るるの日記

なんでも書きます

源氏物語「桐壺」長恨歌

2022-11-12 16:42:19 | 日記
■命婦は、まだ大殿籠らせたまはざりけると、あはれに見たてまつる
御前の壺前栽の、いとおもしろき盛りなるを、御覧ずるやうにして
忍びやかに、心にくきかぎりの女房四五人さぶらはせたまひて、御物語せさせたまふなりけり

この頃、明け暮れ御覧ずる
長恨歌の御絵、亭子院の描かせたまひて、伊勢、貫之に詠ませたまへる
大和言の葉をも、唐土の詩をも
ただその筋をぞ、枕言にさせたまふ

★壺前栽→壺は中庭、そこの植込みを壺前栽

★長恨歌→中国詩人・白居易の長詩
唐の玄宗皇帝と楊貴妃を題材とする
楊貴妃を溺愛して、国政をかえりみず、反乱を招いた玄宗は、落ち行く途中、臣下に迫られて余儀なく楊貴妃を殺した
乱が治まってから、玄宗は都に帰るが、楊貴妃への思慕やまず、道士に命じてその魂のありかを捜させる
道士はようやく海上の仙山にこれを求め、玄宗の意を伝え、形見の青貝細工の小箱と、金彩のそれぞれ半分をもたらし、楊貴妃の言葉をも伝える

御絵は長恨歌の内容を絵にしたもの

★亭子院→今の東西両本願寺の間あたりにあった宇多上皇の御所

★伊勢→女流歌人
宇多天皇に寵愛され皇子を生んだが、皇子は若くして死去
敦慶親王との間に女流歌人中務を生んだ

★貫之→歌人

■命婦は、帝がいまだにおやすみされていないことを、しみじみ痛わしく感じた
御前の庭の植込みが、美しい盛りであるのを見るふりをなさって、心づかいある女房ばかり四、五人を側に御召しになり、密やかにお話しをしていらっしゃった

この頃、明けても暮れても御覧になる長恨歌の御絵。それは亭子院が描かせになって、伊勢や貫之に和歌を詠ませになったものだが、和歌についても漢詩についても、もっぱらこの長恨歌のような題材を話題にされている

源氏物語を読む「桐壺」人目、外聞を気にする貴族

2022-11-12 15:54:52 | 日記
■月は入方の、
空清う澄みわたれるに
風いと涼しくなりて
草むらの虫の声声もよほし顔なるも
いと立ち離れにくき草のもとなり

命婦
「鈴虫の、声のかぎりを、尽くしても、長き夜あかず、ふる涙かな」

えも乗りやらず

母君
「いとどしく、虫の音しげき、浅茅生に、露おそきふる、雲の上人、、
かごとも聞こえつべくなむ」
と、言はせたまふ

おかしき御贈物など、あるべきおりにもあらねば、ただかの御形見にとて、かかる用もやと残したまへける御装束一くだり、御髪上(みぐしあげ)の調度めく物、添へたまふ

若き人々、悲しきことはさらにも言はず、内裏(うち)わたりを朝夕にならひて、いとさうざうしく、上への御ありさまなど思ひ出できこゆれば、とく参りたまはんことをそそのかしきこゆれど、かくいまいましき身の添ひたてまつらむも、いと人聞きうかるべし、また見たてまつらでしばしあらむは、いとうしろめたう思ひきこえたまひて、すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり

★月は入方の→時間の推移を表す

★言はせたまう→母君が侍女に取り次がせて、車の中にいる命婦に伝えたのである

★おかしき御贈物→使者には贈物を与える。喪中の見舞いの使いであるから、おかしき(風情ある)贈物はしない
★御装束→娘の形見の衣装一揃い
★御髪上→髪を結いあげる道具

★さうざうしく→寂寂しい
あるべきものがなく、寂しい

★そそのかす→その気になるように勧める。現在のような悪い意味ではない

★うしろめたい→心配
現在のようなうしろめたさはない

■月は沈みかける頃で
空は一面清らかに澄みきって
風はじつに涼しく
草むらの虫の声声が涙を誘い
まことに立ち去り難い草の宿である

命婦
「鈴虫の、、
あの鈴虫のように、声の限りをしぼって泣き尽くしても涙は尽きず
秋の夜長も足りないくらいに
とめどなくこぼれる涙です」

命婦は、容易に車に乗る気になれない、、、

母君
「いとどしく、、
虫の声がしきりにしているこの草深い侘び住まいにおいでくださって
ますます悲しみも新たに涙の露を置き添える宮人ですね、、と恨み言を申しあげてしまいそうで、、」
と母君は侍女に取り次いで、命婦に伝えた

