阿部ブログ

日々思うこと

中国の労働力問題~ルイスの転換点~

2013年04月07日 | 中国
中国の労働力不足が問題視されているが、ついにルイスの転換点(Lweisian Turning Point)に達した。ルイスとは、ノーベル経済学賞を受賞したアーサー・ルイスの事で、「Economic Development with Unlimited Supplies of Labor」などの著書により開発経済学の確立に多大な功績を残しており、農村と都市における労働力の移動に着目した二重経済モデルによる人口流動モデルが有名。
ルイスの転換点とは、工業化の過程で農村の余剰労働力が、都市部の非農業部門に移動するに伴い、農村の余剰労働力が減少し、ついには労働力の供給が行えなくなる時期が訪れるというもの。中国では、2012年にこのルイスの転換点を迎えたと判断されている。

中国の東部沿岸地域における労働者不足は、2004年から指摘されているが、この労働者不足は、2012年ついに内陸中部地域にも波及した。ルイスの転換点に達した最大の原因は、中国政府の内陸部開発にある。沿海部と内陸部の格差是正を目的とした内陸地域での大規模投資・開発により、沿海部への労働力の供給源であった内陸農村人口が現地に留まる事となり、人口流動の流れが変化した。江蘇省蘇州宿遷工業園区管理委員会の顧玉坤主任は、成長著しい東部沿岸部にに労働力が集中していたが、現在は中国政府が行う内陸部での資本投下により、労働力の移動が大きく変化している事を認めている。

特に一人っ子世代の製造業離れが労働力不足に大きく影響している。実際に2000年~2010年の間に、若年層(16~24歳)の求職者の割合は57%から34%に減少している。中国の生産年齢人口は2013年がピークであり、これ以降減少に転ずるが、今後は製造業や建築業界の現場で働くのは中年ブルーカラーの労働力に依存する事となる。

中国国務院発展研究センターの李偉主任は、今年の全国政策咨詢会議の席上で、中国経済が転換期にあり、中長期的に見て潜在成長率は低下すると指摘し、中国経済を取り巻く内的・外的環境は依然複雑なもので、大きな不確実性があるとし、短期的には、需要が安定的な伸びを示しているが、経済回復の原動力が不足しており、経済運営の不確実性と脆弱性が非常に強いとしている。このような経済判断の中、労働力不足はボディーブローのように中国の経済発展の足かせとなる可能性が高い。

さて、このような環境変化の中、トップの交代を期に中国政府は国務院機構改革を実施している。
これまで国家人口・計画出産委員会が担当してきた人口政策研究・策定機能を、国家発展改革委員会に移し、出産管理や定年退職年齢の引き上げ、年金改革など通じて労働人口比率を高めようとしているが、多分失敗するだろう。

米国通商代表部が輸出に関する年次報告書を発表

2013年04月04日 | アメリカ
TPPの議論が様々報道されているが、このような中、米国通商代表部(USTR)が、米国の輸出に関する年次報告書を大統領と議会に提出した。報告書は「外国貿易障壁報告書」、「衛生植物検疫措置に関する報告書」、「貿易の技術的障害に関する報告書」の3本。

これらの報告書は、米国の輸出に関する障壁を取り除く為のオバマ政権の取り組みについて報告しているが、製造業回帰による雇用問題の改善を急ぎたいオバマ政権の今後の動向を予測するには良い資料となるだろうし、何せ輸出に関する報告なのだから今後のTPP交渉の展開を考える上でも興味深いものだ。

■外国貿易障壁報告書
2013 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers Office of the U.S. Trade Representative, April 2013

■衛生植物検疫措置に関する報告書
2013 Report on Sanitary and Phytosanitary Measures Office of the U.S. Trade Representative, April 2013

○報告書概要
2013 Report on Sanitary and Phytosanitary (SPS) Barriers to Trade Office of the U.S. Trade Representative, April 1, 2013

○ファクトシート
Fact Sheet: Expanding Food and Agricultural Exports: Successes in Reducing Sanitary and Phytosanitary Barriers Office of the U.S. Trade Representative, April 1, 2013


■貿易の技術的障害に関する報告書
2013 Report on Technical Barriers to Trade Office of the U.S. Trade Representative, April 2013

○報告書概要
2013 Report on Technical Barriers to Trade (TBT Report) Office of the U.S. Trade Representative, April 1, 2013

○ファクトシート
Fact Sheet: Successes in Reducing Technical Barriers to Trade to Open Markets for American Exports Office of the U.S. Trade Representative, April 1, 2013

イスタンブール=アンカラ高速鉄道とボスポラス第3橋

2013年04月02日 | トルコ
ボスポラス海峡を跨ぐ3番目の吊り橋の建設が、ポイラズキョイとガリプチェの間で開始された。このボスポラス第3橋は、イタリアの建設会社アスタルディとトルコのICイチタシ2社による共同企業体(JV)が建設プロジェクトを落札しており、総事業費は約25億ドル。吊り橋の建設と併せて高速道路も建設される。

