杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ダー・天使

2024年05月30日 | 
一雫 ライオン (著) 集英社文庫

妻と幼い娘とともに、慎ましくも幸せに暮らしていた二郎。だが、ある日、通り魔から家族を守ろうとして命を落としてしまう。天国で神と交渉し、「天使」として地上へと戻るが、誰からも姿は見えず、手助けも出来ないまま、ただひたすらに妻子を見守り続ける二郎。小さかった娘は、中学生になり、高校生になり、そして――。すべての人への慈しみがあふれる、心温まる現代のファンタジー。(内容紹介より)


昔はやんちゃしていた二郎ですが、妻と出会い結婚し娘が生まれて平穏な日常に最大級の幸せを感じていたある日、通り魔から妻子を守ろうとして亡くなってしまうところから物語は始まります。

二郎が意識を取り戻した先は天国。そこにいたのは少年の姿をした神様で、天国についての一通りの説明を受けます。先に亡くなっていた母や兄とも再会した次郎でしたが、そのまま妻子がやってくるのを待つのではなく、天使となって地上に降りて妻子を見守る選択をします。

天使になっても、妻子に声が届くわけでも姿が見えるわけでもない。ひたすらに見守るだけです。もし何かが起こっても手を出すことも守ることもできないのです。それでも二郎はずっとずっと妻子を見守り続けます。

娘が小学生になり中学生になり、高校生になった頃、通り魔事件の犯人の少年が自殺したことで、再び世間の注目を浴びる家族の姿に胸を痛めた二郎は、天国に戻り加害者の少年を問い詰めますが、彼も苦しんできたことを知ります。ちなみに死んだら「生きもの」は皆天国に来るという設定です。

やがて妻が病気で亡くなり天国にやってきます。
しかし、妻といられたのはわずか一日だけでした。天使になる条件が、生まれ変わることだったからです。天国で妻がいつかやってくる日を待てばその後はずっと一緒にいられたのに、二郎は傍で見守ることを選んだのです。

天国や神様の設定は面白かったけれど、確かにファンタジーではあるけれど、個人的にはちょっとな~~という感じでした。
天国にいても毎日地上の様子は見られるわけだし、傍にいても何もしてあげることはできないというのに、それでも妻子の傍にいることを選んだ二郎は後悔ないのでしょうけど、やっと夫と再会した妻や母の思いについて考えなかったのかな~とかね。😔 

神様曰く、殆どの人は天国に留まることを選ぶらしい。それでも敢えてと言う人も少数ながら存在するとのこと。自分は間違いなく前者だろうな~~。
少年の姿の神様は数千年生きている設定で、人間に限らずあらゆる生き物の運命をルーレットで決めているという。更に神様を作った存在も示唆され、何だかドラゴンボールを連想してしまったぞ。あと、ドラマ『ブラッシュアップライフ』の神様もね。😁 


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2024さだまさしコンサートツアー”51”

2024年05月28日 | ライブ・コンサート他
ウェスタ川越 大ホール
開場17:00 開演18:05  終演20:40

4636回目のステージは銀河鉄道999を連想させる車両にSD51 1973-2024の文字が。ツアーのテーマは「旅」です。
緞帳はなく、汽笛の音から始まりました。
宇宙服を思わせる銀色のコート?を羽織って登場です。次々脱いでコンサートTシャツになりましたが最後の曲ではまたコート着用。

「夢供養」「夢回帰線」など、懐かしいアルバム曲からレーズンやグラクソ・スミスクラインのRSウィルス感染予防CM曲まで、所謂「通好み」なセトリになっていました。

ウェスタ川越は2000年にコロナ禍の中で行われた最初のコンサート場所でご本人にはオープニングの拍手の感動が忘れられないようで、以来この会場で開かれるたびにその話をされます。もちろん、あの夜客席に座っていた身にも感慨深いものがあります。

トーク(順不同)
・神出鬼没コンサートのきっかけとなった丹波篠山の大手食堂
・マウイの思い出と山火事の被災地への支援金を「風に立つライオン基金」から
・海外ライブ話 ガラパゴス他
・機内から見たハレー彗星
・オーロラの音と神楽
・コンサートグッズやアルバム紹介
 (今回はご当地ワッペンを販売していますがこれは開場して30分経たずに売り切れになっていました。)もっとたくさん用意して欲しいなぁ。
「51」はイチローをイメージして2007年にリリースされた楽曲ですが、歌詞の一部をウクライナや大谷翔平など現代に合わせて変えていました。


セットリスト 
・驛舎
・それぞれの旅

・指定券
・決心~ヴェガへ~

・東京
・1989年 渋滞‐ 故 大谷順平に捧ぐ

・ジャガランダの丘
・Pineapple hill

・51
・Believe
・いのちの理由 

・まほろば
・空蝉

・ひき潮

台風余波で大雨と風の予報の中でしたが、往復とも雨に濡れることなく傘要らずとなりました。コンサート中に降っていたようです。

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DRY

2024年05月27日 | 
原田ひ香(著) 光文社(発行)

