ＥＵのグリーンカーイニシアティブ

欧州委員会は2008年11月末に景気対策として2,000億ユーロ規模の「欧州経済回復計画（European Economic Recovery Plan）」を発表した。欧州委員会は、欧州経済再生計画の一環として、自動車、建設、製造という3つの産業部門における研究活動を強力に後押しする手段として官民連携パートナーシップ(Public-Private Partnership：PPP)を展開すると発表している。これらパートナーシップは、地球環境に配慮した持続可能な経済を実現するための技術革新を生み出す可能性の高い分野でもある。

①「Factories of the Future（未来の工場）」イニシアチブ、製造業向け（研究開発予算：12億ユーロ）
②「Energy-efficient Buildings（エネルギー効率のよい建物）」イニシアチブ、建設業向け（研究開発予算：10億ユーロ）
③「Green Cars（グリーンカー）」イニシチブ、自動車産業向け（イニシアチブ全体の予算は50億ユーロ相当、うち研究予算は10 億ユーロ）

③のグリーンカー・イニシアチブは、リーマンブラザーズ破綻に起因する金融危機による経済苦境に立つ自動車産業を支え、かつ後押しし、新しい持続可能な道路輸送システムの開発を支援するため全体で50億ユーロの資金が提供される。資金全体のうち、40億ユーロは欧州投資銀行(European Investment Bank：EIB)から融資され、残りの10億ユーロは、と民間企業からの「研究支援」として提供される。
また、これら財政支援に加えて、低二酸化炭素排出車にかかる自動車登録税を減額して購買意欲を促すなど、加盟国による規制措置を含めた需要面での対策もあわせて実施される。

少々古いデータであるが、EUにおける二酸化炭素排出量の28%（2005年）が運輸部門から排出されており、EUにおける運輸関連の二酸化炭素総排出量の90%以上が、道路＆輸送に起因すると言われている。
ＥＵにおける二酸化炭素排出量全体は減少しているが、輸送部門（貨物＆旅客）における排出量は増え続けている現状がある。
グリーンカー・イニシアチブにより、ＥＵ域内における持続可能な輸送手段の研究・開発は、地球環境の保護に役立つと同時に、イノベーション主導型のマーケット創造を指向するものであり、ＥＵの自動車産業の世界における競争上の優位性をもたらすことにつながる。
グリーンカー・イニシアチブの活動は、大きく３の部分で構成される。

①研究開発。
道路輸送のグリーン化に関する研究への助成。
予算：10億ユーロ。5億ユーロはＥＵ出資、残りの5億ユーロを産業界と加盟国が負担。

②欧州投資銀行
EIBからの融資による産業イノベーションの支援 。
予算：40 億ユーロ

③公的支援＆対策
低炭素自動車に対する流通税・登録税の減額など、需要重視の方策や公的調達。

グリーンカー・イニシアチブの研究テーマには、次のようなものがある。
・トラックに関する研究
・内燃機関のグリーン化に関する研究
・バイオメタンの利用に関する研究
・物流・輸送システムの最適化に関する研究
・以下のテーマに関する、電気自動車およびハイブリッドカーの研究
・高密度電池電気エンジン
・スマートグリッドおよび、それらと車のインターフェース

上記テーマ以外に、今後、環境負荷低減トラックに関する研究、内燃機関、物流、知的輸送システムなどに拡大される予定で、2011年にはスマートグリッドおよび再充電システムについても研究開発への助成が行われる可能性もある、とされる。

輸送のグリーン化に関連したＥＵのその他の研究活動としては、水素・燃料電池共同技術イニシアチブ(Hydrogen and Fuel Cells JTI)がある。このイニシアチブは、欧州委員会と、ＥＵ域内の主要な燃料電池・水素関連企業から構成され、今後6年間で4.7億ユーロの資金を助成する。