‥‥ チヤイコウスキー 作曲

  座員の舞踊

    勾牙利のラプソヂー       ‥‥‥ リスト      作曲
    マヅルカ            ‥‥‥ グリンカ     作曲
    オーベルタス          ‥‥‥ レワンドウスキー 作曲
    希臘舞踊            ‥‥‥ ブラームス    作曲
    ゴパク             ‥‥‥ セロフ      作曲
    幻影              ‥‥‥ ベルリオツ    作曲
    ピヂカトー           ‥‥‥ ドリゴ      作曲
    センチメンタルなウオルツ    ‥‥‥ シユーベルト   作曲
    音樂的な瞬間          ‥‥‥ 同上
    牧踊              ‥‥‥ シユトラウス   作曲
    ツアルダヅ(勾牙利舞踊)    ‥‥‥ グロツスマン   作曲
    三人舞踊            ‥‥‥ シユトラウス   作曲
    アニトラの舞踊         ‥‥‥ グリーク     作曲
    和蘭舞踊            ‥‥‥ 同上
    ミニユエツト          ‥‥‥ パダレウスキー  作曲
    シーン、ダンサント       ‥‥‥ ボツケリーニー  作曲
    アン、スールダン        ‥‥‥ テラム      作曲
    春の聲             ‥‥‥ シユトラウス   作曲
    火の鳥             ‥‥‥ チヤイコウスキー 作曲
    ボヘミヤ舞踊          ‥‥‥ ミンクス     作曲
    藍色のダニユーブ        ‥‥‥ シユトラウス   作曲

 〔役割、梗概等〕 

 舞踊劇 アマリラ   一幕  
 舞踊  シヨピニアナ 一幕
 舞踊劇 コツペリア  一幕
 舞踊劇 六つの花   一幕
 舞踊劇 花の眼覺め  一幕
 舞踊劇 魔笛     一幕
 舞踊劇 秋の木の葉  一幕

     パヴロワ夫人自作
     シヨパン作曲

  役割

  菊花           ‥‥‥  パヴロワ夫人
  若き詩人         ‥‥‥  ヴオリニン氏
  秋風           ‥‥‥  ドモスラウスキー氏
  秋の木の葉        ‥‥‥  スチユアート嬢
                   グリフ井ス嬢
                   バートレツト嬢
                   フリード嬢
                   レーク嬢
                   コールス嬢
                   グラインド嬢
                   ロヂヤス嬢
                   フエドローヴ嬢
                   イグネス嬢

  梗概

 この美しい新作は、最近倫敦 ロンドン でも當りを取つたもので、パヴロワ夫人自作の舞踊劇に、シヨパンの音樂を採り入れたのである。
 この物語の比喩的人物は、霜に殘つた最終の菊の花(これをパヴロワ夫人が勤める)と、美しい園の芝生に吹き渡つて、落葉を空に舞ひ揚 あが らしめ、果して無惨にものその楚々たる菊の花を引ンむしらうとする野分の風とであつて、風は荒々しく臥床 ふしど から花を叩き起しては、またも地面に叩きつけ、散々に責め臠 さいな む。
 すると、詩人が遣つて來て、打ち萎 しほ れてゐる菊の花を見て、哀れを覺え、優しく抓み上けて其引き裂けた花瓣 はなびら を撫で直し、之に接吻をする。其處へ、情けを知らぬ野分が又出て來て、容赦なく詩人の手から菊の花を捥 も ぎ取り、地面に投げつける。
 詩人は花の泉の傍 そば へ連れて行つて、苔 こけ 蒸した其堤 どて の上に徐 そつ と寝かせ、少し許 ばか り離れて讀書を初める。
 風が執拗 しうね くも又花を引つ捉へて、これは秋の木の葉の雲の樣に舞つてゐる中に投げ遣 や る。木の葉は恰も無慈悲な風に加勢するものゝ樣に、投げ遣り、投返し、思ふまゝに弄 もてあそ んで其花瓣を引き裂きます。詩人は之を救ひ出して遣らうとしたのですが、丁度其處へ美しい若い娘が遭ひに来るので。其心は、最早娘の外何物もなく、可憫 かれん な菊の花の事などは直 すぐ に忘れて、二人は樂しげに歩み去る。花は頓 やが て落葉下に葬られるべき運命を以て、沈み行く日光の下に徐々に萎 しな んで行く。
  
 舞踊劇 波蘭土舞踊  一幕
 舞踊  メキシコ民謡 一幕
 舞踊劇 眠れる皇女  一幕
 舞踊劇 魔の池    一幕

     シユーベルト作曲
     クルスチンスキー振付
     バルダス背景装置

  役割

  水精の女王        ‥‥‥  スチアート嬢
  夜            ‥‥‥  ニコロフ氏
  其友達          ‥‥‥  サレウスキー氏
                   オリウエロフ氏
                   ドモスラウスキー氏
                   アルジエラノフ氏
  水の精          ‥‥‥  グリス井ス嬢
                   コールス嬢
                   シエフ井ールド嬢
                   フノード嬢
                   レーク嬢
                   グラインド嬢
                   ロヂヤス嬢
                   ニロルス嬢

