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帯とけの新撰和歌集
歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。
紀貫之 新撰和歌集巻第四 恋雑 百六十首 (二百四十三と二百四十四)
我が恋は人知るらめやしきたへの 枕ばかりぞしらばしるらめ
(二百四十三)
(わたしの恋は人に知られているか、いや知らないでしょう、敷き妙の枕だけが、知ろうとすれば知るでしょう……わたしの乞いは、この人感知するかしら、しないでしょう、色絶えの間具らだけ、汁るというのならば、汁るでしょうよ)。
言の戯れを知り、言の心を心得て歌を聞きましょう。
「こひ…恋…乞い」「や…反語の意を表す」「しきたへの…敷き妙の…枕、床、衣などにかかる枕詞…色絶えの」「まくら…枕…人知れず嘆いた涙も喜びの涙も沁み込んだもの…まぐら…間具ら…身の間のもの」「しる…知る…汁…濡れる」。
古今和歌集 恋歌一。題しらず、よみ人知らず。女の歌として聞く。
歌の清げな姿は、忍ぶ恋を知る枕の歌。歌は唯それだけではない。
歌の心におかしきところは、燃え尽きない女の情念。
玉ほこの道にはつねにまどはなむ 人をとふとも我と思はむ
(二百四十四)
(恋文の使いが、道には常に戸惑うてほしい、他の人を訪ねるとも、我と思うでしょう……玉ほこが、わがみちには、津根にまといついてほしい、君がひとを訪うとも、われと思うでしょう)。
言の戯れと言の心
「玉ほこ…手紙を運ぶ人…手紙(恋文)…行き交う道…行き交うもの」「玉…美称」「ほこ…つわもの…ほ子…お子…おとこ」「みち…道…路…女」「つねに…常に…津根に」「津…女」「根…根元…根本」「まどふ…惑う…迷う…まとふ…纏いつく」「なむ…その事態の実現を強く望む意を表す」「人…他の人…他の女」。
古今和歌集 恋歌四。題しらず。典侍(後宮女官の次官)の歌。
歌の清げな姿は、最近手紙も寄こさず己も来ない男を思っての歌、とすれば恋歌で、一般向けの歌集、古今集では恋歌四に収められてある。歌は唯それだけではない。
歌の心におかしきところは、見捨てられたらしい女の生々しい情念が詠まれてあるところ。
おとなの男のための歌集、新撰和歌集では、「心におかしきところ」の方が主題なので雑歌。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。