北沢藍は職場の上司と不倫して、二人の子供を置いて家を出た。十年ぶりに実家に戻ると、男にだらしない母と、お金にがめつい祖母がうら寂しく暮らしていた。隣に住む幼馴染の馬場美代子は家族を見送り、今は祖父をひとりで看ている。介護に尽くす彼女は、孝行娘とあがめられているが、介護が終わったその先はどうやって生きていくのだろうか。実は、彼女の暮らす家には、世間を震撼させるおぞましい秘密が隠されていた。
原田ひ香が、満を持して挑む、堕ちていく女の果ての果て。(内容紹介より)


これまでの作風から一転、著者が初めて手掛けたクライムノベルらしい。
不倫、貧困、毒親、介護と次々重苦しい展開になり、極めつけはミイラ製造の描写。淡々と描かれると逆に不気味で恐いです。

藍の状況は自らが招いた行動の結果なので、同情する気にはなれないのですが、そもそも家庭環境が劣悪なんですね。

母親の貴子は男を作っては家を出、別れるとふらっと戻ってくることを繰り返してきた人で、娘より男=自分の幸せを優先させています。
藍を育ててくれた祖母のヤスも見栄っ張りなくせに家の中が荒れ放題でも平気で、大学へ行けと言いながらお金は出してくれませんでした。

そんな二人から逃げ出すように家を出、結婚した藍でしたが、義父母は藍や彼女の家族を嫌い、夫も彼らのいいなり。夫の浮気で心の隙間を埋めるように職場の上司と不倫した挙句、離婚され子供も夫側に取られてしまいます。

実家に舞い戻ってきていた母が祖母を刺して捕まっていると弁護士から連絡を受け、義父母が職場に押し掛けてきたせいでクビになったこともあり、仕方なく実家に戻ってきた藍は、母の保釈金を不倫相手と夫からせしめて払います。
祖母や母の存在が疎ましくて逃げ出した筈なのに、捨てきれないのは愛?

3人の同居が始まりますが、顔を合わせれば喧嘩を始める母と祖母にうんざりの藍は、事件の際に面倒をみてくれた隣家の幼馴染の美代子(みよちゃん)と親しく付き合うようになります。
みよちゃんは、家族の介護で就職も出来ず独身のままで、今は高齢の祖父の介護をしている孝行娘と評判でしたが、その祖父は110歳を超えている筈。行政の支援を受けられるのではと単純に疑問を持った藍でしたが、ある日衝撃の事実を知ることになります。

ここからネタバレ


実は美代子の祖父はとうに亡くなっていました。彼の年金だけが収入の全てだった美代子は祖父の身代わりの老人を連れて来て介護をしていたのです。年金の搾取ですね。何も知らずに訪れた藍が祖父と思っていた老人に突然襲われ、助けようとした美代子と共に彼を圧し潰してしまったことで秘密が明かされます。翌日老人が亡くなったと知らされ、藍は「後始末」を手伝わされることになるのです。しかも美代子が連れて来たのは彼が3人目で、二階の部屋には3体のミイラがありました。

このミイラの作り方の描写がエグイ!!
いつか子供を引き取りたいと思っている藍は、脅されて手伝わされるうちに、次第に「はまって」いきます。夫から「お前は乾いた女だ」と言われた藍のまさにDRYさが顔を出していくのです。

美代子はかつて行政から冷たい仕打ちを受けたことで今の状況に陥っていました。
彼女は藍に祖母が生活保護を受けられるようアドバイスします。世帯分離をして独り暮らしを装うため、格安の部屋を見つけてきます。月4万の年金より生活保護の12万の方が断然生き易いのね。金にうるさい祖母はこの話に乗ります。

一方で、藍と美代子は次の身代わりになる老人を探します。
藍が見つけてきた老人は呆けてはいるものの少し条件が悪かったのですが、美代子は受け入れます。しかしこの老人がきっかけで彼女たちの犯罪が明るみに出ることになるのです。

警察に連行された美代子は藍が共犯であることを隠し通します。
美代子は藍に、骨折死した老人は実は自分が絞殺したと告白し、藍には何の責任もないと言いました。

センセーショナルに報道されたこの事件は、老人の骨折がわかると単なる殺人と見なされ世間の注目は急速に薄れます。
ホテルに身を潜めていた藍が実家に戻ると母は荷物と共に消えていました。藍は母が自分を捨て二度と戻って来ないだろうと思います。祖母の姿もなく、借りていたマンションに行くと、そこにはボケが始まった祖母の姿がありました。

物語はここで幕を閉じます。
藍は祖母を棄てるのか?それとも年金目当てに介護が始まるのか?
おそらく藍は後者を選ぶ気がします。

藍に共感はできません。育ってきた環境には同情を禁じ得ませんが、その性格は受け継いだDNAも大いに関係していると思えるから。夫から子供を取り戻したいと望んだ筈の藍ですが、一番は自分なのです。おそらく子供たちは母と暮らしたいとは思わないでしょう。藍の母性や断ちがたい家族への愛情は理解できますが、逆に彼女を追い詰めていく要因にもなっていました。