  梗概

 古い獨逸の傳説に、若い美しい皇女があつて、之を妻にしやうと申し出 い でる若い男があると、其男には先づ何か目ざましい勇敢な舉動 ふるまひ か、但しは人間の出來ないやうな業 わざ をして見せよと求めた、といふことを傳へ居る。
 この皇女を深くも戀ひ慕へる若い勇士があつて、皇女の仰せなら、何でも爲 し てお目にかけると申し出 い でた。すると、皇女はこの男に、魔の池に秘 かく されてある眞珠の頸飾 くびかざり を取つて來て呉れと命じました。其處で此男は之を捜しに出かける、いろゝな危険を冒し、さまゞな苦難に打ち捷 か つて、とうゝ魔の池の緣 へり に行き着くと、アンダイン(女性の水神)の多勢が出て來て彼を觀迎する、其中の女王が男の美しさと若々しさに心を動かし、且つ其非凡なる勇気に感心して、男に助勢する事を約束し、其家来のアンダインに言ひつけて、名高い眞珠の頸飾を持ち來 きた らせて件 くだん の若い男に贈る。
 これには露國に名のある音樂家アレンヅ氏が、ロマンチツク音樂の王たるシユーベルトの最も美しいロマンス中から取つて、この傳説に當箝 あては め、尤 もつと も藝術的な效果ある管絃樂を作成した。

 舞踊劇 仙女人形   一幕

     バイエル其他作曲
     クリスチン振付
     ドブヂンスキー背景衣裳考案

  役割

 第一場

  店主           ‥‥‥  ザレウスキー氏
  店員           ‥‥‥  ヴジンスキー氏
  英國人          ‥‥‥  ドモスラウスキー氏
  其妻           ‥‥‥  グラインド嬢
  田舎客          ‥‥‥  ピアノウスキー氏
  其妻           ‥‥‥  フリード嬢
   人形
  仙女人形         ‥‥‥  パヴロワ夫人
  赤兒人形         ‥‥‥  ブソオーワ゛嬢
  詩人人形         ‥‥‥  ピアノウスキー氏
  墺太利人形        ‥‥‥  スチユアート嬢
  道化人形         ‥‥‥  アルジエラーフ氏

 第二場(人形の回生)

  西班牙人形        ‥‥‥  グリフ井ス嬢
  陶製人形         ‥‥‥  コールス嬢
                    シエフ井ールド嬢
                    レーク嬢
                    グラインド嬢
  テロル人形        ‥‥‥  スチユアート嬢
  アーキタライト      ‥‥‥  ロヂヤース嬢
  鉛の兵隊         ‥‥‥  アルヂエラノフ氏
  或る國民の形       ‥‥‥  バートレツト嬢
  ベルジエーとベルジエール ‥‥‥  ニコルス嬢
                    ブツオーワ゛嬢
                    ワ゛ジンスキー嬢
  二人舞踏         ‥‥‥  パヴロワ夫人
                    ヴオリニン氏
  幕切のギヤロツプ     ‥‥‥  全員

  梗概

 所が仏蘭西の或町、時は千八百三十年頃である。
 或る人形師の店にあつた傑作の人形が或英國人に買はれて行くことゝ爲 な る。人形の値は非常に高價であつたが、夫 それ にも拘 かゝは らず買手のあつた程に美しい名作であつた。
 其の夜遅く、人形は愈々明日仲間の人形と別れることに爲るので一同と踊らうと思ひ箱から出、魔杖 まぜう を揮 ふ ると、一同に魂が入り、一同は夫々特色ある舞踊を演じ、そこには舞踊のカーニワ゛ルが見られる。 

