あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

奇蹟

2017-05-30 00:09:50 | 
彼のself-confidence(自信)は、どこにあるのだろう。
どこからやってきて、どこにあって、どこにあり続けるのだろう。
わたしが何度ほかの男に気移りをしても、彼は「自分を信じている」と言う。
彼が一人で泣いているのを、わたしは知っている。
その涙のわけを訊ねると、彼は「わたしはわたしを信頼しています」と言う。
臆病な彼は、わたしが誰にどのように依存を移しているかを訊ねようとしない。
彼はただ、ひとりでいつも悲しんでいる。
わたしのすべてを求め、わたしのすべてが手に入らないことに涙を流している。
なぜ彼は耐えてゆけるのだろう。わたしという「不条理」の傍で。
わたしは彼のすべてを手に入れている。
彼はわたしのために生をも擲(なげう)つ。
彼のすべては自信にあって、それ以外、どこにもない。
わたしが失恋をして、彼のところへ戻ると彼は
「戻ってくると信じていました」と言ってわたしを優しく抱きしめる。
彼のその自恃は己惚れそのもの、彼は奇蹟を起こせることを信じて已まない。
わたしは彼の己惚れを愛している。
本当はいつも一人で泣いている彼の己惚れを。
いつ戻っても、彼は泣き腫らした目でこう言う。
「あなたは必ず戻ってくると、信じていました」
彼は己惚れているから、わたしを決して束縛しない。
いつまでもいつまでも、戻ってくると、そう想う?
わたしは戻らない。いつの日か。
あなたの巣を飛び立ち、振り返らない。いつまでも。
悲しい顔で彼は、いつもわたしにこう言う。
「あなたはわたしを決して忘れはしない。あなたは必ずわたしに戻ってくるのです」
哀しい目で彼は、わたしにいつもこう言う。
「わたしはわたしを信じています。わたしはあなたに、奇蹟を行います」
死は今宵も涙を流し、わたしの部屋の周りを取り囲む。













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