るるの日記

なんでも書きます

もののあはれ・源氏物語「上階級の実質的内容→家柄・名声・経済力すべてが豊かであること」

2022-11-20 08:39:35 | 日記
(左馬頭)
「なり上れども、もとよりさるべき筋ならぬは、世人の思へることも
さは言へどなほことなり

また、もとはやむごとなき筋なれど、世に経(ふ)るたづき少なく
時世(ときよ)にうつろひて
おぼえ衰えぬれば
心は心として事足らず
わろびたることども出でくるわざなめれば、とりどりにことわりて
中の品にぞおくべき

受領といひて、人の国のことに
かかづらひ営みて、品定まりたる中にも、また、きざみきざみありて
中の品のけしうはあらぬ選り出でつべきころほひなり

なまなまの上達部よりも、非参議の四位どもの、世のおぼえ口惜しからず、もとの根ざしいやしからぬ
やすらかに身をもてなしふるまひたる、いと、かわらかなりや

家の内に足らぬことなど、はたなかめるままに、省かずまばゆきまでもてかしづけるむすめなどの
おとしめがたく生ひ出づるもまたあるべし

宮仕に出で立ちて
思ひがけぬ幸ひ取り出づる例ども多かりかし」

など言へば

光源氏
「すべて、にぎははしきによるべきなむなり」とて笑ひたまふを

中将
「他人の言はむやうに心得ず仰せらる」と中将憎む

★筋
血統

★たづき
手づき→手続き

★うつろひて
勢力が衰えて

★わろびたる
あまりよいとはいえなくなる

★受領
任じられた国に赴任して実務をとる国守
実際に任国に赴任しない国守に対する

★人の国
京都の人から見たよその国、地方

★けしうはあらぬ
たいして悪くない
まんざらでもない

★いと、かわらかなり
さっぱりしている

★幸ひ取り出づる
良縁を得る

★にぎははしき
豊である

★なむなり
(あなたの話によると)、、らしい
伝聞

★笑ひたまふ
余裕を持ってからかったもの

★他人の言はむやうに
ほかの人が言いそうなふうに

■(左馬頭)

「成り上がりはしても、もともとそれにふさわしい家筋でない人に対する世人の思惑は、それにふさわしい家筋の人とは何といっても違います

また、もともと貴い家筋であっても、世渡りをする術もほとんど知らず、時勢に流されて勢力が衰えてしまうと、貴意は貴意として保つだけでは経済的にはことたらず、体裁の悪いことがいろいろ出てくるものです

それぞれを判定すると、それぞれは中流家庭に属させるべきです

受領といって地方のことに関わってあくせく働いて、その程度の身分と決まっている中にも段階がいくつも段階があり、この中流階級の中でも、悪くない者を選びだすことができそうな時勢です

生半可な上達部よりも、非参議の連中で、世間の評判も悪くなく、元の家筋も卑しくない者が、安楽な暮らしをしているのは、まことにさばさばしたかんじです
家に不足なことは何一つなく、費用をかけてまぶしい程大切に育てられた娘などは、ケチのつけようがないほどに立派に成長するものも多いでしょう
そういう娘が、宮仕えに出て
思いがけない良縁を得る例も多いです」

と言うので光源氏は
左馬頭の言ったことを理解しながらも、「何もかもたくさんあって豊かであるのがいいんだね」と言って笑ってからかうと
中将は「あなたにも似合わぬ、他人事のように言うんだな」と憎らしがる



もののあはれ・源氏物語「生まれた家の階級によって、女の傾向は変わる論」

2022-11-20 07:15:34 | 日記
♦️中将の上中下の階級に対する考え方は形式的であったので、光源氏は階級には形式以外の例があると、具体的内容をのべて、ちょっと意地悪をしてみる


