そのかみ思ひはべりしやう、
『かうあながちに、従ひ怖ぢたる人なめり。いかで、懲るばかりのわざして、おどして、この方もすこしよろしくもなり、さがなさもやめむ』
と思ひて、まことにうしなども思ひて、絶えぬべき気色ならば、
かばかり我に従ふ心ならば、
思ひ懲りなむと思ひたまへて、
ことさらに情なくつれなきさまを見せて、例の、腹立ち怨ずるに
『かくおぞましくは、いみじき契り深くとも、絶えてまた見じ
限りと思はば、かくわりなきもの疑ひはせよ
行く先長く見えむと思はば、
つらきことありとも念じて、
なのめに思ひなりて、
かかる心だに失せなば、
いとあはれと、なん思ふべき
人なみなみにもなり、
すこし大人びんに添へても、
また並ぶ人なくあるべき』
やうなど、
かしこく教へたつるかなと思ひたまへて、われたけく言ひそしはべるに、少しうち笑ひて、、
★さがなさ
性質の悪さ
口やかましく嫉妬する癖
★気色
そぶり
★おぞましく
性格が強く激しい、強情、勝ち気
★絶えてまた見じ
もう二度と逢うまい
(男のおもいあがった語調)
★わりなき
道理のない
★見えむ
連れ添ってほしい
★つらきこと
冷たい仕打ち
★思ひなりて
努めて思うようにする
★並ぶ人なくあるべき
正妻
■その当時思ったことは
『この女は、こうしてむやみに私に従順で、びくびくしている女らしい。
何とかして、女が懲りごりするほどの事をして、驚かして、この女の嫉妬心を少しはましになるようにし、悪い性質も無くしてやろう!』
と思って
本当に縁が切れてしまいかねないそぶりを見せれば、これほどまでに私に従順な女なのだから、きっと懲りるだろうと思い、ひどく薄情でつれない様子を見せたところ、女は例によって腹を立てて、嫉妬するので、その時私は
『こんなに気が強くては、たとえ夫婦の縁が深くとも、もうこれからは二度と逢うまい
これきりで別れるつもりなら、こういう滅茶苦茶な邪推もするがいい。
もし。行く末長く連れ添うつもりなら、辛いことがあっても我慢して、いいかげんにあきらめて、
こんな嫉妬心さえ捨ててくれれば、芯から愛しく思うだろう
そうすれば私も人並みに少しは一人前になるだろう、そうなればおまえと肩を並べる女はなくなるというものだ』
などと、我ながらうまく教えてやったもんだと思いながら、しゃべりたてますと、、、
女は薄笑いして、、、
つづく