阿部ブログ

日々思うこと

第4世代の小型原子炉「溶融塩炉」をSonyが開発する

2018年08月23日 | 雑感
2018年(平成30年)6月14日(木)、衆議院第一議員会館の大会議室にて自由民主党・資源・エネルギー戦略調査会・新型エネルギー検討委員会が開催された。これは「溶融塩炉(MSR)第二回推進総会」で、2017年6月に開催した第一回に次ぐものである。
既に第五次エネルギー基本計画に、次世代の原子炉として溶融塩炉の記載が入り、個人的には、政治的なパワーをまざまざと見せつけられた画期的な出来事と認識している。溶融塩炉は、高速増殖炉「もんじゅ」の代替にもなりうる次世代原子力の有力候補で、水を使わず、燃料も溶融塩に溶け込んでいる為、福島第一原発のような過酷事故は起きづらく安全性が高い。しかも小型化可能で低コストで作れると見込まれている。既にに中国や米国で、開発が進められており、前述のように経済産業省の「第 五次エネルギー基本計画」にも明記された。
溶融塩炉は、プルトニウムのみならず、今後、原発立地場所に溜まっている使用済み燃料や福島のメルトダウンしたデブリを燃料に使い、電力を生み出すことも期待できる炉である。エネルギー基本計画には、「プルトニウム保有量の削減に取り組む」と明記されており、その有力な技術手段が溶融塩炉である。

この溶融塩炉の開発に名乗りを挙げたのは、何と「Sony」である。
自分が知るSonyは、人の生死に係る事業は行わないポリシーと想っていたが、今回の溶融塩炉開発は、違うようだ。でも、この判断には納得感がある。国際エネルギー機関(IEA)によれば、今後25年間で、世界全体の200基以上の原子炉が閉鎖される予定で、日本国内だけでも3兆円以上の市場規模と推定されている。この廃炉ビジネスは、50年以上の長期にわたる事業となり、安定した事業展開が期待できる。また、溶融塩炉は使用済核燃料の減容処理を行うのが目的であり、この炉の開発をSonyが行う事は、巨大な利権を手中にしたのも同じことである。何せ、日本のみならず使用済核燃料問題は世界中で大きな課題として焦点が当たっており、必要な資金は、湯水のように供給されるだろう。

< 山本拓 議員 >
この度、もんじゅが廃炉になることが決まった。今後は、安全性に優れ、使用済み燃料を燃料として発電ができるといわれる溶融塩炉に力を入れていきたい。自民党としてこの溶融塩炉を公式に取り上げ推進していく。

1 < 有馬朗人 先生 >
日本は先端分野の研究開発力が落ちてしまった。一度は世界一位になったが、いまや中国にも抜かれて世界五位だ。中国はやり方が上手い。科学院という組織があって、科学院は米国と学術界の枠組みで協力協定を結んでいる。その中で上海の放射光施設のように、日本がいち早く進めて成功したことを取り入れ、ものにしてきた。原子力では溶融塩炉もそのひとつであり、2011年から原子力にも拘らず、安全性が高いと期待される溶融塩炉を開発中である。そのプロトタイプは2020年には動くという。日本も負けないで、早く溶融塩炉の開発に取り組むべきだ。

2 < 中国科学院・上海応用物理研究所、徐洪傑(Xu Hongjie)熔融塩炉開発総リーダー >
中国には、広大な乾燥地帯がある。20年ほど前から、国内で大量のレアアースを採掘した結果、水を使わず高い温度の熱が供 給可能で、熔融塩炉原子炉の燃料となりうる「トリウム」が大量に貯蔵されていることが判明した。
そこで上海では、いち早く溶融塩炉を実用化し、地球温暖化問題への解決策とするべく、米国のエネルギー省と中国科学院とで研究協力の覚書(MOU)を結び、2011年から上海応用物理学研究所を主体にして、着々と開発を進めている。上海応用物理学研究所では、放射光施設を建設し、最先端の研究をスタートさせたが、当時、有馬朗人先生のご指導で、日本からの技術とともに 装置(播磨のスプリング8放射光施設の同等品)を導入し、たいへん恩義を感じている。この度の溶融塩炉開発では、日本に7年ほ ど先んじて研究開発を開始し、すでに150億円(日本円に換算)を投じてきた。本年2018年末には、実験炉のシミュレータ(実機相 当の部品と機能とを電気加熱で稼働させる装置)が完成し、2020年末には、核加熱の原子炉【2MW級】、いよいよ、溶融塩原子炉 に核反応の火を入れる段階を視野に計画を進めている。