母君は使者への贈物として、風情ある贈物などすべき時ではないので、亡き娘の形見として、このような用もあろうかと残しておいた装束一揃い、御髪上道具のようなものを添えられた

年若い女房たちは、更衣を失って悲しんでいることは、今さら言うまでもなく、また今まで華やかな宮中での生活を朝夕にしなれていたので、この里住みはまことに寂寂しく、帝の様子も思いだし、若宮を早く参内なさるようにお勧めするが、若宮祖母は、こんな不吉な身の者が若宮に付き添い申し上げるのは、外聞が悪いし、かといって若宮と離れて顔を見ないで過ごすとなれば、それはとても心配なさることと思い、思いきりすがすがしく参内おさせすることができないでいるのだった


源氏物語「桐壺」すべては前世の因縁だと

2022-11-12 14:37:06 | 日記
■女官・命婦
「上もしかなん。わが御心ながら、あながちに、人目驚くばかり思されしも、長かるまじきなりけりと、今はつらかりける人の契りになん。
世にいささかも人の心をまげたることはあらじと思ふを、ただこの人ゆえにて、あまたるまじき人の恨みを負ひしはてはては、かううち棄てられて、心をさめむ方なきに、いとど人わろうかたくなになりはつるも、前の世ゆかしうなむ』と、うち返しつつ、御しほたれがちにのみおはします」と語りて尽きせず。
「夜いたう更けぬれば、今宵過ぐさず、御返奏せむ」
と、急ぎ参る。

■「帝とて同じです『自分の心をみると、人が見て驚くほどに愛しく思っていたのは、今思えば、長く続く交わりではなかったことを予期していたからなんだ、、と、、。今となっては切なく思われる契りだった。
自分ではほんのわずかでも、人の心を害したことはないと思っているが、ただこの人を愛したことで、人の恨みを負い、そのあげくにこのように一人棄てられ、心をなぐさめるすべもなく、ますます人悪い偏屈者になりはてる、、これも前世の因縁であろうが、それがどんなものだったのか、ぜひ知りたいものだなあ』
と、何度も何度も繰り返し言われ、涙にひたってばかりいらっしゃいます」

「夜もすっかり更けてしまいましたが、帝には今夜のうちに御返事申しあげましょう」と急いで宮中に帰参




源氏物語を読む「桐壺」毒親の愚痴

2022-11-12 13:39:06 | 日記
■くれまどふ、心の闇も、
たへがたき片はしをだに
はるくばかりに、聞こえまほしうはべるを
私にも、心のどかにまかでたまへ
年ごろ、うれしく面だたしきついでにて、立ち寄りたまひしものを
かかる御消息にて見たてまつる
かえすがへすつれなき命にもはべるかな

生まれし時より
思ふ心ありし人にて
故大納言、いまはとなるまで、ただ
『この人の宮仕の本意
かならず遂げさせたてまつれ。
我、亡くなりぬとて
口惜しう思ひくづほるな』と、
かへすがへす諌めおかれはべりしかば、なかばかしう後見思ふ人もなき交じあひは、なかなかなるべきことと思ひたまへながら、ただ、かの遺言を違へじとばかりに、出でだし立てはべりしを、身にあまるまでの御心ざしの、よろづにかたじけなきに、人げなき恥を隠しつつ、交らひたまふめりつるを、人のそねみ深くつもり、やすからぬこと多くなり、添ひはべりつるに、よこさまなるやうにて、つひにかくなりはべりぬれば、かへりてはつらくなむ、かしこき御心ざしを思ひたまへられはべる

