あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第六十七章

2020-09-15 22:36:27 | 随筆(小説)
ただ、生きてゆく為だけに、スナッフフィルムと自殺者の死体写真を、眺め続ける神、エホバ。
彼は、独りになりたかった。
自分の最も求むものを、得られなかったから。
独りになり続けても、何かが降りてくることはなかった。
彼は、悪魔に取り憑かれていたが、またも、彼の耳元に囁いた。
今まで、失敗を繰り返して来た人生が、本当の人生になる日など来ない。
だれにも愛される日も来なければ、だれをも愛せる日も来ない人生。
彼は、身体の浮き立つほどの軽さを感じた。
まるで宙を蹴って走るように、彼は樹海へ向かった。
そこに辿り着いた闇の夜、彼の周りから聴こえてくる呻き声と快楽に喘ぐ声と叫び声が、一つの心地良い音となって、彼のなかで谺していた。
彼は、木々の間から夜の空を見上げた。
そこに、闇しか観えなかった。
満点の星空と優しい月光が、彼をひっそりと照らしていた。
彼の眼には、闇だけが、映っていた。
今、彼の顔がブラックホールになり、すべての光を、吸い込んで、閉じ込めたあとだった。
彼は、もう二度と、どこへにも出てこれない光のすべてを我が物としたことに、満たされていた。
夜露が、彼の眼のなかに落ち、その縁から、流れ、土と枯葉にまみれて幸せそうに眠っている彼の髑髏の口元に落ちた。
赤い肉のすべてが綺麗に剥がれ落ちた白い肉の髑髏は、夢を観ている。
今、終りもなく始りもなく、終らせられるものも始らせられるものもなく、己も他もなく、血も肉もなく、在るのは、そのすべてでもないもの。
白い肉を剥がした場所に、そのすべてではないものが在ることを、彼は眠りながら観ている。
自壊してゆく白い肉の髑髏は、身を剥がし終えたあと、すべてではないものが、すべてではないもののうちで、目覚めるが、すべてであるものたちのすべてが、夢を観る。
彼は、自分の自殺したあとの骸(むくろ)を観ている。
自分が、どれほど苦しみから絶叫しようとも、その白い肉は、静かに、安らかに、まるで幼子の自分が母のみ胸にいだかれているように、眠っている。
彼は、その白い肉のなかに、入ることは許されない。
すべてであるものが、すべてではないものに、なることはできない。
彼は、すべてを喪おうとしたが、それにようやく気づいて、途方に暮れた。
死は死から、最も遠く、彼は、すべてではないものから最も遠くに遣ってきて、本当の苦しみのなかに空を見上げようとしたが、地も空もなく、自分の何かを確認できるものも何もなかった。
生は生から、最も遠く、白い肉の髑髏は、母のあたたかい子宮のなかで、母と一体となり眠っていたが、ある日目覚めると、母が外から言った。
"כבר אסור לך לחזור אלי, כי אתה עצם שניקב את בשר שלי."



















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