蔵書目録

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「卒業すると一人」 松井須磨子 (1912.2)

2012年03月21日 | 演劇 貞奴、松井須磨子他

    

    卒業すると一人 

 私の過去又は周囲に、何か小説的な話はないかとのお尋ねでございましたが、全体私は小説や芝居に出て来る様な、小説的な女でもなんでもないのですから。只昔気質な両親に厳格に育てられたと云ふ事以外には、何もございません。
 文芸協会へ入会致しましても、女よりは男の方の方が多いのですが、男女とも真面目なブツキラボウのお揃ひですから、別段之れと云ふことは一向ございません。でも何かすると、大勢で口を揃へて、私達の悪口など夫 それ はもうひどい事を仰る時がございます、随分たまりませんけれども、皆様そんなに大して悪気が有るのでなく、口から出任せを云つて見るに過ぎないのですから、私たちの方でも、そう長くは覚えては居ません、然し女生の人が少なくて、何に附ても都合が悪うございます、仲でも一番ひどいのは、踊 をどり の時間ですが、男と女とは踊は別な物を習ひます。男は男舞、女は女舞なのです(特別の場合は違ひますが)すると男の方は多い物ですから、別けて二組か三組位にします、ですから自分のお稽古が済んでも、人の稽古を見て居る事が出来ますが、女の方は人が少ないから、組を別ける必要はございません、自分でお稽古して頂く丈ですから。夫 それ にくらべると、男の方は皆様へ一通りおけいこが済めば、私たちの二度三度けいこしたに当ります、ですから何時も女生同志で、人が少なくてつまらないゝと申して居りましたが、卒業してからは、夫 それ が一層はげしくなりました、何しろ女の卒業生は私一人になつて仕まひましたから堪りません、ほんに心細くなります。
 踊などは何時もそう男の方のお供ばつかり、ほんとに上山さんや五十嵐さんがなつかしくなります、上山さんといへば、ほんとにあの方はお気の毒な方でございます。先生方も何 ど んなに残念でおほしめした事でせう。
 でもまあ仕合せな事には、在学生に女の方は三人ございますから、早く此方々が卒業なさるのを今から楽しみにして居ります。

 

 上の写真や文は、明治四十五年 〔一九一二年〕 二月一日発行の『新婦人』 第二年第二号 二月の巻 に掲載されたものである。最初の写真は、口絵にあるもので、「文芸協会女優松井須磨子嬢  (其筆蹟)」と説明がある。写真の枠の原稿は、上の文の一部である。 なお、この号には、「憚られたる姉の日記  故一葉女史令妹 樋口邦子」といった文もある。



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