ボストン現地レポート 教育に関連した話題を現地から

アメリカのサマーキャンプ、サマースクールの短期留学専門のコーディネーターが、現地の情報を様々な角度からお届けします。

あるボーディングスクール校長のスピーチーアメリカ大統領選を終えて

2016年11月29日 | アメリカの高校留学
感謝祭休暇も終わり、ボーディングスクールに留学中の生徒さんも、それぞれ無事に留学先の学校へ戻りました。大統領選の結果が出て、早くも数週間が過ぎようとしています。

現在、アメリカ東海岸にあります6校のボーディングスクール(私立高校)に留学している、日本人生徒さんたちの現地コーディネーターを務めていますが、私の生徒さんたちが留学しているボーディングスクールでも、予想外の結果の影響は多々あったようです。翌日は全校休校とし、グループに分かれ前向きな話し合いをしよう、ということをやっていた学校もありました。結果に動揺したのは大人ばかりでなく、まだ選挙権の無い子どもたちにも動揺はありました。私自身、結果に対してのショックと動揺が大きく、体調も崩し、しばらく呆然としてしまったのですが、そんな中、現在2名の生徒さんたちのコーディネーターを務めています、ボーディングスクールの校長先生が、選挙結果が明らかとなった翌日11月10日の晩に、全校生徒を集めてスピーチされた内容がメールで届きました。校長先生から保護者へのメッセージには、「子どもたちは大人を見ているのです。」というセンテンスがありました。大人の私たちが動揺し混乱しているばかりでは、子どもはもっと不安になります。こんな時こそ、大人である私たちがしっかりしないといけないのですね。

この校長先生のスピーチの内容を何度か読むうちに、このメッセージを和訳し、弊社より日本のファミリーにも発信したい、と思うようになりました。仕事の合間に少しづつ翻訳を進め、やっと出来上がったのですが、操作ミスで原稿を削除してしまうことがありました。そして、いったん諦めかけたのですが、デスクの上にあるプリントアウトした原文を目にするたびに、これはやはり発信しないといけない、と思いを新にしました。

日本でも、大統領選の結果についての分析に始まり、日本への影響などについて、たくさんの情報がみなさんの周りに流れていると思います。この先どうなるのだろう、という不安を持っていらっしゃる方も少なくないと思います。それは、アメリカ市民も一緒です。しかし、このスピーチに込められた、アメリカという、ある意味実験的な若い国が、理想として、信念として守ってきた、そしてこれからも守っていこうとしていることをお伝えできたら!、と願いながら、以下にスピーチの内容を日本語に訳しまして、ご紹介します。

「急な知らせであったにも関わらず、この集会に集まってくれてありがとう。昨日の朝から、この集会のことを考えていました。なんて数日間だったことでしょう!いやいや、なんて何か月間、いや何年間だった、と言うべきでしょう。今晩は、これまでに起きたことを、君達と話し合いたいと思います。もちろん、最近の出来事、その反応を受けての集会でもあります。
本題に入る前に、今こうして、ここで君たちと集うことで、私自身、どんなに安堵しているか、君たちにまず、伝えたいです。象徴的に、感情的に、教育的に、そして思慮深くあるために、私たちは共にいるべきなのです。そして、お互いに歩み寄れば、より良くなれるのです。今晩、この講堂の扉を、ここにいるみんながそれぞれ開けたことによって、私たちは、お互いに歩み寄っているのです。この数日間、私は言いようのない孤独感を味わってきました。しかし、今、君たちの存在を得て、大きな安堵感を得、思いやりと支え合う大切さを実感しています。
一緒に話し合いましょう。そのために、みんなここに集っているのです。最近の出来事は、わが校だけでなく、私たちの国自体を、深刻に分断させる結果となりました。怒りや中傷に満ちた、軽率な言葉や行為が繰り返され、人々の恐怖を煽る結果となりました。先日の学校集会で、私が言ったことを覚えていますか? 「私が怖れていることは、選挙後の怒りである。」、と言ったことを。。。。 前もって君たちに話しておけば、君たちが心構えを持って、相応しい態度で選挙結果に対応できるのでは、と願いつつ話したことでした。結果的に、私たちはなんとか乗り切れたかのようです。しかし、私はそうは思いません。ここ数日間、大きな混乱と落胆がわが校のキャンパスを支配しました。そして、私は思うのです。早急に、私たちは軌道修正をしなくてはいけない。君たちにも要求します。一刻も早く軌道修正をしよう、と。

