はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 二章 その7 陸口の仮家

2025年01月09日 10時19分12秒 | 赤壁に龍は踊る・改 二章
孔明と趙雲は、魯粛のこまやかな計らいにより、陸口城市《りくこうじょうし》のなかにある、こじんまりとした民家を借りることとなった。
そこを仮家として、魯粛や周瑜の要請があると、登城するのである。


魯粛は同盟を言い出した人間なので、孔明たちになにかと気を使い、物資や食料などをこまめに送ってよこしてくれた。
周瑜はというと、かれの意識は曹操ひとつに向かっているらしく、孔明になにか仕掛けてくるでもなし、ひたすら軍略を練っていると言った様子である。
孔明は、陸口でなら龐統に会えるのではないかと期待していたが、どういうわけか、周瑜に仕えているはずの龐統は、まったく姿を見せない。
どうやら避けられているようだと、察しのいい孔明は気づいた。
内気な龐統を過度に刺激することに、意味は全く感じられなかったので、孔明もかれを探すのをやめた。


周瑜はたまに、孔明を個人的に呼ぶ。
そして、曹操軍の内容や、曹操に降った劉表の家臣たちの内情を聞いてきた。
孔明はそれらに正確に丁寧に答え、周瑜もまた、貴重な情報を喜んでいるようだ。
樊口《はんこう》での気まずい会談のことは、両者ともにおくびにも出さずにいる。
周瑜は変わらず自信たっぷりでほがらかにしていたし、孔明もまた、つとめて何気なく明るく振舞っていた。


仮家では、もともとの住人の親戚だという中年夫婦が、住み込みで孔明たちの世話をしてくれることとなった。
愛想のいいかれらは、魯粛から説明を受けたのか、孔明たちが侵略者を撃退してくれると信じているらしく、
「なんでもお申し付けください。あなたさまがたが力を存分に揮《ふる》えるよう、わたくしどもも全力で尽くさせていただきます」
と肩に力を入れて言った。


主人の名は韓福《かんぷく》といい、てかてか光る大きな額の男である。
その妻はふくよかで、いかにも裕福な街のおかみさんといった感じの女性だ。
仮家は大男の孔明と趙雲がふたりそろっていても、狭く感じない程度にはひろく、しかも孔明好みなことに掃除が行き届いていて、庭には松と、色づいた栗の木が植えられていた。


「よいところにいらっしゃいました。もうじき栗の実が収穫できますので、そのときは、お食事に提供できるかと思います」
韓福はにこにこと言う。
これほど愛想が良い理由について、あとからわかったが、かれらは講談を聞いてきたようなのだ。
もちろん、孫権が言及していた、長坂の戦いについての講談である。
その主人公となっている趙雲の世話をできるというのが、かれらにとっては自慢のタネであるらしい。
「親戚中に自慢できますよ」
と、夫婦はころころと笑って言った。


それにしても、講談のタネを仕入れている講談師の耳の速さには、感心するというか、呆れるほかない。
長坂の戦いから一か月くらいしか経っていないのに、江東の民衆は、そのあらかたの内容を講談をとおして知っているのだ。
興味を覚えて孔明は、かれらから、その内容を聞いたが、相当に誇張されて伝わっていて、江東の民にとっての侵略者たる曹操は悪、それに果敢に立ち向かう劉備軍は同情すべき善、ということになっていた。
善といわれて、悪い気はしないが、張飛が曹操軍を一喝したさい、肝《きも》をつぶして死んだ将兵が大勢いた、という話を夫婦が信じ込んでいることについては、さすがに苦笑せざるを得ない。
趙雲はと言うと、きらきらした目でかれらから見られるので、困惑しているようだ。
「行儀よくしていないといけないね」
孔明がからかうと、趙雲は
「講談のおれは、おれじゃない」
といって、顔をしかめた。


つづく

※ ここから、前作とは大きく変わってきます。
前作ですと、陸口に上陸後、周瑜がいろいろ仕掛けてきたり、徐庶のエピソードが長く続いたりしていました。
今回は、だいぶ様子が変わりますので、どうぞご注目くださいませ♪
それと、今朝の仙台市街は雪が降っていますが、積もるほどではありません。
みなさまのお住いの街ではどうでしょう。
どうぞみなさま、温かくしてお過ごしください。
ではでは、次回もまた、どうぞおたのしみに(*^▽^*)


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