 世界の一つの花
     - アンナ、パヴロワ夫人のことども -

 花の完全にひらくのは、その種の力による事ながら、又蒔かれた土地の環境によつて、その光彩が違ふ。
 アンナ、パヴロワ夫人は生れながらにして藝術的天稟 てんりん の所有者であつたであらうが、然し彼女が若しも富裕な家庭に育ち且つ成人するまで父をもつてゐたならば、或 あるひ は必ずしも今日の如き舞踊家としての名聲を得られなかつたかも知れない。
 時勢と境遇と天稟。この三要素が凡ての偉人を作る。ゝとは
 若しもパヴロワの舞踊的發心が、世界の舞踊界に於ける革新の夜明けの時期でなかつたならば、ノヴエツル或 あるひ はコリンス以上の舞踊家にはなれなかつたかも知れない。又元より日本などに來て其技を示すなどゝは夢にも思はない事柄であらう。
 詮 つま り彼女が若し貴族少女として生れ落ちて居たならば、當時の如き未だ幼稚なる照明法の劇場電燈や周圍の色彩などにあの樣に胸を轟 とゞろ かせはしなかつたに相違ない。のみならず八歳の時まで劇場を知らず、母の膝を突つゝいて、此處は何をする處などゝ質問はしなかつたであらう、貧しい貧しい母、眞に赤貧な母の手一つに、何等肉身の賴 よ るべも無く育てられた母の慈育に依つて、「神」と「神秘」に對する第一發の尊い信念が釀 かも されてゐた事は爭 あらそ はれない。
 九歳のとき、パヴロワはペトログラードの帝室舞踊學校へ二百何十人といふ入學志願者の中から選抜された八人の首席として入學したのである。それから彼女は、實によく勉強した、そして十七歳の時その學校を卒 を えた。それから三年にして彼女は皇帝の命令で帝室付き舞踊團の踊手にさせられた。これほど早い抜擢は極くゝ稀な場合とのことである。
 それからパリー、ヴイエンヌ、ベルラン、ミラノをめぐつて、各地のダンスを研究したが、遂にロシヤの舞踊 バレエ には及ばないとの自信を得たので、こんどは皇帝に願つて、一座を組織して各國へ自國の優れたバレエを示さうといふので千九百十年以来、世界へ、ロシヤ藝術の宣傳をする意味をもつて出發したのであつた。
 彼女が第一に出掛けたのは、ストツクホルムである。毎夜の如く彼女の愛好者は熱狂した。
 國王自身も毎夜臨席し、出發の前夜は宮廷へ招いて特別の謁見をした。それから巴里、ロンドン、伯林、到るところで豫想以上の成功であつた。
 エドワード七世王が彼女を推稱し出したのもこの時代からである、アメリカ人が強 し ひて彼女を迎えるために努力したものこの時からである。西班牙王が微行でロンドンの劇場で彼女に自國へ來るやうに慫慂したのもそれからである。
 その間、一度本國へ歸つたパヴロワは、首都で演じてゐる一夜、皇帝はわざゝ自席へ彼女を招いて多くの讃辭を與へ、特にロシヤ藝術のために彼女が世界に於いてなした宣傳のために深く謝した。
 アンナ、パヴロワ夫人が歐米にて上演する作品は、すべて謂ふところのロシヤバレーに出發して「彼女のみの舞踊」であるのだ。
 イサドラ、ダンカンの舞踊が「魂の言葉」といふに對して、パヴロワのそれは「胸の言葉」の表現と云ふ。だけ、それだけ人間的な舞踊手であるのだ。
 私は前に環境が偉人を作るといつた。パヴロワの此場合に於いても八歳の頃から既に立派なる此「愛らしきいばら」(お伽劇にして音樂は凡てチヤイコウスキーが作曲したもの)と音樂を聞き得る環境を有してゐた。一口に云へば露西亜の大樂人チヤイコウスキーがパヴロワの精靈を目醒ましたといつてもいゝ譯である。
 その意味に於いてに日本などはいくらいゝ時代が到來しても、天才が芽ぐまれても、よき環境を有せぬために空しく枯れて了 しま ふ藝術家が幾 いくばく あつたか分らないであらう。
 然しながら一面天才はたゞに時勢や環境ばかりに依つてのみは成功されない。此處に大なる勤勉と努力の關一つがある。パヴロワも眞によき努力と勤勉の婦人であつた。室内を歩む一瞬間の間にも、何かを攫 つか まなければ止 や まない程の考察を遂げた。注意深くものを見たそして考へた。
 或時、パヴロワがその女中に、「お前は何處まで、私と一緒に旅興行のつらい旅をしやうとお云ひだ」と聞くと女中は「生活の苦惱を一ト時でも忘れて居られる樣に先生が踊つて見せて下さいますから‥‥‥どこまでゞも」と答へた。
 パヴロワは此女中の答へ、無教育な露西亜の答へからでも、生涯忘るゝ事の出來ない藝術上の金言を見出したといふ。
 世界に咲きでた、たつた一つの美しい花とうたはれ「天下無双」「舞踊の女王 レエヌ・ド・ラ・ダンス 」「見えざる翼 つばさ の人」といつた讃辭も彼女にとつてすでに久しいものである。
 そのうらにはこれだけの苦心がひそんでゐたのだ。
 それを忘れてはならない。それを忘れてはならない。

 

 關西公演日 〔※は、下の半券の記載による追加〕

   地   時              處
   
   名古屋 十月四日(水) 五日(木)                   末廣座  
   大阪  同 六日(金) 七日(土) 八日(日) 九日(月) 十日(火) 角座
   京都  同十八日(水) 十九日(木) ※二十日 ※二十一日       南座 
   岡山  同廿一日(土) 廿二日(日)                  岡山劇場
   廣島  同廿三日(月) 廿四日(火)                  壽座
   門司  同廿八日(土) 廿九日(日)                  凱旋座
   福岡  同廿六日(木) 廿七日(金)                  大博劇場

       毎夕七時三十分開演  

後記

 本誌定價
    一部 金参拾錢
 大正拾壹年九月廿八日發行 
 編輯兼發行人 千葉吉造 
 發賣所 松竹合名社



 大舞踊觀覧券
     アンナ・パヴロワ夫人
   學生券 金貮圓
        御一名
  十月十八・十九・二十・二十一日毎夕七時開演
     京都 南座 四條

 〔下は、「瀕死の白鳥を演ずるパヴロワ」:『京都音楽史』より〕

 



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