るるの日記

なんでも書きます

もののあはれ・源氏物語・指喰いの女「男の甘えた推量」

2022-11-25 08:30:46 | 日記
■さればよと心おごりするに、
正身(さうじみ)はなし。
さるべき女房どもばかりとまりて、
「親の家に、この夜さりなん渡りぬる」と答へはべり。

艶なる歌も詠まず、気色ばめる消息もせで、いとひたや籠りに情なかりしかば、
あへなき心地して、さがなくゆるしなかりしも、我を疎みねと思ふ方の心やありけむと、さしも見たまへざりしことなれど、
心やましきままに思ひはべりしに、

着るべき物、常よりも心とどめたる色あひ
しざまいとあらまほしくて、
さすがにわが見棄ててん後をさへなん、思ひやり後見たりし

★正身
本人

★あへなき心地
張り合いのない気持ち

★我を疎みねと
自分(女)を嫌いになってくれと

★さしも見たまへざりしこと
腹立ち紛れに、女を勘ぐったが
(本心では信頼していた、ということである)

★わが見棄ててん
きっと私を棄てていないだろう
「男は女を棄ててはいないのに、女の側からすれば、男がすでに自分を棄ててしまったと考えるはずだ。女はなお男と縁を切ろうとは思っていないが、男の浮気も認める気はないのだろう、、」
男はまだ甘く考えている

■それみたことかと、私はいい気になったのだが、肝心の本人は居ませんでした。しかるべき召使だけが残っていて、「親御さんの所に夜更けになってお出かけになりました」と答えます。

いさかいをして別れてからの女は
気持ちをそそるような歌も詠まず
気どった便りもせず
家に閉じ籠ったきりで
何の風情も見せなかったので
私は張り合いのない気持ちになり
女が意地悪く容赦しないのは
女が「自分を嫌いになってくれ」といった下心でもあったのかと、腹立ち紛れに疑っていたが本当は信頼していました。
私が着る物も、普段より心をこめて、色あい仕立てが、申し分なくしてあって、私が見棄てたそぶりの後も、女は私を見棄てるはずなく、私に気を配ってくれておりました。


もののあはれ・源氏物語・指喰いの女「男の推測、女はいつもそれを待っている」

2022-11-25 07:42:36 | 日記
■まことには変わるべきこととも
思ひたまへずながら、日ごろ経(ふ)るまで消息(そうそこ)も遣はさず、あくがれまかり歩くに
臨時の祭の調楽に夜更けて
いみじうみぞれ降る夜
これかれまかりあかるる所にて
思ひめぐらせば
なほ家路と思はむ方はまたなかりけり。

内裏わたりの旅寝すさまじかるべく、気色ばめるあたりはそぞろ寒くやと、思うたまへられしかば、
いかが思へると気色も見がてら、
雪をうち払ひつつ、
なま人わるく爪食はるれど、
さりとも今宵日ごろの恨みは解けなむと思ひたまへしに、灯ほのかに壁に背け、萎えたる衣どもの厚肥えたる。大いなる籠にうちかけて、
引きあぐべきものの帷子(かたびら)などうちあげて、
今宵ばかりやと待ちけるさまなり