私のメッセージはとてもシンプルです。でも、私のメッセージを、モラルや、政治的布教、社会学的見解、または崇高な哲学などと取り違えないで下さい。わが校のキャンパスで、酷い、忌まわしい、中傷的な言葉や行為があったことを見聞きしています。偏見、人種差別、同性愛者差別にあたる言葉も耳にしました。わが校のキャンパスに限らず世間では、右と左、革新と保守、賛成と反対という言葉さえ、否定的な悪意ある言葉として捉えがちな傾向があります。クリントンとトランプという各候補者の名前でさえ、そのような意味合いで使われてきました。先ほども、ある生徒が「〇〇〇が、いったい何を今さらしようというんだい!」、と私の名前を、まるで敵であるかのように言い放つのを耳にしました。

私は信じています―ここで“信じる”という言葉の意味を軽くとらないで下さい―ここにいる私たち全員は、個人的な中傷を厭わない、最悪な政治的キャンペーンの犠牲者なのです。これまでの長いキャンペーン期間、私たちは嫌悪に満ちた言葉に、だんだんと鈍感になってしまったようでした。あまりに頻繁に繰り返し使われた言葉が、実際にどんな意味を持ち、どんな状況や人々を表現する言葉であるのか、きちんと理解することを諦めてしまったようでした。私たちはこれまで、何度、各候補者が自分たちの発言に対して、実際はそのような意味で言ったのではなかった、と聞かされたことでしょう。次期大統領のトランプ氏については、あるテレビ番組で女性に対して信じられない侮辱的な発言をし、その性的虐待にあたる発言に対して、単なるLocker room talk (男性だけでかわされる冗談)であった、と言いました。クリントン長官については、トランプ支持者をさして、酷い惨めな人たちの吹き溜まりという発言をし、何万人という人たちが人種差別者であり、女性蔑視者である、と決めつけました。同様の発言は、例を挙げたらきりがないほどです。そして、私たちは思うのです。この二人に共通する点は、自分たちの発言に対して、またその発言によってどんな結果が生じるのか、責任を取る必要は無いこと。そして、自分の発言が意味するところ、また、どのような行為を暗示するということも、どういうわけか認識しないで良い、という姿勢です。
ここで考えてみて下さい。もし、この選挙に関連した一連のことが正しかったと仮定するとしたら、私たちは感じたことを、いつでも、どんな口調でも、そしてその発言がどんな影響を与えるのか考えずに、無責任になんでも口にして良い、ということになります。これは、一般的に間違いです。そして、わが校においては決して受け入れられない間違いです。また、もし君たちの中に、このような行為は容赦可能で受容されるべき、と考えている者がいたら、これも間違いです。残念ながら、大統領選候補者にこのような行為があったことは事実ですが、わが校のコミュニティの一員として、許せることではありません。もちろん君たちから、言論の自由、交渉の自由、反対意見を主張する意義、ということについてはどうなんだ?、という声が上がるのは、わかっています。私もこのことを考えていました。覚えていますか? 9月に新学年がスタートするときに、わが校のモットーとして掲げたメッセージを。「私たちは、異議を唱え、お互いに学び合う機会を、中傷的な意見や軽率な断言に惑わされることなく、見つけていこう! 」今となっては、なんて予言的なメッセージだったことでしょう。

私は言論の自由を信じ、異なる考え方と討論と対話の意義を信じています。しかし、私、そしてここにいる全員は、中傷的な発言または嫌悪感を煽るような発言を信じてはいません。優越感を誇示し他者を貶めること、他者を排斥し追い詰めること、他者に何かが間違っていると断言すること。このような発言や行為は、私の信念として許せるものでなく、わが校でも許されるべきでない、ということです。ここではっきりと言いますが、このような発言や行為をする者は、この学校から去って下さい。もう一度言います。中傷的な、恐怖を煽る、嫌悪に満ちた言葉を使い、他者を傷つけ不快感を与えるような行動をする者は、ただちに、この学校を去って下さい。

我々が直面している、この状況があるからこそ、今、私たちがどのように行動すべきか、わが校が君達に期待する理想が、非常に重要なのです。君達は私のことを知っています。私も君達のことを知っています。そして、非常にシンプルで大事なことは、お互いに尊重し合い、私たちのミッションである“他者を思いやり、市民としての責任を果たす”というモットーを守ることです。これを実行することは、容易いことではありません。私自身振り返ると、自らの努力が足りなかった、と言えます。私自身、あらゆる考え方を尊重することが十分にできていたか? 先にも述べたように、トランプとクリントンという名前自体が、モラル的意味を持つ言葉になっていたのが現状です。そんな中、トランプ支持者はこのキャンパスで、居場所の無い、尊重されるに値しないような思いをしていた、と言っても間違いではないでしょう。私自身もその一人ですが、リベラルな考え方が浸透しているわが校のキャンパスにおいて、異なる意見や考え方を尊重し、話し合うべきであるという信念が、いつの間にか失われていたように思います。実際、排他的で偏狭な考えがキャンパスを支配していたのです。

