あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第五十三章

2020-06-13 19:40:17 | 随筆(小説)
止まない雨はない。そう想いながら、水面下1億4960万kmの海底に沈むエヴェレストの頂上でみずからのCircleを、想像しつづける神、エホバ。
わたしは朝に眠り、そして目覚めた瞬間から、チベット体操を実にReluxしながら、つまり瞑想のなかで、約三ヶ月間し続けたのちに、ついに、わたしは幽体離脱した。
来そう。そう感じた瞬間、光速よりも速いと想えるスピードで、白い直径一メートル程の空洞のトンネル内を、天に向かってわたしは上昇したのだった。
その時の感覚を、多幸感と、光に包まれたその興奮を、なんと表現したら良いだろうか。
ただ何もない白い筒のなかを、上に向かって物凄い速度で昇っているだけなのに、わたしは感じたことのない幸福のなかにいたのである。
でもあっと言う間に、わたしは登り詰めてしまった。
昇っていた円筒を抜けたということである。
するとまたも驚いたことに、わたしはとても懐かしい感じのする景色のなかにいた。
空は薄く曇った美しくも少しく寂しげな縹色で地は、真にさっぱりとした山に挟まれた広い道路の真ん中に、わたしは立っていた。
懐かしいのに、わたしは此処は何処だろうと想った。
あまりに何もなかったので、わたしは其処が何処だかわからなかった。
なので、わたしは呆然として、其処に突っ立っていた。
放心はしていなかった。何故ならひどくわたしの心は、安心に包まれていたからである。
確かにどこか寂しげな景色だと感じたが、わたしはこの景色こそが、わたしの最も望む景色であったのではないかと想った。
”荒野”と表しても良いと感じるような、広々とした野であった。
どれくらい其処で突っ立っていたか、定かではないが、わたしは気づけば、誰かに呼びかけられた。
その低く、落ち着いた優しい声は、わたしの後ろ側から聴こえた。
わたしは、もしやと想い、振り返った。
すると其処に、やはり、わたしの、たった一人である師匠が、立っていた。
わたしは想わず言った。
「町田康師匠…」
師匠は、わたしの目を、本当に優しい目で見つめつづけたのち、わたしに向かって言った。
「やっと来た。ずっと待っとったんやで。来おへんのかな想て、独りで屁ぇこいたりしとったけどな。やっと来たんやな。」
わたしは号泣しており、言葉が出なかった。でも何度と、わたしは師匠に向かって涙を流しながら頷いた。
師匠も、涙ぐんでいた。困ってはにかんだように笑って、こう言った。
「俺はお前に話したいことがあってん。せやから此処で、ずっと待っとった。やっと言えるわ…あんな…」
師匠はそう言ったあと、もう一度笑って、続けた。
「何を言いたかったかと言うとな、お前は俺の、衛星やねん。俺が地球であるならば、お前は月。ただそれだけ、俺はお前に言いたかったんや。それで俺は此処でずっと独りで待っとった。でも此処は、時間が存在しているようで、存在していない世界なんや。だから此処に何千年とおるという感覚と同時に、一瞬さえ過ぎてはいないのだと感じる。お前なら、お前ならばわかるやろう。この感覚が…。なあ…しらたき…。」
その瞬間、わたしは、わたしではなくなった。
そうだ。わたしは、わたしではなかったのだ。
わたしは…わたしの名はしらたき。
ぼくは、ぼくは、しらたき…。
しらたきの目のまえに、熊太郎は立っていた。
明治二十六年五月の、その姿のままで。






目が覚めると、わたしは想った。
もうあれから、8年以上も過ぎてんのか…
この未完成の物語を、わたしはどうやって完結させられると言うのだろうか。
わたしは外の闇夜のなかに降り続ける土砂降りの雨を眺めながら、”あの夜”も、これくらい降っとったんかなぁと想い、その夜の惨劇に、堪え切れない悲しみを、振りほどきたくなった。
この闇の空のなかに。






















最新の画像もっと見る