北杜夫が亡くなったのは11月だった。もう、3年、ん?2年経ってしまった。
その死因については実は医療ミス説が出るなどしているが、家族がその死を受け入れているのだから
外野が騒ぐ必要はない。何度か書いたように北氏との私信で氏は「許されるならできるだけ長く生きたいと
思っている」と打ち明けてくれた。この頃北氏は大うつ病であり、原稿を書けない日々が続いていたのだが
面識のない私に素直な人間としての性(さが)を書いてくれたのである。
その氏の優しさを何処かで公表するべきだと考えている日々。いろいろな事を私は書いたが、それ以上の
温かさを実践してくれたのである。おそらく、こういう方は今の文学会にはいないだろう。
北氏の直筆は文字が小さ過ぎて解読できない部分もあったけれど、必ず青のボールペンを使われていた。
先生に、ボールペンは貧乏っぽいですと書いたら、名前だけは万年筆になったけれど。
人間としての尺度の大きさは華麗なる家系の次男であり芥川賞作家、ベストセラー作家というもので計る
ものではないんだよ、人と人との尊厳なんだと教えてくれた大尊敬する唯一の人であったのだ