この高速道路は、ヨーロッパ側のテキルダー県とアジア側のマルマラを結ぶ414kmの北マルマラ自動車道で、総工費は50億ドルを超える規模。因みに今回のボスポラス第3橋と北マルマラ自動車道の入札には、石川島播磨と伊藤忠連合は参加していない。

さて、このボスポラス第3橋には鉄道が走る事となる。イスタンブール=アンカラ高速鉄道(YHT)で、既に工事の97%は完了している。最終区間であるイスタンブール=エスキシェヒル線の内、キョセキョイ=ゲブゼ間部分56kmの工事がスタートしており、この区間が完成すればイスタンブール=アンカラ間の全長523kmが接続され、両都市を3時間で結ぶ高速列車が疾走する。

この高速鉄道は、今年2013年10月29日に開業する予定で、トルコ共和国国営鉄道(TCDD)では、1日5万人、年間にして1700万人の利用者を見込んでいる。

イスタンブール=アンカラ高速鉄道は、総工事費1億4682万5952ユーロで、トルコ共和国国営鉄道(TCDD)は、2023年までにトルコ国内の鉄道事業に、総額4500万ドルを投資するとしており、既にウルマク=カラビュク=ゾングルダク鉄道の近代化プロジェクトが展開しつつあり、これはEUのInstrument for Pre-Accession Assistance と呼ばれる融資制度を利用している。

イスタンブール西部開発と言い、アンカラ以東での開発プロジェクト計画と言い、PKK問題の解決に目処をつけた今後のトルコの経済発展とインフラ投資には、今後も要注目である。

脳機能の解析研究 「Brain Activity Map Project(脳行動マップ・プロジェクト)」 が始動する

2013年04月02日 | 日記
ヒト・ゲノム解析に次ぐ、ビッグプロジェクトがEUと米国で、相次いで始動する。

EUは、人間の脳の機能と仕組みを、可能なかぎり忠実にシミュレートする「Human Brain Project(HBP)」を始動させる。このプロジェクトには、今後3年半で5,400万ユーロ。10年間継続するこのプロジェクトへの投資は、総額約12億ユーロに達する。最終的には、2020年までに人間の脳をユーロ内のスーパーコンピューター・クラスターでシュミレートする。

「Human Brain Project」には、ユーロ圏の87の研究機関が参加する。EUは、「Human Brain Project」と同時に「Graphene」と言うプロジェクトも始動させる。このプロジェクトにも10億ユーロの資金を投入する。

EUと同じく米国も同様の人間脳プロジェクトを始動させる。

2月12日の一般教書演説においても言及された、脳機能の解析研究「Brain Activity Map Project (脳行動マップ・プロジェクト)」に次年度予算が計上される。予算額は3億ドルと推定されており、当該プロジェクトは10年計画であることから、総額は30億ドルを超えると思われる。

「Brain Activity Map Project」は、EUとは少々異なり統合失調症や自閉症など精神系にも関わる研究も対象で、この他アルツハイマー病やパーキンソン病などの病理解明も目標となっている。この「Brain Activity Map Project」は、ヒトゲノムプロジェクトに投入された38億ドルを大きく上回ると推測する向きもある。

なお、「脳行動マップ」プロジェクトは、科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)主導の下、国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)、国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency:DARPA)、米国科学財団(NationalScience Foundation:NSF)などの連邦省庁及び、ハワード・ヒューズ医療研究所(Howard Hughes Medical Institute、メリーランド州チェビーチェイス)やアレン脳科学研究所(Allen Brain Science Foundation、ワシントン州シアトル)が参加する。

2014年度、産総研と IPAが統合される~システム統合は産総研包括フレームワークで~

2013年04月01日 | 日記

来年度、いよいよ産業技術総合研究所(産総研:AIST)と情報処理振興機構(IPA)が統合される。経済産業省隷下の独立行政法人改革の第2段。

産総研は、環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、計測・計量標準、地質という幅広い分野を網羅的に研究する日本最大の研究機関で、職員数は総勢3,000人を超える陣容だ。その内2,300名以上が研究者と言う人材の層も厚い組織。

一方IPAについては、「経済産業省所管独立行政法人の改革について」(2010年4月19日)において、抜本的な機構改革が謳われており、産総研との統合により、研究分野が重なるソフトウェア開発事業の統廃合、それと情報処理技術者試験業務が民間に移管される。

結局、IPAは産総研に吸収される事になるが、不必要な事業を廃止して、身軽になりつつ、産総研の研究機開発者とのシナジーが活かせる具体的施策が必要だ。

それと組織の統合と共に、システム統合も行われるが、これは「産総研包括フレームワーク」によって実装される事となる。産総研包括フレームワークの良い解説書が丸善から出版されている。是非一読あれ。
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