♦️若宮は成長するにつけて
超人的美質を魔性のごとく発揮する
七つになりたまへば、読書始(ふみはじめ)などさせたまひて
世に知らず聡うかしこくおはすれば
あまり恐ろしきまで御覧ず
帝
「今は誰も誰も、え憎みたまはじ。母君なくてだに、らうたうしたまへ」
とて、こき殿などにも渡らせたまふ御供には、やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ
いみじき武士(もののふ)、仇敵(あたかたき)なりとも、見てはうち笑まれぬべきさまのしたまへれば、えさし放ちたまはず
女御子(おんなみこ)たち二所(ふたところ)、この御腹におはしませど、
なずらひたまふべきだにぞなかりける
御方々も隠れたまはず、今よりなまめかしう恥づかしげにおはすれば
いとおかしううちとけぬ遊びぐさに
誰も誰も思ひきこえたまへり
わざとの御学問はさるものにて
琴笛の音にも雲いをひびかし
すべて言ひつづけば
ことごとしう
うたてぞなりぬべき人の御さまなりける
★今は内裏にのみはずらひたまふ
母も祖母も亡くなった今は、
若宮は帝のそばに過ごす日々
★読書始め
皇族が初めて漢籍の読み方を授けられる儀式
★こき殿
若宮をもっとも快く思っていない人の所
★いみじき
強いだけで人情など解さないような
★なずらひ
まったく同等ではないが、同一の等級にある
女御子を引き合いに出して、皇子の美しさを表現している
★隠れたまはず
女性が男性と対面するときは
几帳を隔てたり、扇で顔を隠すが
若宮がまだ幼少なので、顔を隠さず親しんだ
★なまめかしう
生めく
みずみずしい自然な美しさ
気品のある優雅な美しさ
★うちとけぬ
若宮が格段に優れているため
普通の子どもに対するように
無邪気にうちとけるわけにはいかない
★わざと
それを務めとする
貴族の不可欠な教養
★雲い
雲のある空=宮中
■若宮は今、宮中にばかりおいでになる
七つになられたので、読書始めなどをさせると、世にも類いないほど聡明で賢いので、帝はあまりのことで恐ろしいとさえ思う
帝は
「今となっては、どなたも若宮を憎みにはなれまい。母君がいないということによってでも、かわいがっていただきたい」
と言われ、若宮をもっとも快く思っていない【こき殿】などにも、お供にお連れになり、女御の部屋の御簾の中に入れてやる
どんなに強くて、人情など知らないような武士や仇敵であっても、見るとつい笑みがわいてくる様子をしているので、女御も遠ざけることができない
皇女たち二人は、この女御の腹から生まれたのであるが、この若宮に並ぶような方はいない
その他の女御や更衣も、若宮から隠れ避けることはなさらず、今の幼少から、優雅で、会うと恥ずかしくなるほどの様子でいらっしゃるから、本当におもしろく、また気のおけない遊び相手であると、どなたもみな思い、話している
表向きの学問は申すに及ばず
琴、笛の音にも、宮中あげて驚嘆させ、そのほか一つ一つ教えていくと、いやになってしまうほどの聡明さである