■光源氏
「その片かどもなき人はあらむや」

中将
「いとさばかりならむあたりには
誰かはすかされ寄りはべらむ。
取る方なく口惜しき際と、優なりとおぼゆばかりすぐれたるとは
数ひとしくこそはべらめ

人の品たかく生まれぬれば
人にもてかしづかれて
隠るること多く
自然にそのけはひこよなかるべし
中の品になん
人の心心おのがじしの立てたるおもむきも見えて、分かるべきこと
かたがた多かるべき

下のきざみといふ際なれば
こと耳立たずかし」

とて、いとくまなげなる気色なるも
ゆかしくて

光源氏
「その品々やいかに
いづれを三つの品におきて分くべき。もとの品たかく生まれながら
身は沈み、位みじかくて人げなき
また直人の上達部などまでなり上り、我は顔にて家の内を飾り
人に劣らじと思へる
そのけぢめをばいかが分くべき」
と問ひたまふほどに
左馬頭、藤式部丞御物忌に籠らむとて参れり

世のすき者にて、ものよく言ひとほれるを、中将待ちとりて、この品々をわきまへて定めあらそふ

いと聞きにくきこと多かり

★際
程度の差

★優なり
非常に優れて申し分ない

★品
品格、身分、家格の質

★自然
おのずから

★中の品
四、五位の殿上人で、国守で生涯を終える家柄

浄土には上品、中品、下品の差がある。以下女の三品論は、この分類による

★おもむき
おもむく傾向、個性

★きざみ
区分、品と同じ意味

★くまなげなる
隅々まで目が届いている

★ゆかしくて
よさそうだ、ぜひ聞きたい、知りたい、と思うこと

★みじかく
賊、卑を「みじかし」と読む

★直人
平凡な各の人
四位以下の大夫層

★上達部
上の人にあたる
三位以上の官人
大臣・中納言・参議

★我は顔
我こそはと、自信ありげな顔つき

★左馬頭(ひだりのむまのかみ)
左馬寮長官
雨夜の品定めだけに登場する
五位相当

★藤式部丞(とうしきぶのじょう)
藤原氏で式部省の三等官
六位相当

★すき者
好色者

★言ひとほれる
理路整然とよどみなく言う

★いと聞きにくき
みっともない話

■光源氏
「ほんの一つの、とりえさえない女はいるものなのか?」

中将
「それほどひどい女がいるとしたら
誰がだまされて寄り付くかないだろうが
何のとりえもなくつまらない水準の女と、すばらしく優れている水準の女の数は同じくらいだ

身分の高い家に生まれた女は
人に大事に世話されて、欠点は人目につかないことが多いので、男はおのずからその様子がとてもよく見えるだろう

中流の家に生まれた女の場合こそ
それぞれの女の性格や、抱いている思いや好みが現れて、違いがあることがさまざまな面で多い

下流の家に生まれた女の水準となれば、これはとりたてて女に話を聞こうという気も起きないね」

と中将は言った。彼は女をいかにもくまなく知り尽くしていそうな様子に、光源氏は興味をそそって言った

「その階級とは何なのか?
どのように上中下と三つの階級に当てはめたらいいのか?
もともと高い家に生まれながら、その身は落ちて、位も低く人並みには見えない場合があり
一方、平凡な家の生まれで、上達部にまで出世して、得意顔に家を飾りたて、人に負けをとるまいと思っている場合と
その区別をどうやってつけたらよいのか?」

と尋ねているところへ、左馬頭と藤式部丞が、御物忌みに籠るため、参上してきた
この人たちは評判の好色者でありながら、理路整然と話をするものだから、中将は「待ってました」と迎え入れ、さっそくさまざまな階級について議論をしたが
まったく聞き苦しいことが多かった





もののあはれ・源氏物語「非のうちどころのない女とは、一流ではなく二流の女」

2022-11-20 05:36:18 | 日記
♦️貴族の女はとりすました女ばかりが目につく、男は女の自然な姿や心が見えることを望んでいる
一流の手紙よりも、二流の手紙が、その欲望に応えてくれる、、
しかし青年の淡い夢は現実にぶつかって崩れるのさ