これもわりなき心の闇になむ」
と、言ひもやらず、むせかへりたまふほどに、夜も更けぬ


★くれまどふ→心が暗く途方にくれる

★はるく→晴るく、晴れさせる

★私にも、、→命婦の、今回の訪問は公的だが、また個人として気楽に出てきてください

★うれしく面だたしきついでにて、、→以前は命婦は、晴れがましい場合の使者として

★つれなし命→そしらぬ命
「娘と同じ煙にのぼりたい」とまで願っていたのに、そんなことはまるでなかったかのように、生きながらえている無情な我が命

★かかる御消息→死後の御見舞い

★いまは→今は最後、臨終

★宮仕の本意→本人ではなく、親の念願だったが

★出だし立て→出仕させる!本人の気持ちがどうであろうと

★人げなき恥→更衣が人並みの身分ではないために、恨まれ妬まれ迫害されたこと

★よこさま→天寿を全うするような正常な縦向きではない。縦は正常の向き。横は異常の向き

★かへりてはつらくなむ→帝の寵愛がかえって恨めしくなる

★これもわりなき→帝に非難がましいことを言ったことの弁解

■娘が亡くなり、途方にくれる親心の闇は堪えがたいこと、、その一片の闇でも晴らせるほどに、お話ししたいと思いますので、公的ではなく個人的に、ゆっくりとまた出て来てください。。
あなたには幾年かの間、晴れがましく面目を施すような場合に立ち寄られていただいたのに、このような死後のお見舞いの遣いとして、お目にかかることは、無情な我が身の巡り合わせなんだと思われます

娘は生れた時から心をかけた人で、
亡き夫・大納言が臨終の瞬間まで、
『この人の宮仕の本意を、かならず遂げさせてさしあげなさい。私が亡くなっても、情けなく思いを崩してはならぬ』と
私は繰り返し言いさとされていましたので、しっかりした後楯と思う人もない宮仕えはしない方がいいとは思いながら、ただ亡き夫の遺言に背くまいという理由で、娘の気持ちはどうであろうと出仕させましたが、
身にあまるほど可分な帝の御寵愛が、何事につけてももったいないことで、周囲から人並みの身分ではないことからの迫害の恥は隠して、帝と交じらせていただいたようですが、皆様からの妬みが深く積もって、心痛めること多くなり、正常ではない有様で、ついにこんなことになってしまいました、、、
畏れ多い帝の情けを、かえって恨めしく思います
この恨めしさは、、筋の通らない親心の闇で、、」
とその後は言葉も出ず、涙にむせかえっているうちに夜も更けた








源氏物語を読む「桐壺」松は千年生きても、人の長寿は恥

2022-11-12 11:17:44 | 日記
母君「命長さの、いとつらう思ひたまへ知らるるに、松の思はむことだに、恥づかしう思ひたまへはべれば、ももしきに行きかひはべらむことは、ましていと憚り多くなん。

かしこき仰せ言を、たびたびうけたまはりながら、みづからはえなん思ひたまへ立つまじき。

若宮は、いかに思ほし知るにか、
参りたまはむことをのみなん思し急ぐめれば、ことわりに悲しう見たてまつりはべるなど、うちうちに思ひたまふるさまを奏したまへ。
ゆゆしき身にはべれば、かくておはしますも、いまいましう、かたじけなくなん
とのたまふ

宮は大殿籠りにけり
命婦
「見たてまつりて、くはしう、御ありさまも奏しはべらまほしきを、待ちおはしますらむに。
夜更けはべりぬべし」とて急ぐ

★命長さの、、→命長ければ即ち辱しめ多し(荘子)

★松の思はむ、、→いかでなほありと知らせじ高砂の松の思はむこともはづかし(古今)
まだ生きていることは知らせたくない。高砂にある千年生きている松がどう思うか恥ずかしい
人間が長生きすることは恥ずかしいことだから

★ももしきに→百磯城で大宮の枕歌
宮中の意味

★たびたびうけたまはりながら→これまでに何度も参内を勧められていたことになる

★ことわりに悲しう→若宮にとって宮中は父帝の庇護もあり華やかな世界。若宮が参内するのは最もなこと。同時に私はこちらから参内を思いたつことができない身。若宮と別れるのは悲しい

★ゆゆしき身→娘に先立たれるという不吉で、老いた身

■母君「長生きが本当に辛いことであると、思い知らされるにつれ、高砂の松がどう思うであろうかと恥ずかしい思いですので、宮中に入ることは、なお憚り多いこと。

畏れ多い仰せをたびたび承けながら、私自身はとても参内を思い立つことはできません

若宮はいかに理解しているか、、
若宮を参内させることをお急ぎになっているようですね、それが最もだと思いますと同時に悲しく思いますが、内々に若宮の思いを帝に奏上ください。
私は娘に先立たれた不吉で老いた身、こうして若宮がおいでるのも、もったいないことですもの」
と、言われた

若宮はもうおやすみになっていた。
命婦
「若宮にお目どおりして、帝に若宮の様子を詳しく奏上したいと思いますが、帝がお待ちかねでしょうから。夜もふけますし。と命婦は帰参を急がす」