■源氏の君は、
御あたり去りたまはぬを、
ましてしげく渡らせたまふ御方は
え恥ぢあへたまはず
いづれの御方も我人に劣らむと
思いたるやはる
とりどりにいとめでたけれど
うち大人びたまへるに
いと若う、うつくしげにて
せちに隠れたまへど
おのづから漏り見たてまつる
母・御息所(みやすどころ)も
影だにおぼえたまはぬを
「いとよう似たまへり」と典侍の聞こえけるを、若き御心地に
いとあはれ、と思ひきこえたまひて
常に参らまほしく
なづさひ見たてまつらばや
とおぼえたまふ
★うち大人びたまへるに
どの方も若い盛りを過ぎた年配
★おのづから漏り見たてまつる
自然に藤壺の姿がチラリと見える
★御息所
天皇の寝所に侍る女性
★影だにおぼえたまはぬを
三歳の時に死別したので、源氏は母君の記憶はない
★いとあはれと思ひ
亡き母に生き写しの美しい藤壺に
慕いたいと同時に、宿命的につながりのあるような哀愁的な好意を持つ
★なづなひ見たてまつらば
親密になりたい
■源氏の君は
父帝のそばを離れないので
帝に時々通う方もそうだが、頻繁に通う方は尚更、源氏の君に対し
恥じ隠れとおしきれない、、(男性と対面するときは、女性は恥じて顔を隠すしきたり)
どの方々だって、自分が人より劣っているなんて思っていないからだ
みなそれぞれに綺麗でいたが
みな若い盛りを過ぎている、だが
藤壺は本当に若く、かわいい
藤壺も懸命に隠れようとするが
源氏の君は、自然に藤壺の姿をチラリと見かけることがあった
源氏は、母、御息所(みやすどころ)の事は
影も形も憶えていないが、
「まことによく似ています」
と、典侍が言っていたので
幼い心にも、亡き母に似た人に慕いたいと同時に、宿命的に懐かしく感じて、いつもそばにいて、親密になって姿を見ていたいという気持ちになっていった