赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』(36)
中国 経済状況の行き詰まりは、軍事戦略の行き詰まり
ギリシャに接近した中国の思惑
ギリシャの財政破綻問題、日本から遠い国の出来事だけに関心が薄いかもしれません。しかし、中国は異常なほど関心を抱いています。理由は、ギリシャはEUへの覇権戦略の拠点だからです。ギリシャの経済が破綻してEUから離脱してしまうと、中国の目論見が水泡に帰してしまうので必死なのです。
昨年(2014)6月にギリシャを訪問した中国の李克強首相は、海運やエネルギーなど約20分野で総額65億ドル(約6600億円)の契約を結びましたが、その際、「今後もギリシャの債券市場を見捨てない。購入を増やしている」と発言しました。この時、ギリシャのピレウス港【※1】を手中に収めています。
【※1】中国国有の海運大手、中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)がピレウス港に、35年間の運営権を持つことになった。
ギリシャの危機は中国の危機
ギリシャはEU加盟国ですから、中国にとってギリシャは戦略的要衝の地になります。なぜなら、積荷をギリシャの港に降ろして通関手続きを経れば、EU加盟国には、「域内の関税は無税」でどこにでも自由に持ち運ぶことが出来るからです。EUでの貿易拡大で、ゆくゆくは軍事的な影響力を持ちたいと計算しているのです。
一方、ギリシャも長年にわたる財政状況が深刻化しているので、中国の申し出は渡りに船でした。また、ギリシャに手を焼いていたEUの中心国である独仏も中国の申し出は歓迎したはずです。EUとギリシャ、そして中国の利害は一致したのです。
ところが、ギリシャは、急進派が政権を取った頃から局面が変わりました。新政権はEUの提案する「緊縮財政」を拒否、また、国際通貨基金(IMF)融資16億ユーロ(約2200億円)の返済を無視し始めました。これにより、国際的な財政支援の動きが消失し、国家規模の経済破綻が現実のものとなってきたのです。ギリシャはEU離脱をもすでに視野に入れていると言われています。
ギリシャのEU離脱で一番困るのは中国です。ちょうど、本年(2015)の6月末にヨーロッパを訪問していた中国の李克強首相は「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と発言し、ギリシャ支援の姿勢を示しました。また、中国外務省も「ユーロ圏が債務危機を解決し困難を乗り越える能力と知恵を持ち合わせている」として、EU諸国を牽制しました。
(なお、日本は、ギリシャが経済破綻してもあまり影響を受けないと言われています。)
中国はギリシャを本当に助けるか
そこで、前述の李克強首相発言の本音を、国際政治の専門家筋にお伺いました。
ギリシャ問題につきましては、当ブログ『中国の軍事覇権戦略と表裏一体のAIIB』にあるように、EUは「ギリシャ問題」をAIIBが何とかしてくれないかとの期待があります。
李克強首相発言も、中国側が申し出たのではなく、EU側からの提案に中国が乗るそぶりを見せているようです。実際には中国にはそれほど潤沢なお金もないし現時点では無理です。当然、中国が直接ギリシャに融資するつもりもありません。
中国の本音はギリシャの港を欲しがっています。ギリシャに対し、貸しを作ることで、港湾を軍事基地として自由に使えるようにしたいようです。
表面的には直接的な援助と言うよりも、EUの金融機関に資金援助する形を取ろうとしますが、実際には港湾の自由な使用を条件にするようです。ギリシャを救済するつもりなどなく、軍事戦略の大きな要として使いたいのです。
中国は幻の経済大国
さて、専門家筋のお話では「中国にはそれほど潤沢なお金もない」ということが明らかにされました。以前から指摘されていたAIIBも「諸外国のお金を中国のお金として利用するだけである」ということが真実味を帯びてきました。これについて、別の国際経済の専門家は次のように分析しています。
中国の経済状況の悪化がここ数日間で顕著になってきています。2500兆円にのぼる高額の借金がありますが、ギリシャと同じで、踏み倒しても良いと考えています。
実際、中国は借金だらけの経済成長であったようです。2007年~14年の間、GDPは7兆ドル(857兆円)増えましたが、その間に公的・私的な債務は21兆ドル(2500兆円)となりました【※2】。これは、付加価値が低く新規投資資金を調達できず、シャドーバンキングなどの借入金で賄ってきた自転車操業のツケだと言われています。
【※2】「GDPを1ドル増やすために3ドルの負債を抱えた格好」と英紙『フィナンシャルタイムズ』は指摘した。
いまこのツケの清算に中国は苦悩しています。その上に、ギリシャ債務交渉の決裂の話が出てきますと中国の資金繰りが一層きつくなります。連日、中国株が急落している原因もそこにあります。
本当はAIIBに出せるお金もない中国
2014年末の中国の外貨準備高は3.7兆ドル(453兆円)を保有していると言われていましたが、専門家の分析によると、中国の外貨準備2.5兆ドル(306兆円)が「使途不明、架空帳簿の疑いあり」と指摘されています。
結局、いま、手元には1.2兆ドル(147兆円)のお金しかないことになります。この数字は、中国がアメリカ国債を買っている金額と同じです【※3】。
【※3】アメリカには「国際非常時経済権限法」(IEEPA)という法律がある。アメリカの安全保障(同盟国含む)や経済に重大な脅威が発生した場合、外国が保有するアメリカの資産については、その権利の破棄や無効化などができるという法律。
キャピタルフライト(資金流出)が突然起こる可能性があります。これに連動するかのように、中国にいる外国人駐在員の出国数は、入国数の2倍になっていると言われています。国際社会が中国から逃げ出している状況です。このような中で果たして中国はAIIBに資本提供ができるのでしょうか。
中国も「借りたお金は返さない」
莫大な借金を抱える中国はその返済をどのように考えているのでしょうか。前述の国際政治の専門家筋に伺いました。
借金を踏み倒すために何か考えています。(たとえば、軍事力を借金相手にかざすとか)そのような中でのAIIB構想であり、ギリシャ支援計画でもあります。
これではAIIBのガバナンスも上手くいくはずがありません。中国は、AIIB設立の前に、借金を返済することが先決だと思います【※4】。
【※4】中国経済学者は中国版ツイッター・微博でこう述べた。「中国はこれまでに日本から総額2248億元(約4兆2700億円)を借り入れ、ほかにもさまざまな形の技術協力と無償援助を受けている。1989年の後、最初に中国に対する援助を再開したのは日本。中日友好医院、中日友好環境保護センターのほか、北京地下鉄1号線、北京首都国際空港、武漢長江二橋などの建設にも円借款が使われた。日本の援助は全ての省、自治区、直轄市に行きわたっており、小平氏は『中国と日本はずっと友好関係を保っていく必要がある』と語っていた」
すでに中国は経済的に行き詰まりを見せていますが、同時にそれは、軍事戦略の行き詰まりでもあります。
軍事力を以って自国の経済を支えようとしているからです。EU諸国がその中国の本心を見抜いた瞬間にAIIBは空疎なものになり、中国の世界覇権戦略は破綻します。その意味で中国にとっては瀬戸際に立たされているのです。
中国がこの苦しい現状を打開するには、目を国内に向けねばなりません。見せかけの大国になっても、大部分の国民が貧しくては国家として未成熟と言わざるを得ません。本当は他国のインフラ整備を言っている場合ではないのです。
中国は民主国家として内政を整え、国民を幸福にして初めて、国際社会から認められる国になるのだと思います。
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