るるの日記

なんでも書きます

もののあはれ・源氏物語「七つで美的魔性発動す」

2022-11-16 09:11:46 | 日記
♦️若宮は成長するにつけて
超人的美質を魔性のごとく発揮する

■今は内裏(うち)にのみはずらひたまふ
七つになりたまへば、読書始(ふみはじめ)などさせたまひて
世に知らず聡うかしこくおはすれば
あまり恐ろしきまで御覧ず

「今は誰も誰も、え憎みたまはじ。母君なくてだに、らうたうしたまへ」
とて、こき殿などにも渡らせたまふ御供には、やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ

いみじき武士(もののふ)、仇敵(あたかたき)なりとも、見てはうち笑まれぬべきさまのしたまへれば、えさし放ちたまはず

女御子(おんなみこ)たち二所(ふたところ)、この御腹におはしませど、
なずらひたまふべきだにぞなかりける
御方々も隠れたまはず、今よりなまめかしう恥づかしげにおはすれば
いとおかしううちとけぬ遊びぐさに
誰も誰も思ひきこえたまへり

わざとの御学問はさるものにて
琴笛の音にも雲いをひびかし
すべて言ひつづけば
ことごとしう
うたてぞなりぬべき人の御さまなりける

★今は内裏にのみはずらひたまふ
母も祖母も亡くなった今は、
若宮は帝のそばに過ごす日々

★読書始め
皇族が初めて漢籍の読み方を授けられる儀式

★こき殿
若宮をもっとも快く思っていない人の所

★いみじき
強いだけで人情など解さないような

★なずらひ
まったく同等ではないが、同一の等級にある
女御子を引き合いに出して、皇子の美しさを表現している

★隠れたまはず
女性が男性と対面するときは
几帳を隔てたり、扇で顔を隠すが
若宮がまだ幼少なので、顔を隠さず親しんだ

★なまめかしう
生めく
みずみずしい自然な美しさ
気品のある優雅な美しさ

★うちとけぬ
若宮が格段に優れているため
普通の子どもに対するように
無邪気にうちとけるわけにはいかない

★わざと
それを務めとする
貴族の不可欠な教養

★雲い
雲のある空=宮中

■若宮は今、宮中にばかりおいでになる
七つになられたので、読書始めなどをさせると、世にも類いないほど聡明で賢いので、帝はあまりのことで恐ろしいとさえ思う

帝は
「今となっては、どなたも若宮を憎みにはなれまい。母君がいないということによってでも、かわいがっていただきたい」
と言われ、若宮をもっとも快く思っていない【こき殿】などにも、お供にお連れになり、女御の部屋の御簾の中に入れてやる

どんなに強くて、人情など知らないような武士や仇敵であっても、見るとつい笑みがわいてくる様子をしているので、女御も遠ざけることができない

皇女たち二人は、この女御の腹から生まれたのであるが、この若宮に並ぶような方はいない

その他の女御や更衣も、若宮から隠れ避けることはなさらず、今の幼少から、優雅で、会うと恥ずかしくなるほどの様子でいらっしゃるから、本当におもしろく、また気のおけない遊び相手であると、どなたもみな思い、話している

表向きの学問は申すに及ばず
琴、笛の音にも、宮中あげて驚嘆させ、そのほか一つ一つ教えていくと、いやになってしまうほどの聡明さである





もののあはれ・源氏物語「母君、やっとこの世の悲哀から解放される」

2022-11-16 08:04:07 | 日記
♦️ここから物語は一変する♦️
これまで更衣の里にいた若宮は宮中に住む。「この世のものならぬ気品を持つ若宮」なのだが、東宮の地位は与えられない、、祖母もこの世を去り、帝と桐壺更衣との悲話に終止符をうち、新しく若宮(光源氏)の物語を出発させる

■月日経て、若宮参りたまひぬ
いとど、この世のものならず
きよらにおよすけたまへれば
いとゆゆしう思したり

明くる年の春
坊定まりたまふにも
いとひき越さまほしう思せど
御後見すべき人もなく
また、世のうけひくまじきことなりければ、なかなかあやふく思しはばかりて、色にも出でださせたまはずなりぬるを、さばかり思したれど
限りこそありけれ、
と世人も聞こえ、女御も御心落ちいたまひぬ

かの御祖母・北の方、
慰む方なく思し、しづみて
おはすらむ所にだに尋ね行かむ
と願ひたまひし、しるしにや
つひに亡せたまひぬれば
またこれを悲しび思すこと限りなし

皇子六つになりたまふ年なれば
このたびは、思し知りて
恋ひ泣きたまふ
年ごろ馴れむつびきこえたまひつるを、見たてまつりおく悲しびをなむ
かへすがへすのたまひける

★いとどこの世のものならず
月日経って後の対面なので
この世のものとは思えないくらい
美しくなった若宮の姿に帝は感動

★いとゆゆしう思う
あまりにも美しいものは、鬼神に魅入られて天寿をまっとうしない
という俗説から不安に思う

★世のうけひくまじきこと
世間が承認するはずないこと

★なかなかあやふく思しはばかりて
若宮を東宮にたてても、支持がないから、かえって若宮の身が不安に思い遠慮して

★慰む方なく思ししづみて
慰める娘・更衣に先立たれ、生き甲斐を失っている


■月日が経って、若宮が参内なさった。今までにも増して、この世のものとは思えぬほど、気品高く成長なられたので、帝は不吉な事が起こらないかと、不安な感じをお持ちになった

翌年の春、東宮がお決まりになる時にも帝は、第一皇子を飛び越えてこの若宮を立てたいと強く思うが、後楯もなく、また世間の承認するはずのない事であり、かえって若宮のためにならないと御遠慮されて、
その事を周囲に気づかせなかったので、「あれほど可愛がられていたけれども、やはり限界があったのだな」と世間の人は噂し、女御も御安心なされた

かの若宮の祖母・北の方は
娘に先立たれ心慰めるすべもなく
もの思いに沈まれて
娘のいる所に尋ね行きたいと
祈願なさったしるしであろうか
とうとうお亡くなりになってしまったので、帝はこのことを限りなく悲しく思う

若宮は六歳になる年なので、今度の祖母の死はよくおわかりになって、
恋慕って泣く
祖母も、いつも馴れ親しんでいるこの若宮をこの世に残していく悲しみを、繰り返し繰り返し言われたのである