■(光源氏)
「そこにこそ多くつどへたまふらめ。すこし見ばや。
さてなん、この厨子も快く開くべき」
「御覧じどころあらむこそかたくはべらめ」
など聞こえたまふついでに

(中将)
「女の、これはしもと、難つくまじきはかたくもあるかなと、やうやうなむ見たまへ知る。

ただうはべばかりの情に手走り書き、おりふしの答(いら)へ心得て、うちしなどばかりは、随分によろしきも多かりと見たまふれど、
そも、まことにその方を取り出でん選びに、かならず漏るまじきはいとかたしや。

わが心得たることばかりを、
おのがじし心をやりて
人をばおとしめなど
かたはらいたきこと多かり。

親など立ち添ひもてあがめて
生ひ先籠れる窓の内なるほどは
ただ片かどを聞きつたへて
心を動かすこともあめり

容貌をかしく、うちおほどき、
若やかにて、紛るることなきほど
はかなきすさびをも人まねに
心を入るることもあるに
おのづから一つゆえづけて
し出づることもあり

見る人後れたる方をば言ひ隠し
さてありぬべき方をばつくろひて
まねび出だすに、それしかあらじと、そらにいかがは推しはかり思ひくたさむ

まことかと見もてゆくに
見劣りせぬやうはなくなんあるべき」

と、うめきたる気色も恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど
我も思しあはすることやあらむ

★さてなん
条件として

★御覧じどころ
見どころ

★随分
もっている才能に応じて

★よろしきも
悪くはない
良し悪しの程度は
よし〉よろし〉わろし〉あし

★その方を
その筆跡を

★心をやりて
いい気持ちになる
得意になる

★かたはらいたき
(傍痛し)
そばで見ていて気がもめる
はらはらする

★生ひ先籠れる窓の内
長恨歌「養はれて深閨に在り人未だ識らず」(奥深い部屋に養われて、世間はまだ知らない)より

★片かど
才能の一片

★紛るる
ほかの事に気をとられる

★一つゆえづけて
一芸をひとかどのものにして

★見る人後れたる方
後見人

★さてありぬべき方
そのままで、手をかけずにおいていい方面

★つくろひて
体裁よく見せかけて

★そらに
実物を見ないで

★見劣りせぬやうはなくなんある
実際に見たとき、話を聞いて予想したことより劣ると感じる

★うめきたる気色
気が高ぶるほど嘆く

★恥づかしげなれば
こちらが気恥ずかしくなるほど、たいしたものだから



■(光源氏)
「あなたのところにこそ、女性からの手紙はたくさん集っているだろう。
少し見たいね。見せてくれたら、私のこの厨子の中の手紙を見せるよ。それとも見せるようなものはないのかな?」


(中将)
「女の人で、これこそはと、非のうちどころのない人はめったにいないものだなと、だんだん解ってきた。

女は、ただうわべだけの情で走り書きしたり、その折々の対応を心得て書く、などのことは、才能に応じてわりと上手な人が多いのだが、
本当に筆跡に優れた人を選び出すということになると、絶対にその選に漏れないという人は非常に少ないものだ

女は、自分の得意なことだけを
おのおのが自慢して
できない人をけなすなど
見ていて気がもめ、不快である

女は、親などがついて甘やかした箱入り娘の間は、男が、その女の才能の一端を耳にして、心ひかれることもある

女は、美しく、おおようで、若く、気をとられることが他にない場合、
ちょっとした遊芸に、人まねでも心を打ち込むことがあって、そこから自然と一芸をひとかどに仕上げることもある

女の、世話する後見人が、劣った所は隠して言わず、そのままで自然な所は美化して言いだすことを、、私は本人を見もせずケチをつけることはできない
しかし、本当かと見てみると、がっかりしないで済むという例は、まずない」

と、気が高ぶるほど嘆く様子に、光源氏の方が気恥ずかしかった。なぜなら全部ではなくとも、自分にも心当たりがあったからだ