帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集巻第四 恋雑(二百四十九と二百五十)

2012-08-09 23:55:43 | 古典

   



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第四 恋雑 百六十首
(二百四十九と二百五十)


 葦鴨のさわぐ入江の白浪の しらすや人をかく恋ひむとは 
                                  (二百四十九)

葦鴨の鳴き騒ぐ入江の白浪が、知らせるか、人をこのように恋しがっているとは……脚が物、さわぐ入江の、白汝身の知らないのか、人お、このように乞うているとは)。


 言の戯れと言の心

 「あしかもの…葦鴨の…悪し女の…脚が物」「鴨…鳥…女」「さわぐ…鳴き騒ぐ…心が騒ぐ…情念が騒ぐ」「江…女」「しらなみ…白浪…白汝身…白けたおとこ…色あせたおとこ」「な…汝…親しみを込めた対称」「しらす…知らす…知らせる…知らず…知らない」「や…疑いの意を表す…感嘆、詠嘆の意を表す」「人を…男を…おとこ」「恋…乞い」。


 古今和歌集 恋歌一。題しらず、よみ人しらず。女の歌として聞く。


 歌の清げな姿は、心が騒ぎ波立つ、片恋いのありさま。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、白汝身となったものを、なおも乞うありさま。

 

 わたつみの沖つ潮あひに浮かぶ泡の 消えぬものからよるかたもなし
                                   
(二百五十)

 (海原の沖の潮合に浮かぶ泡のように消えないわが命ゆえ、寄り添い頼るお方も無い……をうな腹の奥の、しほ合に浮かぶ泡のように、消えないものの、たよる形無し堅も無し)。


 言の戯れと言の心

 「わたつみ…海原…わたつ身…をうな腹」「海…女」「おき…沖…奥」「しほあひ…潮合…潮が合流する所…士お合い」「しほ…士ほ…子お…おとこ」「合…合流…交合」「よるかた…寄る方…寄る潟…撚る方」「よる…寄る…近寄る…頼る…撚る…強くする」「かた…潟…方…お方…方法…形…かたち…堅…堅さ」。


 古今和歌集 雑歌上。題しらず、よみ人しらず。女の歌として聞く。


 歌の清げな姿は、古今集の「老い」を詠んだ歌々の中にあると、身寄りも頼る人も亡くした老女の嘆きのように聞こえる。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきとろは、一過性のはかなくなったおとこのさがを難じるところ。

 


 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

 
新撰和歌集の原文は『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。


帯とけの新撰和歌集巻第四 恋雑(二百四十七と二百四十八)

2012-08-09 00:03:10 | 古典

   



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第四 恋雑 百六十首
(二百四十七と二百四十八)


 こむ世にも早なりなゝむ目の前に つれなき人をむかしと思はむ
                                  
(二百四十七)

 (来世にでも、早くなってほしい、目の前にいる、冷淡な人を、昔の事と思いたい……山ばくる夜にも、早くなってほしいよ、めの間辺で、つれない人、お、武樫と思いたい)。


 言の戯れと言の心

 「こむよ…来世…くる夜…好き情態の来る夜」「め…目…女」「まへ…前…間辺」「間…女」「に…場所を示す」「つれなき…薄情な…無情な」「人を…男を…男、お…おとこを」「むかし…昔…武樫(この戯れは伊勢物語にもある)…強く堅い」「おもはむ…思はむ…思いたい…おも食む…おも嵌む」「む…意志を表す」。

 

 古今和歌集 恋歌一。題しらず、よみ人知らず。女の歌として聞く。


 歌の清げな姿は、恋の終わり宣言。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、反応のない無情な情態になったものに、女の思い。

 


 しかりとてそむかれなくにことしあれば まづ嘆かるゝあはれ世の中
                                  
(二百四十八)

 (その通りだと言って、叛くことはできないので、事があれば、先ずため息がでる、ああ感慨深い世の中よ……し、かりとて、背を向けられないので、異しあれば、先ず嘆き乞い願われる、あゝあはれ、夜の仲よ)。

 
 言の戯れと言の心

 「しかり…然り…そのとおり…し狩り…し駆り」「し…士…子…肢…おとこ」「かり…めとり…むさぼり…まぐあい…駆り…駆りたて」「そむく…叛く…背く…よを捨てる…背を向ける…心を離す」「ことしあれば…事しあれば…事が起これば…言しあれば…何か言われれば…異しあれば…よれよれになったりすれば」「し…強調の意を表す…子…おとこ」「なげかるゝ…嘆かれる…ため息つかれる…悲しまれる…こいねがわれる」「あはれ…哀れ…あゝしみじみ感じる」「世の中…男女の仲…夜の仲…男女の夜の中…体言止めは余情を含む」。


 古今和歌集 雑歌下。題しらず。ことに叛き流罪になった男の歌。

 
 歌の清げな姿は、世の中に生きる辛さ。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、男女の夜の仲のつらさ。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。