
尖閣諸島接続水域に中露艦艇が初めて進入 中国がロシアを利用したのか
2016年6月8日から9日にかけて尖閣諸島周辺の接続水域にロシア及び中国の艦艇が相次いで進入した。これまでも中国は接続水域内に国家海警局(沿岸警備隊)の巡視船を恒常的に進入させてきたが、軍艦はこれが初めてである。一方、ロシア海軍について、防衛省は「過去にも例がある」としており、接続水域内に軍艦を進入させたのはこれが初めてというわけではないようだ(後述)。
これに対して日本政府は安倍首相を議長とする国家安全保障会議を開催するなど極めて緊迫した反応を見せ、日本のマスコミでも大きく取り上げられた。どちらかというと、これはロシアというより中国の行動に対する反応であったと見られる。
そもそも接続水域とは領海の外側12カイリの水域であり、国家の領域ではないが関税や出入国管理などの管轄権は及ぶとされる。軍艦の航行については、無害航行が認められているため、本来はロシアや中国の軍艦がこの海域を通過することには法的問題はない。
だが中国は尖閣諸島を自国領であると主張して日本政府と対立し、日本側の抗議にもかかわらず、巡視船その他の公船を恒常的にこの海域に進入させ続けてきた。こうした経緯があるために、今回の中国艦進入には大きなインパクトがあったのだろう。一方、ロシアは尖閣問題に関しては中立を維持しており、日本政府ともこの点では対立していないため、軍艦が通るといってもその意味するところはかなり異なる。
日本の外務省が午前2時に中国大使を呼びつけて抗議を行うという強硬な姿勢に出たのに対し、ロシアに対しては「外交ルートを通じた注意喚起」(菅官房長官談話)に留めたのも、こうした経緯の違いが大きく影響していたと言える。
.最初に進入したのはロシア艦
では、今回の事態はどのようにして生じたのだろうか。
時系列で見ると接続水域に最初に進入したのはロシア艦である。これは今年3月にウラジオストクを出港し、東南アジアでの国際対テロ演習に参加した太平洋艦隊の駆逐艦アドミラル・ヴィノグラートフ以下3隻の艦艇グループと見られる。報道によると、ヴィノグラートフ以下の艦艇は8日午後9時50分ごろに久場島と大正島の間の接続水域に南側から進入した。一方、中国艦はその3時間後にあたる9日0時50分ごろに北側から同接続水域に進入している。
中露艦艇が接続水域を出たのはほぼ同時で、9日午前3時5-10分ごろ。ともに接続水域を北側へと抜けている。したがって、ロシア艦がそのまま北への進路を維持したのに対し、北から進入してきた中国艦は接続水域内でUターンして再び北へ抜けたことになる。
以上を見るに、ロシア艦に政治的意図があったかどうかは今ひとつ判断しがたい。ロシア艦が日常的に接続水域を通過しているのであれば特に政治的な意図はなく母港への最短ルートを取ったということになろうが、我が国の統合幕僚監部は南西諸島付近におけるロシア艦の通過状況をほとんど明らかにしていない。そこで筆者が独自に関係筋へ確認してみたところ、ロシア艦はこれまでにも東南アジア方面との往復で同じようなルートをたびたび通過しているとのことだった。
一方、昨年11月には、太平洋艦隊の巡洋艦ワリャーグがインド洋で演習を実施した帰路に南西諸島付近を通過し、「数日間に渉る往復航行、錨泊」を行ったほか「一部我が国接続水域内での航行」があったことを統合幕僚監部が発表している(統合幕僚監部が南西諸島におけるロシア艦の活動を公表したのは、確認できた範囲ではこれが唯一)。つまり、ロシアは最近になって単なる通過とは異なる動きも見せていたわけで、これも判断を難しくする要因であろう。
もうひとつの問題は、仮に何らかの政治的意図があったとして、それは何かということである。この場合、領土問題を巡って日露関係が大きく動き出しそうな中で、ロシアが対日牽制に出たという見方がまず考えられよう。ロシアの対外政策において、対話と軍事的牽制を組み合わせるというパターンは一般的に見られるものであり、実際に北方領土や千島列島では軍事施設近代化の動きなどが進んでいる(ただし、これらについても一般的な軍事力整備を対日牽制策としてプレイアップしている側面もあり、一概に全てを「対日」で捉えられるものでもない)。
しかし、これまでロシアが展開してきた牽制策はあくまでロシア単独のものである。中国はこれまでにも、台湾海峡問題や尖閣問題に関してロシアを自国側に引き込もうとしてきたものの、ロシアは極力中立を維持しようとしてきた。領土問題で中国側に立ったところでロシアのメリットは薄く、むしろ日米との対立に巻き込まれるというコストが極めて大きいためである。
では今回、中露の艦艇が同じ時間帯に同じ接続水域を航行したことをどう捉えるべきか。中露が連携して今回の行動に出たのであれば、ロシアの対日牽制は新たなフェーズに入ったことになり、今後の領土交渉にも極めて不利に働くことが予想される。しかし、現状ではその可能性はあまり高くなさそうだ。
すでに述べたように、中国艦はロシア艦の接続水域進入後に北から進入し、ロシア艦とほぼ同時に水域を出ている。この動きを見るに、中国は事態の推移を見て後追いで行動を決定したのではないか。
だが、これまで軍艦の接続水域進入を手控えてきた中国が初めて軍艦の侵入に踏み切った理由は何か。これについても真相はいまだはっきりしないが、やはりいくつかの可能性が考えられる。
第1に、ロシア艦の接続水域進入を見た現場の艦長が独断で決めた可能性がある。中国側にしてみれば尖閣は自国領であり、ロシア艦またはこれを追尾している海自艦船が接続水域を通ることは認められないとしてこうした決断を下したのではないかという見方である。ただし、ロシア艦が平素からこの海域を通っているのだとすると、今回に限って軍艦が出てきた理由がはっきりしない。また、このような政治的影響力の大きな決断を現場の艦長が勝手に下せるのかという問題もある。
第2の可能性としては、中国側がロシアを利用したという考え方も成り立つ。ロシア艦の通過に便乗し、中露が尖閣諸島問題で共同歩調を取ったかのように中国が見せかけた、というのがこの種の見方で、たしかに一定の説得力はあろう。ただ、この場合、利用される格好のロシアとの関係性を中国側がどう計算したか、という疑問は残る。
一方、日本政府は今回の事案を中露で別個に取り扱い、中露vs日本という構図で捉えられることを極力避けようとしているようであり、この意味では2つ目の可能性が強く懸念されているのではないかと思われる。
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平和ボケした日本は米軍の後ろ盾が無いとドウニモならないが沖縄、米軍出て行けも本気なのか。フィリピンの様になるのは必定、揺さぶりに動じない軍事力も増強し防衛のため保持しなければならない...綺麗事が通じる国など無い事が現実の様だ。