■水は私たちの生命に不可欠である。しかし時に猛威をふるい、生命や財産に脅威を与える。人は利水や洪水対策のために、水をとりまく環境に手を加え自然と共存してきた。人間の生活と密接なつながりを持つ水は、自然な特性と共に、人間と自然との関係の中で改変され、時代とともに変化してきた歴史的所産でもある
■ここでは鬼怒川下流部に位置する鬼怒川・小貝川低地(以下K低地と呼ぶ)の水環境を紹介する
K低地における水環境の最も重要な構成要素は、幅4.5Kmの南北に細長いK低地の両端を南流する
鬼怒川
小貝川
である
■地域の降雨特性と災害
K低地が位置する茨城県南西部は太平洋岸気候区に属し、降水量は冬少く、夏多い
年平均降水量は約1200ミリメートル
日本の平均より500ミリメートル少ない
梅雨、台風、雷雨がもたらす豪雨が時には水害を発生させ、昭和61年台風10号(1日203ミリメートル)では、小貝川が破堤し、内水氾濫も発生
■河川の流域条件や水特性を見て、水利用の背景を知る
鬼怒川は、2000メートル級の急峻な山地を水源とする急流河川である。流域面積65%は山地で、水量も豊富
小貝川は、標高150~200メートルの丘陵を水源とし、流域面積10%は平地である
流れは緩やかで、水量も鬼怒川ほど多くないため、江戸時代から取水堰が築かれ、用水河川としての利用が進んだ
水量が多い鬼怒川には、大規模な取水施設はなく、舟運路としての利用が進んだ
そして関東地方の大部分を流域とする利根川水系は、政治経済の中心地江戸と地方を結ぶ重要な大運河網として、江戸時代から明治初頭にかけ利用され、鬼怒川はK低地をこの広域経済圏に組み込み、宗道河岸の繁栄をもたらした
■洪水の性質・地域性・治水・水防
洪水の性質をみることは、地域の生活の背景の一端を知ることでもある。近代土木技術導入以前は、洪水に対して地域や個人レベルでの水防が不可欠であり、生活様式等にもその影響を見ることができる
鬼怒川と小貝川の洪水規模を最大洪水水量で比較すると
鬼怒川5700m3/sec
小貝川1320m3/sec
鬼怒川が圧倒的に大きい
大水の襲来は鬼怒川が早く、小貝川はゆっくりしている。昭和61年洪水では、両流域の雨の降り方に大差はないが、最大水位の出現は、鬼怒川では最大降雨強度の観測時間から14時間後、小貝川では34時間後と小貝川が約1日遅い
昭和13年水害では、この出水の時間差を利用し、小貝川の氾濫水を水位の下がった鬼怒川へ、人為的に堤防を切り崩し排水した
■洪水は堀込河道から溢れるタイプで、後背湿地では内水氾濫が発生しやすい。緩勾配のため本川の洪水が支川へと逆流し氾濫を起こしやすく、下妻と水海道地点の2ヶ所で河川が分流され、低地の排水河川合流部へは水門や排水機場が建設されている。また蛇行する河道の直線化が各所で行われている
■近代土木技術は自然を自由に改造・制御できる力を人間に与えた。水害は減り、低湿地は豊かな穀倉地帯へと変わり、生活は安全で豊かになってきた
しかし一方で河川は予期せぬ様々な反応を起こし始めた
小貝川では同じ規模の降雨に対して、より大きな最大洪水流量が発生し、洪水計画規模が何度か改訂されている
この主要原因は、圃場整備に伴う排水路の整備、治水工事に伴う河道の直線化や堤防の建設等が、雨水の流出を早めたことにある
また、本来土砂生産量の多い鬼怒川の川床が低下し、取水困難になったり、橋脚基礎が洗掘されたりしている。これは、上流山地の砂防ダム群や多目的ダムでの土砂貯留、川砂利採集による下流への土砂供給量の減少が主な原因といわれている
注・この資料は平成12年に出版されたものです