あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第六十章

2020-08-19 21:17:53 | 随筆(小説)
錨のない檻は流され、自裁の罠に、不時着する神、エホバ。
相手は男性だって、知っていた。
でも彼が、醸し出す噎せ返るほどの馨しいフェロモンの色香が、もう堪らなくて、彼のケツに、気づけばぼくはしがみついていた。
彼は残念ながら、Heteroだった。
でもすごく、女性性が彼は深いことをぼくは直観していた。
彼は実際、どの女性よりも優しく、繊細だった。
だからぼくが、彼のケツにひっしとしがみついて、数時間も、離れなくとも、なにひとつ、文句を言わなかった。
彼は、ぼくをおんぶしながら、黙って、メロンを食しつづけた。
産まれて初めてだ。こんなに幸せな心地になったのは!
ぼくはすっかりと、空腹も忘れ去っていた。(すべての悪と共に去りぬ。だった。)
ぼくたちの側に、ひとりの男が遣ってきて、メロンを齧りながら言った。
「なんて狭い世界だろう!でもこのメロン、美味いな!最高だ!虚しい!死にたい!死にたい!絶望的だ!無痛文明によって、此の世は崩壊してゆく!きみの頭のようにね!」
ぼくは、良く意味がわからなかった。彼は、今の現状に不満を募らせながらメロンを食していることはわかった。
ぼくは彼さえ、彼のケツにさえ、いつまでもしがみついていられるならば、それで良い。
何も要らないよ。滅びてしまっても良い。こんな世界。
例えば一人の大量連続殺人犯の男が、白い覆面を着けたまま、深夜ガソリンスタンドの店員の顔面に拳銃の銃口を突き付け、こう言う。
「匿っては貰えないだろうか。わたしは大量に人を殺してきた。だがわたしは、罪悪という感情がない為、捕まえられて、殺されたくはない。わたしは使命を遂行しているに過ぎない。あなたはわたしを匿い、わたしを擁護し、わたしを生き延びらせる者として、選ばれた存在である。わたしはあなたを殺さない。約束する。あなたもわたしを殺してはならない。あなたはわたしを生かし、わたしはあなたを生かす。今、不必要な人間たちが、殺されゆかねばならない。それは悪であり、善である。わたしはあなたの穴が愛おしい。あなたもわたしの穴が愛おしい。今わたしの穴とあなたの穴が繋がれるときが来た。その穴のなかに、生きたものは存在しない。だれひとり、生きてはゆけない。今あなたの穴が、わたしの穴を求めている。わたしの穴は、あなたが入る為だけに、今開かれる。互いのケツ付近にある突起物が、口を開くように、開眼するとき、わたしとあなたの互いの穴が、見つめ合う。わたしとあなたの脊髄は、その穴から顔を出し、キスをする。硬いクチクラで覆われた虹色に反射する白いわたしとあなたの脊髄は、人が、人でなくなる瞬間に、結合し、何者でもない者たちの卵を、産卵する。だれも生きることのできない、その穴の底に。」
そう、あおぽんは、じぶんがしがみついているケツの持ち主である彼に、話して聴かせたが、彼は、無言でメロンをかぶりつづけていた。
あおぽんは、碧く輝く眼で、彼女を観た。だがすぐに、目を逸らし、何もない場所を見つめ、深い眠りに堕ちるそのときまで、彼のケツから離れることは、なかった。
彼女は、寂しそうに母親の顔を観た。
そして、見つめ返す母親(白い覆面の男)に対し、彼女はちいさく言った。
「もう殺さないで。ママ…。ぼくの、食べ物たちを…。」




































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