あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

肉の霊

2018-11-30 11:35:00 | 随筆(小説)
わたしは知っていた。
彼が本当に苦しみたがっていたことを。
彼はわたしに言った。
「不幸になることを恐れている」と。
わたしは彼に言った。
「不幸になることを恐れている」とは、「不幸になることを願っている」事と同じであると。
彼は自分達の幸福を追い求めていた。
わたしはまたも彼に言った。
自分達の幸福を追い求める者は永遠に幸福にはなれない。のだと。
彼は求め続けた。
自分達の平穏な暮らしを。
彼は自分の愛する妻と共に小さなカフェを遣っていた。
わたしはその店に行って彼が運んできた料理を指差し言った。
「見よ。これがあなたがたの未来である。あなたがたの肉が、声にならない声をあげ続けている。あなたがたにこの声が聴こえないのはあなたがたはまだ闇のなかに眠り続けているからである。」
わたしは立ち上がり、店の客たちに向かって言った。
「聴く耳を持つ者は聴きなさい。あなたがたの食べているその肉はあなたがたの家族を店の裏で殺し解体して調理したものである。聴く耳の在るものだけ聴きなさい。あなたがたの肉を食べ続けるその悦びはわたしの排泄物よりも遥かに劣るものである。」
そしてトイレに向かい排泄したばかりのその糞を、鍋に湯を沸かして放り込むと皿に装って彼に食べなさいと言った。
わたしの手にはショットガンが握られていた。
彼はそれを素直に食べた。
わたしは彼に言った。
「あなたがたが一生それだけを食べ続けて死ぬ方が遥かにあなたがたは救われるのである。」
彼は食べたあとにそれを吐いた。
わたしは彼の顔面にショットガンを突き付けながら言った。
「あなたは自分達の家族の死体を食べても平気な顔をして吐かないのは何故か。」
彼はわたしに言った。
「わたしたちは不幸にはなりたくないのです。」
わたしは彼に言った。
「あなたの右目があなたを不幸にするならそれを抉り抜きゲヘナへ投げなさい。」
しかし彼は言った。
「わたしは右目を喪うなら不幸になるでしょう。」
わたしは彼の右目をくり抜くとそれを鍋に湯を沸かして放り込み、皿に装って彼に食べなさいと言った。
そして食べて吐いたあとに言った。
「あなたは自分を不幸にする一つを無くしたのである。」
そしてわたしはまた言った。
「あなたの舌が罪を犯すならそれを切り取ってゲヘナへ投げなさい。全身がゲヘナで拷問地獄に絶叫し続けるよりあなたの為だからである。」
彼は言った。
「わたしの舌や性器はなくてはならないものです。それを喪うならわたしたちは不幸になるでしょう。」
わたしは彼の舌と性器を切り取ると鍋に湯を沸かして放り込み、皿に装って彼に食べなさいと言った。
彼が食べて吐いたあとにわたしは彼に言った。
「喜びなさい。これであなたを不幸にする三つのものがあなたから喪われたのである。」
そしてまた彼に言った。
「あなたの四肢があなたを躓かせるならそれを切断して鍋に湯を沸かしてそれを投げ入れ、皿に装いそれを食べなさい。全身がゲヘナに投げ込まれ消化されるよりあなたのためだからである。」
彼はわたしに言った。
「わたしの四肢はなくてはならないものです。それを喪うならわたしたちは不幸になり、最早幸福の道は歩めないでしょう。」
わたしは彼の四肢を切断して鍋に湯を沸かして放り込むと皿に装い、それを彼に食べさせてから言った。
「祝いなさい。あなたはあなたを不幸にするものを七つも喪った。」
こうして次々と彼はすべての彼を不幸にするものを尽くわたしによって喪った。
祝福の鐘が天から鳴り響き、わたしの目の前にある一つの頭蓋骨がわたしに向かって言った。
「わたしはどうしても不幸にはなりたくないのです。」
わたしはその頭蓋骨を脳天から真っ二つにかち割った。
するとそのなかには無数の寄生虫が蠢いてのたうちながら這い出てきてわたしに言った。
「わたしたちは不幸になりたくはありません。わたしたちは幸福であるべきです。わたしたちはあなたに肉料理を提供する店を今すぐに閉じろなどと強要される必要はありません。わたしたちの幸福を奪わないでください。どうかわたしたちを不幸にしないでください。」
わたしは彼らのすべてを捕まえると大鍋に湯を沸かし、投げ入れて皿に装い、それを地下奥深くのゲヘナに投げ入れた。
ゲヘナはわたしに言った。
「とても美味しかったよ。また頼むね。」
わたしの悲しみの雨は七ヶ月止まることはなく、悲しみのうちに神に向かって問い掛けた。
「あなたは何故、このようなことを許されているのですか?」
その問いは、一人の神父がユダヤ人を助ける為に自らナチスの強制収容所に向かい、そこで何百人もの死体を埋める作業を強制され続け、一人の善良なナチス側の男に涙ながらに問い掛けた言葉と同じであった。
彼は目を真っ赤にして震える口で言った。
「神は何故、このようなことを許されているのだろうか?」

一人の男は冷静に言った。
「あなたが神に帰す一人の人間であるのなら、喜んでそれを行いなさい。神はあなたの苦しみと悲しみのすべてを理解しておられるからである。」















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