るるの日記

なんでも書きます

源氏物語を読む「桐壺」亡き更衣への執着心という闇

2022-11-12 10:17:22 | 日記
■母君「目も見えはべらぬに、
かくこしき仰せ言を光にてなん」
とて見たまふ

【ほど経ば、すこし、うちまぎるることもやと、待ち過ぐす月日に添へて、いと忍びがたきは、わりなきわざになん
いはけなき人を、いかにと思ひやりつつ、もろともにはぐくまぬ、おぼつかなさを。
今はなほ、昔の形見になずらへてものしたまへ

宮城野の、露吹きむすぶ、風の音、小萩がもとを、思ひこそやれ】

とあれど、え見たたひはてず

★目も見えはべらぬに→子を思う道に迷い、子を思うゆえの闇の中で泣きくれる涙で目が見えない

★かくこしき仰せ言を光にてなん→
畏れ多い帝の仰せを、心の闇を照らす光にして
なんの後「見たてまつらむ」を省略

★昔の形見→別れた人を思い出す種になるもので、更衣の母君にとっては帝が更衣の形見。帝にとっては若宮

★宮城野→宮城県仙台市の東の野、荻の名所で枕歌
宮中の意味を含ませる
「露吹きむすぶ」は、風が吹いて荻に露が結ぶ。露には帝の涙の意味を含ませる
「小荻」は、皇子

■悲しみの闇にいて、目も見えないのですが、このように畏れ多い仰せ言を光といたしまして、見させていただきます

【時が過ぎれば、少しはまぎれることもあろうかと、その時を待ち過ごした月日。しかしその月日に添ってくるのは、たえられない悲しみ
私は苦しくて困っています
幼い若宮を思いやりながら、更衣や母君とともに養育できない頼りなさといったら、、、
今は、あなたが、私を更衣の形見だと思って参内なされませ

宮城野の、、
宮中を吹き渡って露を結ぶ風の音を聞いていると、母君の里はどんなにか涙多く露けきことか。そこにいる若宮はどうしているかと思いやる】

とあるけれど更衣の母君は
とても最後まで見ることができない

源氏物語「桐壺」伝えきれない悲しみ

2022-11-12 09:23:43 | 日記
■南面におろして
母君もとみにえ、ものものたまはず、、、
母君
「今まで、とまりはべるが、いとうきを、かかる御使の、蓬生(よもぎふ)の、露分け入りたまふにつけても、いと恥づかしうなん」
とて、げにえたふまじく泣いたまふ

命婦
「『参りてはいとど心苦しう、
心肝も尽くるやうになん』
と典侍(ないしのすけ)奏したまひしを、もの思うたまへ知らぬ心地にも、げにこそいと忍びがたうはべりけれ」
とて、ややためらひて、仰せ言伝へきこゆ

【「しばしば夢かとのみ、たどられしを、やうやう思ひしづまるにしも、さむべき方なく、たへがたきは、いかにすべきわざにかとも、
問ひあはすべき人だになきを、
忍びて参りたまひなんや。
若宮の、いとおぼつかなく、
露けき中に過ぐしたまふも、
心苦しう思さるるを、
とく参りたまへ、、」
など、はかばかしうも、のたまはせやらず、むせかへらせたまひつつ
かつは人も心弱く見たてまつるらむと、思しつつまぬにしもあらぬ御気持色の心苦しさに、うけたまはりはてぬやうにてなん、まかではべりぬる】
とて御文奉る

★南面→正式の客を招く部屋。南向きに建てられたので、その正面は南

★母君もとみにえ、ものものたまはず→命婦もそうだが、母君もやはりものも申さず

★蓬生(よもぎふ)→蓬などの雑草の生えた庭=荒れ果てた庭

★露→露に涙の意味を含ませた

★げに→今までの母君の言葉のように

★参りては→(宮中で想像してさえそうなのに)、実際来てみるといっそう

★典侍→命婦より前に、帝の使者としてこの邸を訪問した人

★もの思うたまへ知らぬ心地→物の情を解せぬ心もち
命婦の謙遜しての自称

★げにこそ→典侍の言葉どおりに

★ためらひて→間をおいて、心を落ちつけて

★たどられしを→手探りで探し求める=思い迷う状態

★思ひしづまるにしも→思い静まってかえって

★さむべき方なく→更衣の死は夢ではなく現実で、覚めようがなく

★おぼつかなく→気がかり

★露けき中→悲しみに沈む更衣の邸

★うけたまはりはてぬやうにてなん
取り乱しながら、周囲に気がねしている帝を視るに堪えれず、仰せ言を十分うけたまわなかった
同時に、帝の悲嘆を母君に伝えきれるものではない、と断るのである


■女官の命婦を南正面に招き
母君もやはりすぐには何も言わない
、、
母君
「今まで生き残っておりますのが、まことに辛いです。このような畏れ多い使者が、荒れ果てた庭の露を分けて入られるのも、まことに恥ずかしい、、」
と言って、その言葉どおり、こらえきれす泣かれた

命婦
「『来てみると、いっそう痛わしくて、魂も消え失せるようで』と典侍が奏上しておりましたが、私のような物の情を解せぬ者にも、典侍の言葉どおりに、まことに堪えがとうございます」
と言って、命婦は少し心を落ちつかせてから、帝の仰せ言をお伝え申し上げる

【「当時は、これは夢ではないかとばかり思い悩むしかなかったが、
ようやく心が落ち着いてくると、かえって、夢ではないのだから覚めようもないことが、たまらなく辛い
この辛さをどうすべきかと、相談できる人もいない。だからあなたに忍びて参内してほしい。
あなたのことを、若宮もひどく気がかりな様子です。
悲しみに沈むところで暮らされているのが痛わしく思うから、早く参内してください、、」
などと、帝は、はきはきと全部を言うことができず、何度も涙でむせかえりになり、一方では人から気が弱いと見られるだろうと、自制されるような様子が気の毒なあまりに、私はお言葉を終わりまでうけたまわりきれぬ有様でした。同時に私が帝の悲嘆を伝えきれることはできないと思い、お断りし退出しました】
と言って、帝が伝えたい言葉を書いた、帝の手紙をさしあげた





源氏物語を読む「桐壺」娘を亡くした母上のあはれ暮らし

2022-11-12 07:32:26 | 日記
■命婦かしこにまで着きて
門引き入るるより
けはひあはれなり
やもめ住みなれど
人ひとりの御かしづきに
とかくつくろひ立てて
めやすきほどにて過ぐしたまへる
闇にくれて臥ししづみたまへる程に
草も高くなり
野分にいとど荒れたる心地して
月影ばかりぞ
八重葎(むぐら)にもさはらず
さし入りたる



※門引き入るるより→牛車を門内に引き入れるやいなや

※闇にくれて→人の親の心は闇にあらねども、子を思ふ道に惑いぬるかな

※八重むぐら→「とふ人もなき、宿なれど、来る春は、八重むぐらにも
さはらざりけり」古今・貫之より

■女官の命婦が更衣の邸に着き
牛車を門に引き入れるやいなや
そこにはしみじみした哀愁を感じた
母上はやもめ暮らしであるけれど
娘更衣一人を大事に育てるために
あれこれと手入れして
見苦しくない程度に過ごしていたが
娘が亡くなられた哀しみに
泣き臥しているうちに
草も高く生い茂り
野分けにもいっそう荒れたかんじで
月光だけが八重葎に詠まれたように
雑草にも遮られずさしこんでいる