中流階級の白人であり、カソリック教徒として育てられた私自身、このことに気付くことができなかったのです。物事をより多角的に見る素地が備わっていなかったのでしょう。君達も、自分自身に問いかけてみて下さい。わが校キャンパスで、トランプ支持者が、周囲から断言されたり、批判されたり、侮辱される恐れを抱かずに、自分たちの主張や意見を十分に述べることができていた、と思いますか? 少数でも? 十分な機会が与えられていた、と思いますか? 私自身、同じ問に対する答えは、“恥ずかしいほどの罪悪感”です。

私は自分の信念を持っており、大切にしています。しかし、相反する考えを十分に尊重することを怠ってきたのでは、と今は感じています。私たちが理想とする居場所を維持するためには、尊重、受容、関心、思いやり、感情、同情、そして優しさをいつ何時も忘れてはいけません。どんな時でも、どのような人でありたいのか、その理想を忘れてはいけないのです。

ここではっきり言いますが、トランプ氏は攻撃的な侮辱的な、そして嫌悪を煽る発言を、より多くしてきました。このような言葉自体、そして偏見、人種差別、性差別、女性蔑視、同性愛者蔑視、そしてあらゆるタイプの人々を攻撃するような発言や行為を、私は許すことができません。一方で、彼を支持する人々全員が、彼を支持したからと言って、全員が偏見に満ちた人々である、とは思わないのです。つまり、共和党支持者が全員偏見に満ちた差別者であり、民主党支持者の中には、そのような人間が一人もいない、と言えますか? 

実に悲しいことに、いま、私たちの周りには、憎しみと偏見が満ちています。私自身、トランプを支持せず、これから彼がやろうとしていることに対して、不安をもたずにはいられないとしましょう。しかし、トランプ支持者たち全員に対して、このような考えを当てはめてしまうのは、間違いだと思うのです。悪い考え方であり、解決を導くものではありません。多くの人が語っているように、そして私も同感するように、トランプ氏の成功は、人々の恐怖を扇動した結果であると言えるでしょう。しかし、ある人達にとっては、彼は希望だったのです。どちらが正しいのか、ここで言及することはしません。大事なことは、この点をしっかりと認識することなのです。私たちがトランプ氏を支持できないとしても、トランプ氏を希望である、と理解した人々の中にも、良い人たち、寛容な人たち、良識ある人たち、そして原則をしっかりと持った人たちがいるのです。このことをきちんと理解することによって、分断されてしまった我々が直面している、問題の解決策が見つかる可能性が生まれてくるのです。

全世界でも理想とされる、思いやりのあるコミュニティを築くことを、まずはわが校で実践しましょう。信念を持ち、善良な心を持ち、そして探究者であり、生産者であり、リーダーであり、ヘルパーである君達が一緒であれば、実践できるはずです。多様な才能、考え、文化、そしてバックグランドを備えた君たちのすべてが、貴重な財産なのです。

君達に今、世界の安全と秩序は今後も保たれ、これからも君達が傷つくことなく、痛みを伴うことなく成長していけるだろう、と私は敢えて言いません。なぜなら、それは到底約束できることではなく、そして何よりも、君達を今後もずっと庇護下に置いておくことを、私は望まないからです。私は君達に、信念を持って抵抗する力を持って欲しい、と願っています。わが校は、相互尊重の場であり、寛容と思いやりを持ってお互いに話し合うことのできる場です。意見の相違はあっても、他者を蔑視したり、他者を排斥するべきではありません。私たち全員は、ここに居るのです。そして、存在する権利があるのです。各々の権利が保証される限り、わが校は君達を選び、君達はわが校を選ぶのです。すべて者の立場が尊重されるべきなのです。

ホメ―ロスがイリアスの冒頭で、アキレスの怒りが国の不運と破滅をもたらす、と示唆した言葉にあるように、私たちが共存を重んじず分断を選択したとしたら、その結果として破滅の運命があるのか? 私には、正直わかりません。このような運命が私たちのものになり得るのか、そうでないのか、誰もギャランティーはできないでしょう。しかし、私たちがモットーとする“他者を思いやり、市民としての責任を果たす”というミッションを守ることはできます。成されたことを覆すことはできませんが、これまでの私たちを反省して、より良くなれることを示すことはできるのです。私は、君達に最高に期待しています。なぜなら、君達の可能性は無限大だからです。聞いてくれてありがとう!」

最後まで、読んで下さってありがとうございます。


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