■激派の主張
朝廷への直接返納の主張と、家老たちが斉昭に頼って激派を鎮静させるやり方に反発している
彼らはもう公然とは評定に登場はてまきない。わずかに長岡から観念的な原則論が聞こえてくるばかりである
■川瀬教文
🗞️斉昭に呈した上書🗞️
年少気鋭の輩は憤激のあまり長岡駅に罷り出ており、中には矯激の所為もあるやと風説粉々。重役方ではその鎮静が行き届かない。本来、国家存亡にかかわる大任を負う重役方こそが、御家の瑕疵にならぬよう大義名分を以てその職責を尽くすべきである
その際、尊慮を密接に伺った上で処理することは重要なことだが、重役方は老公に長岡勢鎮撫の親書を請い願い、これを公表した。家老たちはこれを口実にして、老公の返納の思し召しを国内に伝播して、以て返納反対の者の論鋒を挫折させようとしているこれではまるで老公が返納論者の率先であるかのようだ
これによって有志の輩は密かに悲嘆し志は挫けてしまい、また他藩の有志においてもただ慨嘆するほかない
将来時勢の変化によっては、天下後世がいかなる公評を下すことになるかも計り難い。万一、君上の御明徳を汚すようなことでもあれば、名望にかかわることであり恐れ入る次第だ
朝廷は徳川氏を厚く思し召しになられ、御三家の当家が宗家を補佐するよう深く叡慮して勅書をお下げになったのだ。その勅書の返納命令は、公辺一時の事情に従った老公の尊慮によるものと思う。それなのに閣老衆の口述を御信用になり返納するのでは、真の叡慮に背かぬとも限らず、老公においてもいかが思し召しかと、恐れながらいぶかしく思わざるをえない
老公の懐中の深い意味合いも、困難な実情も承知しておらない私である。とはいえ、苦心のあまり一片の微哀がお耳を汚すことになり恐縮の限りであるが、局外者の空言と思し召しの上ご容赦下されば幸いである
■長岡一統
🗞️御一品返納断固阻止🗞️
この度我々が長岡へ罷り出でていりけと、私意より押し張っているのではと疑われて、親類などが参って説得を受けることもあった
だが、実にこの度のことは御国のみならず、神州の興廃にも関わることゆえ、空しく手をこまねいているわけにはいきかねる
かねて申し上げてきたとおり、御一品を返上ということになれば、威義両公以来代々の忠節も水の泡と成り行くばかりだと、一同深く存じ詰めている
今回我々が出向いている事情をとくとお考えいただきたい。これは全くのところ御一品の進退のことであり、返上することはないと確証をお含み下さることのため、それ以外に他意はない