■問う
妙法蓮華経の五字には
いくばくの功徳をおさめたるや
答う
大海は衆流を納めたり
大地は有情非情を持てり
如意宝珠は万財をふらし
梵王は三界を領す
妙法蓮華経の五字
またかくの如し
一切の九界の衆生並に仏界を納む
十界を納むれば亦十界の依報の国土を修む
■妙法蓮華経の五字に
一切の法を納むる事
いわば経の一字は
諸経の中の王なり
一切の群経を納む
諸経は法華経眷属の修多羅(仏の説いたもの)なり
妙楽大師の釈いわく
「已今当説最為第一」
経の一字の中に
十方法界の一切の経を納めたり
譬えば如意宝珠の一切の財を納め
虚空の万像を含めるが如し
妙法蓮華の四字も又
八万法蔵に越過するなり
■妙とは
法華経にいわく
「方便の門を開いて
真実の相を示す」
章安大師いわく
「秘密の奥蔵を発(ひら)く
之を称して妙と為す」
妙楽大師此の文を受けていわく
「発とは開なり」
★妙と申す事は
開と云う事なり
財を積める蔵に鍵なければ
開く事難し
開かざれば蔵の内の財を見ず
★華厳経は仏説き給いたりしかども
経を開く鍵をば仏説き給わず
阿含・方等・般若・観経等
四十余年の経経も仏説き給いたり
しかども経経の意をば開き給わず
門を閉じて置かせ給いたり
しかば人かの経経を覚る者なかりき
たとえ覚れりと思いしも僻見
(へきけん・偏った見方)にてありしなり
★仏・法華経を説かせ給いて
諸経の蔵を開かせ給いき
此の時九界の衆生始めて諸経の
蔵の内の財をば見知りたりけり
眼の開くべき縁を結ぶ
是れ妙の一字の徳なり
★妙とは具の義なり
具とは円満の義なり
法華経の十一の文字一字一字に
余の六万九千三百八十四を納めたり
大海の一滴の水に
一切の川の水を納め
一の如意宝珠の芥子になり
一切の如意宝珠の財をふらすが如し
秋冬枯れたる草木の
春夏にあうて枝葉、華果
出来るが如し
秋冬の草木の如くなる九界の衆生
法華経の妙の一字の春夏の日輪に
あい奉りて菩提心の華咲き
成仏往生の果なる
★竜樹菩薩の大論にいわく
「譬えば大薬師のよく毒をもって薬と為すが如し」
此の文は大論に法華経の妙を釈す文
★妙楽大師の釈にいわく
「治し難きをよく治すゆえに妙と称す」
★総じて成仏往生のなりがたき者四人あり。第一には決定性の二乗
第二には一闡提人
第三には空心の者
第四に謗法の者
これらを法華経において仏になさせ給ふ故に法華経を妙というなり