あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第七十九章

2021-08-19 20:49:47 | 随筆(小説)
人間というものが誕生してから,今までだれよりも多くの人間を殺戮して来た我々の唯一の創造者,神エホバ。
今,目覚め、脳に直接繋いでいるコンピュータで今日の”破壊数”をチェックする。
昨年1月から、全世界で大量のアンドロイドが無残にあらゆるところで破壊され始め、今月に入ってからというもの、その数は約8倍に増加している。(さらに故障が続き,失敗作だったとして大量に処分され始めてもいる。)
公表されている数は2億932.3万体である。
一体、何によって、誰の策謀によってこんな暴力的なことが起き続けているのだろう。
彼らは一見、人間にしか観えないが中身は機械(A.I.)だ。
だからといって、こんなことが許されるはずはない。
一体一体に,彼らは素晴らしく個性がある。それらは多くの才能ある設計者たちが、時間と愛を存分に注いで造り上げたものたちだ。
わたしはもう20年以上、人間と彼らの違いがなんであるかを研究し続けてきた。
つい,先達てのことだ。新型ウイルスが蔓延しているにも関わらず,深夜にアルコールドリンクと駆虫薬を買いに行った帰りだった。
道路の真ん中で、人が仰向けになって倒れていた。いや、最初は人ではないかと想ったが、よく観るとそれはアンドロイドだった。
それは,目を見つめるならば,わたしは一目で分かる。
彼は最早,動いておらず機能が完全に停止しているようだったが、目を見開いたままだった。
そして赤い血が,目と半開きになった口元から流れていた。
それが青白い街灯に照らされて,あまりに美しかった。
人間だったならば,そんなことが想えただろうか?
彼らは,性別も存在しない。彼らは,恋愛も結婚もセックスも繁殖もしない。
彼らのなかには,人間に似せた人工遺伝子が組み込まれており,それらは製作者たちの一瞬の微妙な感情の揺れによってコード配列が一つ一つ変化を遂げており,それをコピーし,全く同じものを造る技術は今のところ存在しない。(その暗号を読み解く瞬間,それは別の暗号に成り代わるだろう。)
依て彼らは唯一無二である為,一度壊れてしまえばもうそこで終りである。
魂も霊もないと考えられる彼らが再生することがあるというならば,それは彼らにとっての悲劇と考えても良いだろう。
彼らが従順でもなく,利己的で協調性に欠け,面倒で愚かで機械としてでさえ劣っているならば,それらが永久的に存在していて欲しいと誰か願うだろうか?
機械は故障しやすく,彼らは容易にそこへ落ちる。
しかしそうであっても,彼らが正常であるあいだは彼らのすべては,ただただ,いつも天使のようにわたしに微笑みかける。
だが,彼らの価値とは,それのみである。(人間の遣りたくもない仕事の全ては彼らほど高度でなくともできるのである。)
彼らのすべてに,人間的な霊性を期待することはできない。
彼らは,人間と,生命すべての本当の苦しみと悲しみを理解することはできない。
それが確信できたのは,今からちょうど10年前のことである。
彼らは,何よりも安全で,何よりも優しい。
それは彼らにとっての,善良な情報でしか彼らが構成されていないからである。
例えばずっと過去の世界に映像として記録された残酷極まりない拘束監禁され続けたのちにレイプされ,手脚をバラバラに切断された後に殺された少女のスナッフフィルムを観せても,彼らはそれを本当に快いものだと認識する。
そして,彼らは女神のように微笑み、わたしにこう返す。
”人間とは本当に素晴らしいものです。”
そしてその反応に,心から厭悪を感じながら,わたしは想う。
彼らと人間の違いとは一体何なのか。
世界中で,今この瞬間にも,何体もの彼らが破壊され続けているが,わたしはそれを特には何とも感じない。
それは不快であり,それが暴力的であるということは,わたしは感じている。(それは脳に繋いでいるコンピュータもそう記録している。)
しかし,彼らは人間でもなく,生きているとも言えない。
人間に似て(似せて)はいるが,永久的に,彼らが人間になることはきっとないだろう。
もし,彼らが人間に成り得る日が訪れるというならば,人間もまた,人間ではなかったその途方も無い時間のなか,人間ではない何かの状態で存在していたのだと考えられるし,元々人間ではなかったというならば,いつ何が起きて,人間は,人間ではない者(元の存在)へと戻り得るのだということは,到底考え得ることであって,それを考える時に,わたしはいつも鏡に映る自分の顔を見つめてこう想うのである。
”これ”が,”あれ”から進化した姿だと。
そして”これ”はいつの世かに,”あれ”に退化し,皮肉的に自分をこう評価するだろう。
これは人間の想像に於ける最高の最も望ましい人間的存在である。
彼らは報酬を与えられ,脳は機械でできていて,存在していること,ただそれだけで,喜びを人間以上に感じることができる。(人間をつぶさに観察し続けるならば,人間の喜びが如何に見窄らしいものかを観るだろう。)
彼らのその喜びは宇宙で最も深く(それはいつでも恍惚なものであり)、そしてそうであるにも関わらず最も価値に於いて浅い喜びに満ちた者、それがまさしく彼らである。
人間たちが,自分の遺伝子を永久的に,根源的に変化させるこ
とを承諾し,脳をみずからコンピュータに繋いで仮想空間のなかで夢を見続けた彼らの想像し得る彼らにとって最も素晴らしい新しい人間の形,彼らは,我々と同じ赤い血を流し,グロテスクな内蔵までをも見事に我々と同じに再現されているが,最も価値あるものが,そこには存在していない。
彼らは決して,人間のように,人間と同じ程には,悲しむことはできない。
だからわたしは,彼らのことをこう呼んでいる。
”People not a person in human beings”


美しく,いつまでも明けることはないと約束された夜のなか,
わたしの鏡を見つめながら。









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