★変わる
二人の関係が変わって離別する

★あくがれまかり歩く
あちらの女、こちらの女と浮かれ歩く

★臨時の祭
賀茂神社の臨時の祭
11月下旬の西の日に行われる

★調楽
舞人、楽人が宮中の楽所で行う舞楽の練習

★これかれまかりあかるる
調楽に加わった人のだれかれ

★またなかりけり
この女の所以外にはない

★気色ばめるあたり
気どった浮気女の所

★そぞろ寒くやと思うたまへられ
雪の夜、はやく暖まりたい気持ちから
雪の夜、暖かく迎えてくれる女を求めて迷っている

★気色も見がてら
暖まると同時に女の様子も見がてら

★なま人わるく
なんとなく、人から見られて具合がよくない

★爪食はる
きまりが悪く、指の爪をかむ

★籠
伏籠
伏せておいてその中に香炉を置き、その上の衣をかけて、香をたいたり、暖めたりする

★引きあぐべきもの
几帳のとばり
使わない時は引き上げておくべきもの

★今宵ばかりや
今宵あたりは来るんじゃないかしら



■じつのところ別れることになるとは思っていなかったものの、そのまま幾日たっても便りもやらず、あちらこちらの女のもとに浮かれ歩いているうちに、臨時の祭の調楽のために夜遅くなって、ひどくみぞれの降る夜があり、
同僚のだれかれと別れる所で、あれこれと考えてみると、やはり我が家路と思う行き先は、この指喰い女の所以外にはないのだと思えるのでした。

宮中に泊まるのもわびしいし、気どった浮気女の所はうすら寒い気持ちになると思いましたので、
暖を求めると同時に、指喰い女がどう思っているのか様子も見がてら
雪を払いながら、なんとなく人から見られて具合が悪く、きまりが悪いような思いで爪をかみながらも、
「ああは言っても、今夜で日ごろ私を恨んでいる気持ちも解けるだろう」思っていましたところ

灯は薄暗くして壁に向け
着なれた着物の厚いのを、大きな香炉の上にかけて、使わない時は引き上げられるはずの帳は上げてあり、「今夜あたりはもしや」と待っていた様子です




もののあはれ・源氏物語・指喰いの女「しゃくにさわる売り言葉に買い言葉」

2022-11-25 06:23:02 | 日記
『よろづに見だてなく、ものげなきほどを見過ぐして、人数なる世もやと待つ方は、いとのどかに思ひなされて、心やましくもあらず。

つらき心を忍びて、思ひ直らんおりを見つけんと、年月を重ねんあいな頼みは、いと苦しくなんあるべければ、かたみに背きぬべききざみになむある。』

と、ねたげに言ふに、腹立たしくなりて、憎げなることどもを言ひ励ましはべるに、女もえをさめぬ筋にて、指ひとつを引き寄せて、食ひてはべりしを、おどろおどろしくかこちて

馬頭
『かかる傷さへつきぬれば、いよいよ交らひをすべきにもあらず。はづかしめたまふめる官位、いとどしく何につけてかは人めかん。世を背きぬべき身なめり』
など、言ひおどして
『さらば今日こそ限りなめれ』
と、この指かがめてまかでぬ

★見だてなく
見映えしない、みすぼらしい

★ものげなき
ひとかどの者でない
貫禄のない

★心やましく
心病む、不満

★見つけんと
期待どおりに見ることができる
つく→期待がかなう

★あいな頼み
あいなき頼み→あてにならない期待

★ねたげに
女が男を「しゃくだ」と思う心

★言ひ励まし
激しく言いつのる

★えおさめぬ筋
とてもこらえていられぬ性質

★かこちて
かこつける
口実にする

★交らひ
世の中での交際、役人としての勤務など

★世を背きぬべき身
出家するしかしょうがない身


■女「万事に、あなたが、見映えもせず、目立ちもしないこの時期を、私はこれまで辛抱して過ごしてきましたが、いづれは人の数にも入る日もこようかと期待して待つという点に関しては、焦る気持ちもなく、不満だとも思いませんでした。
だけど、あなたが、その薄情さを我慢して心を入れかえてくれる日がいつかは来るかと、あてにならないことを頼みにして、年月を重ねていくという点では、私は本当に辛いから、今がお互い別れる方がいい時期でしょうね」

と、いまいましそうに言いますので、私は腹が立ってきて、憎まれ口をさんざんたたきましたところ、女も我慢できない性分で、私の指一つを引き寄せて食いつきましたので、
大袈裟に文句をつけ

「こんな傷までついてしまったのだから、いよいよ勤めに出られるもんではない。ばかにされている私の官位も、何をもって人並みになれよう。出家するより他にしょうがない身になってしまった」
などと驚かして、
「今日という今日がいよいよ別れらしいな」と、この指を曲げて引き上げてきました。

つづく