はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その23 駆け付けた者

2022年10月12日 10時03分40秒 | 英華伝 臥龍的陣 涙の章
「よいかね、『壷中』とは、荊州に居住する豪族が組織する、荊州を守るための刺客集団なのだ。
われらが曹操勢と通じているというのならばともかく、おなじく荊州を守る者同士、いがみ合わねばならない理由はどこにもない。
わたしは劉玄徳の軍師。そしてわたしに何かあれば、それは同時に劉玄徳を敵に回すことになる。
豪族たちにとっても、荊州を前線で守っている劉玄徳という存在を失うことは痛いはずだ。

曹操にとって、わが君は天敵。
その天敵が、真っ向から曹操の歯止めになっていてくれている、という安心感は、われらの想像以上に、かれらの中にあるのだ。
もっとも、襄陽の連中は、安心しつつも、われらを侮蔑しているようだが。

ともかく、そんなわけで、『壷中』は、むしろ、わたしに手が出せないくらいなのだよ。
劉玄徳の軍師になる以前のわたしならば、目障りで邪魔な存在であっただろうが、いまは間接的に、ともに荊州を守る『仲間』になったのだから。

いまの時期、荊州に内紛を起こすことの危険を、『壷中』とてわかっているだろう。
たしかに以前は、叔父を暗殺したことに関して、わたしが報復に出る可能性を警戒していただろうから、わたしを監視し、不穏な動きがないかと、狙っていたことはあるかもしれない。
斐仁のいう、『壷中』はわたしを恐れている、という言葉は、そこから生じたのだ。
だが、それは、誤解であったのだ。
斐仁は、『壷中』の真ん中にいた男ではない。
七年間も、『壷中』の外…新野に派遣されていた男なのだよ。
『壷中』の中枢と、見解がくいちがってもおかしくない。
よって、いまのわたしを『壷中』が狙うことはない。
つまり敵はわたしを狙っていない」

「だが『壷中』は、刺客の集団なのであろう?」
「そうだな。だが、黄巾賊のように、狂信的な集団ではない。
かれらは、きちんとかれらなりの戦略をもって動いているのだ。
すなわち、荊州を外敵より守る、というね。
『壷中』のはじまりはたしかに忌まわしいものだったが、皮肉なことに、その存在によって、荊州が戦乱の危機から救われてきたことは、何度もあったはずなのだ」
「では、俺たちは、いったい、何と戦っているのだ?」

それは、と孔明が言いかけたところで、ふと言葉をとめて、双眸だけを動かす。
趙雲も、その視線の先のほうへと、首を向けた。

一陣の風が吹き、木々の枝をいっせいに揺らす。

趙雲は、孔明の目線の先にいた人間に、おどろいた。
たしか、この人物は、孔明が襄陽に到着した際にあらわれた、行商の瓜売りの老人ではなかったか。

老人は、孔明に向かって片膝だけを立ててかしこまっている。
おどろいたことに、老人の身にまとうものは、昨日までの、行商の旅程でよごれた服ではなく、いささか年代を感じさせるが、なかなか立派なつくりの鎧装束であった。

老人は、孔明から声をかけられるのを待っている。
趙雲が孔明のほうに目をやる。
孔明はおどろきの表情を浮かべながらも立ち上がると、かしこまる老人の前に立った。

長身の孔明の影が、片膝を立てて座っている老人の頭上に落ちる。
影によっておのれの前に孔明が立ったことがわかったのか、顔を上げぬまま、老人は言った。
「ご恩に報いるために、参上つかまつりました」
「ご恩?」
怪訝そうに、鸚鵡返しにする孔明に、老人は言う。
「はい。それがしは以前、貴方さまの叔父君の諸葛玄さまの下で働いていたものでございます」

つづく

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