■有志の諸侯は一切頼りにしてはいけない
「勅書を伝達すれば、有志の諸侯はこれに服するとの論がある。だが太平の世、久しく諸侯は安楽にふけり、士気は昏情になっており、それに有志の諸公といっても指を折るほどもいない
たとえあるとしても、家老たちは自国の太平と一身の利害を捨ててまでこれに応じる者は百人に一人もあるまい。勅書伝達しても決して思召しのとおりには参らないと考える
また、古今の人で情義を守る者は百分の一で、利に従う者のみ多い。朝命を重んじることを心得ない者が多くなってしまった
我が藩では現状尊王の義を弁える者があるとはいえ、他国にはいないのだから勅書伝達しても承服する者は少ない
我が藩の大諸侯などで時勢をはかる者がいるとはいえ、いずれも遠国。江戸にまで手の届く者はおらず、水戸藩の援助にはならないのだから、有志の諸侯は一切頼りにしてはいけない。
そして有志の諸侯の他は安楽昏情であり、薄情で士気もなく、太平を楽しむばかりで征戦など思いもよらない者ばかりだ。家来共もそのような者が多く、太平の弱兵では抗することができる者はいない
第一、水戸藩といえども、大志あれども28万石の分限に過ぎず、尾張紀州同様のお務めを果たすためには富強の手立てもない
この節は士心も分裂して一致していない。加えて人心動揺して、困弊し、軍用乏しく、戦陣はいかがにあいなるか危惧される。貧弱の小候などでは、憤発して征戦の志を励ましている者など、いか程もいない
勅書を伝達しても相呼応することはできない道理である」
■激派の戦略は、勅書伝達による【攘夷の全国一切挙兵】。そのために水戸藩が先駆けねばならない。高橋が同志を全国に派遣した
そんなことは盲目の幻想だと、会沢が指摘する。「おっしゃるとおり」と申すしかない
激派も会沢も、水戸藩が反幕から討幕挙兵へ傾いていく危機を暗黙に想定している。それに賭けるか禁圧するか、党派の分かれ目
それにしても長州藩と違って、水戸はあまりにも江戸に近い