■帝、「故大納言の遺言あやまたず
宮仕の本意深くものしたりしよろこびは、かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ、言ふかひなしや」
とうちのたまはせて
いとあはれに思しやる
帝、「かくても、おのづから
若宮など生(お)ひ出でたまはば
さるべきついでもありなむ
命長くとこそ思ひ念ぜめ」
などのたまはす
かの贈物御覧ぜさす
亡き人の住みか尋ね出でたりけん
しるしのかんざしならましかば
と思すも、いとかひなし
帝、「たづねゆく
まぼろしもがな
つてにても
たまのありかを
そこと知るべく」
※ものしたるよろこび→守ってくれた御礼
※かひある→宮仕えに出ただけのかいがある、せめて女御に、、
※さるべきついでもあり→若宮に立派な地位を与えて更衣に報いよう
※まぼろし→幻術師
長恨歌「能く精誠を以って魂魄を招く」
★「更衣には、大納言の遺言を違えないで、宮仕えを守ってくれたことへの礼に、それだけのかいのある女御にさせてあげようと、心にかけ続けてきたのに、、今はもう、、言うのも悲しい」
と言われながら、更衣の母君のじつに不憫な現状も思われ
「更衣が亡くなっても、若宮が成人すれば、しかるべき折もあるでしょう。長生きして、その時のためにこらえてほしい」
と言われる
女官命婦は、更衣の母君からの贈物をお見せになるが
帝は、これが亡き人の、魂の住みかを捜し当ててきた証拠のかんざしなら、、と思ってみるが、そんなことはないのだからと、余計悲しくなる
「たづねゆく、、
更衣の魂を捜しにゆく幻術師がいてほしい、、そうすれば、人伝にでも、その魂のありかを知ることができるのだから、、」