3 < (米)トールコン・パワー社、ロバート・ハーグレーブス博士 >
弊社の「トール」とはトリウムを意味する。溶融塩炉は、使用済み燃料の処理だけではなく、温暖化でも切り札になると考え、 トールコンは南半球で人口の多いインドネシアにて、世界で最初の溶融塩炉の実現を目指している。地球温暖化、パリ協定のCO2放出量削減は、溶融塩原子炉を導入すれば、単にクリアするだけでなくお釣りが来るはずだ。
トールコンの原子炉には新しい技術は使っていない。米国で既に開発された技術を、商業炉のスケールで再現するだけだ。実機スケールでの二年間の試験運転期間を入れても、トータル数年で商業炉の稼働までもっていける。もうひとつの特徴は、造船技術をベースにした点である。安全系は水で冷却し、原子炉は船に乗せる。ドックの船体の建造ラインを使って大量生産する。船に乗せることで火山噴火などの緊急時に避難させることにも応用できる。
日本とも関係の深いインドネシア、その大統領顧問と協力し、インドネシアのエネルギー問題を解決する切り札としてデビューさせるつもりである。発電系については、従来の技術を使うので詳細な設計もできている。十分に実現可能なはずである。

4< (米)エリシウム・インダストリー社 、ユーセフ・ボールアウト博士 >
エリシウムは、東日本大震災を契機に、日本、福島を助けようとボストンに留学していた日本人学生とボストンの大学の先生、アメリカの海軍研究所出身の研究者たちにより、構成された研究開発ベンチャーである。日本の原子力産業の危機の一助となるため、 福島のデブリを燃焼する原子炉を開発することが、最終目標である。すなわち、究極の廃棄物焼却炉の建設を目指す。

米国での国の研究資金の流れは以下のようになっている。DOEは 2015年から溶融塩炉に予算をつけ始めた。GAINというプロジェクトが立ち上がり、ビル・ゲーツのテラパワー社が最初に資金を獲得したが、弊社も本年DOEから4億円(日本円換算)相当の研究予算を獲得した。弊社の原子炉は、一基で68トンの使用済み燃料を燃料として稼働する。使用済み燃料を弊社原子炉の燃料 に変換するには、日本の電力中央研究所が開発した技術が利用できる。弊社はこの技術を活用し、昨年、その検証試験をDOEの支援のもと、アルゴンヌにて実施し、概念検証に成功した。
また、エリシウム社と日本のトリウム・テック・ソリューション社【㈱TTS】は両社ともに、液体燃料を使い、プルトニウムや使用済 み燃料が燃焼・消滅できることを実験的に確かめることを狙っている。具体的には、TTSはすぐに使用可能なカザフスタンの原子炉を使い、経験を重ねる。弊社は、最終的には高速中性子高温熔融塩原子炉の建設を目指すが、日本の常陽原子炉(茨城県東海 村)も実験炉として活用できると考えている。

5< (日本) 山脇道夫(東京大学名誉教授) >
日本が溶融塩炉を開発するための戦略は、先ずバックエンド対策用として、プルトニウムやマイナーアクチニドなど放射性廃棄 物の高効率な核変換・消滅が可能な塩化物溶融塩燃料高速炉を開発することが当面の目標となる。また、再生可能エネルギーの バックアップ電源としての可能性の追求も魅力がある。
燃料を炉心内に閉じ込めて過酷事故をほとんど起こさないようにした高度安全炉である静止燃料型溶融塩炉や、その原子炉に乾式再処理系を結合して液体状態で燃料を循環処理できるようにした統合型溶融塩高速炉(IMSFR)など、安全で機能的、かつ経済的なシステムを独自に考案してきた。電中研で開発を進めてきた乾式再処理技術が活用されるほか、福井大学での基盤研 究に基づく概念設計の成果が取り入れられている。それら優れた炉型を目指して日本型溶融塩炉を開発していくことが望まれる。
開発のための研究課題をテーマ別に整理して提示したが、既存の施設の共同利用や、国際協力などを活用することにより、迅速に諸データを入手しつつ、実験炉の設計・建設、さらには運転・試験を推進していけば、先行の諸外国からさほど遅れることな く、また多くの学生、若手研究者に夢を与えながら、有益な溶融塩炉開発を実現できると期待している。

6< 若い人たちからの要望書 >
最後に若い人たちにも率直な感想を求めた。メンバーは、電通大生、慶応大生、農工大生、東京都市大生、東京大学卒業生の連 名により、要望書の形で読み上げてもらった。
内容は、「再生可能エネルギーばかりではなく、原子力にも将来のエネルギーを担う場を与えてほしい。原子力のなかには溶融 塩炉、高温ガス炉、そしでナトリウム冷却のもんじゅ型高速増殖炉、いろいろな選択肢がある。現状は、希望する選択肢を語るレベ ルどころか、就業の機会と研究場所自体も限られてきており、原子力産業の進路はどんどん狭き門となっている。ひいては、別の仕事も選択せざるをえない可能性にすらある。我々に原子力に力を発揮する機会を与えてほしい。場さえ与えられれば、よろこんで力をふるう自信があります。」