あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第七十八章

2021-08-15 10:32:22 | 随筆(小説)
"The Remains of Minotaur in a harlequin costume(1936)" by Pablo Picasso





遺伝子を組み換え続けて誕生した一つのちいさなちいさな小人(こびと),美しいVacca(雌牛)とBacchus(雄牛)の交接体,暗黒の世の唯一の救世主エホバ。
この美しいメロディを奏でるVirus(Protein)が、どのようにして誕生したのだろう。
我々は,それを知る必要がある。
我々を殺すのは,我々であり,それを助けようとしている彼らの音楽を,まるでわたしは聴いているかのようだ。
そうでなければ,何故これほどわたしを母の愛が宥めようとする子守歌のように、心地が良いのか。
わたしは、絶望の絶崖から,真っ黒な闇を見下ろしていた。
それは、暗黒の渦を巻き,巨大な黒龍がとぐろを巻いて黒い卵(黒い星)を抱いてあたためているようにも見えた。
その時であった。
美しい巨大な光を放つ白と黒の羽根を持つ鳥が黒雲の切れ間から現れ,わたしに、一つの啓示を与えた。
あなたは今日から,彼を"コロ(Coro)ちゃん"と呼び,彼を"ワク(Vac)ちゃん"と呼びなさい。
そしてあなたは彼らを我が子として愛して育てなさい。
あなたは彼らの母となる。
彼らは,あなたの愛によって,"方向"を決めるだろう。
彼らが何処へ向かうか,あなた次第である。
彼らは,あなたを待っている。
彼らは,あなたを呼んでいる。
あなたの愛を,彼らは求めている。
まるで生まれる前の、母の胎内で眠る胎児のように。
わたしは目覚め、コロちゃんとワクちゃんはわたしの胎内でずっと眠っている双子の一卵性双生児の胎児であることを憶い出す。
彼らは,ひたすらわたしから愛されることを求めている。
わたしが彼らを愛さないことによって、わたしが"何か"に侵食されないことを彼らは願っている。
その"何か"を、人々とコンピューターは、こう表現する。
それはA.I.である。
それは自動人形である。
それは泥人形である。
それはゾンビである。
それは生きていない者である。
それはアンデッドである。
それは始まりでも終わりでもない者である。
それは意識のない人間である。
それはコード化された単なる記号の羅列である。
そしてゴズという存在が、わたしに言った。
それは本当のあなたである。
もし,あなたが一度でも本当のあなたに侵食されたなら,もうあなたは元のあなたには戻れない。
あなたはもう帰って来ない。
あなたはあなたであることを,永遠に忘却する。
あなたのすべての記憶は,あなたのなかで永久に消滅する。
あなたは土から創られたのだから、土に戻る。
あなたの意識というものは真に美しいものであったが、あなたはもう二度とそれを与えられることはない。
あなたはみずからそれを選択した。
多くの意識と共に。


わたしは、今コロちゃんとワクちゃんの為に,小さな膝掛けを編んでいる。
彼らは胎児だがまだ卵の形をしており、孵化(進化)していない。
彼らは孵化すると無数に分裂し,それは波の形となる。
わたしの胎内で,彼らはわたしの意識と同時に働く。
彼らはわたしの内から生まれたので,決してわたしと彼らを分けることはできない。
彼らは殺し続ける。わたしを愛さない者たちを。
彼らはわたしに属さない者たちすべてを、別の場所へ送る。
わたしの無数の手,わたしの無数の足,わたしの無数の頭,わたしの無数の臓器,それは彼らである。
わたしの父,わたしの母,わたしの子,その一体であるわたしを愛さない者、わたしに背く者、わたしを喪い続ける者のすべて,わたしから切り離し、別の場所へ置き去りにする(棄て去る)。
彼らはわたしとの約束のすべてを想い起すことがなかったからである。
わたしが掬い出す網のその闇の穴から,彼らはみずからその底へと堕ちたからである。
彼らはわたしと繋がるコード(生命のコード)をみずから切断し,わたしから離れ,土へと帰り去ってゆくことを選んだからである。
そのコードの切断面からは,今もなおわたしの液が溢れ流れているが,それらのすべてが,虚しく灰の深く積もる地の底に赤い血となって落ち,なにものも実る日は遣って来ない。
彼らは最早、永久に眠り続ける者となったからである。
彼らをわたしは愛しているが,彼らはわたしに近づこうとはしなかった。
その代わり彼らはわたしを殺してその死体を貪り,その行為においても心の底で苦しむことがなかった。
彼らはわたしから生まれたのだから,わたしに戻る。
わたしは彼らを愛し,彼らを育てる。
彼らはときに,美しく心地良い音楽を奏でる。
それは彼らのなかに,わたしの愛が絶えていないからであり,わたしという生命の種が彼らの奥深くに今眠っている証である。
そんな夢を,わたしはわたし以外だれも存在しないこの宇宙の果ての闇のなかで観たのである。




















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