むしろ藍よりも美代子の方がよほど純粋です。彼女は藍に自分が殺したと言いましたが、検死で老人が絞殺された証拠は上がっていませんでした。それは美代子が藍を庇ったということ?
介護だけが美代子の生きる術だった。そのために全力で彼女は生きて来た。とても哀しい選択ですが、そうさせたのは同情はしても手を差し伸べることはなかった周囲の責任でもあると感じました。

タイトルとは程遠いじめじめした感情が湧いてくる後味の悪いお話でした。😩

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薬屋のひとりごと6

2024年05月24日 | 
日向夏(著) しのとうこ(イラスト)ヒーロー文庫

西都にて、壬氏に求婚された猫猫。今まであやふやだった関係が大きく変わろうとしていた。今までと変わりなく接したい猫猫に壬氏は焦る。皇弟として、政に関わる者に恋という自由はない。猫猫もまた、壬氏の心を知りつつも、己の立場を考えると首を縦に振ることはできない。軍師羅漢の縁者、それが西都で用意された猫猫の肩書だった。猫猫は重い気持ちのまま、ある決断をくだすのだが――。(あらすじ紹介より)


順番を飛ばしたため、前作の流れがわからないところもあるけれど・・

序話
猫猫から受けたディープキスで「負けた」と思った壬氏が、馬閃相手に愚痴ったのが間違い。練習相手を志願した馬閃は筋肉馬鹿の武官なんだよな~~。互いに勘違いしたまま事が始まり、壬氏が何か変だと気付いた瞬間、阿多が部屋に入ってきて二人の様子を見て勘違いされるという、なんとも間抜けというか笑い誘うエピソードから始まります。

一話 西都 四日目
宴の席で獅子が暴れ柵を飛び出して里樹に襲い掛かったのは、彼女にかけられた香水に獣へ興奮作用があったから。壬氏の使いとして馬閃が猫猫に真相を探る依頼をしてきます。香水は里樹の異母姉が悪戯のつもりでかけたことがわかります。それを彼女に譲った相手の人相書きに描かれた履を見て、猫猫は相手が纏足をしていると推理します。

二話・三話 浮かぶ花嫁 前編 後編
結婚式に招かれた壬氏は、花嫁が纏足をしていると知り猫猫を伴います。ところが花嫁の自殺騒ぎに巻き込まれることに。猫猫は状況の不自然さに気付いて自殺は偽装と見破ります。この一族は代々異国との関係を保つために娘を嫁がせてきましたが、彼女たちは奴隷のように扱われてきたのです。宴の席での事件は、婿が連れて来た獅子が暴れたらその責任は婿が追うことになるために計画されたのでした。

四話 帰路
西都に残る壬氏と別れて羅半と帰ることになった猫猫。船旅は旅程を縮められるけど羅半は船酔いに苦しみます。猫猫は平気だけどね。疱瘡であばた顔となった男・克用に遭遇し、医者だという彼が持っている酔い止め欲しさに乗船を許す羅半。

五話 西都の後始末
一方、壬氏は玉葉妃の父に「名」を受けに都に来るよう告げます。長旅になる不在の間の治安を心配しながらも、避けられない儀式なようです。

六話・七話 羅の一族 前編 後編
羅半が猫猫を連れていったのは羅一族の屋敷です。
そこには羅漢が拉致されていました。彼は愛する妻が亡くなり腑抜け状態なところを当主の座を奪い返そうと考えた父親に連れ去られたようです。でも羅漢の弟(養父の羅門に似た穏やかな人柄)もその息子(羅半の兄)も当主の座には興味もなく、農夫として甘藷の栽培に取り組むことに喜びを見いだしています。抜け殻のようになっている羅漢を正気に戻したのは彼と妻が交わしていた碁の棋譜です。父親を嫌い抜いている猫猫の彼への塩対応には羅漢への同情心が湧いてきますね。
羅半は父と兄が作る甘藷を蝗害対策の要にしようとしています。

八話 里樹妃の旅の終わり
二か月の間不在にしていた里樹は、後宮に戻る前に「証明」が必要となります。

九話 帰宅
花街に戻った猫猫。クソガキ趙迂も嬉しそう。
風邪が流行ったため、留守(薬屋)を頼まれていた左膳は疲労困憊していました。

十話 傷んだ餡餅
趙迂は猫猫が留守していた間に画家の弟子になっていましたが、その画家が倒れて助けを求められます。腐ったおやきで食中毒になったと思われましたが、実は、西に旅立とうとする画家を引き留めるために助手が毒キノコをおやきに混ぜていたことに猫猫が気付きます。ところで、画家の描いた絵は「白蛇仙女」そっくりで・・。

十一話 踊る水精
猫猫は、画家が見かけたという女がいた村に薬の原料を取りに行きます。
まとわりつく趙迂を連れて行ってやれとやり手婆に言われ渋々承諾する猫猫。代替わりした村長から蛇や飛ぶ鳥は殺すなと言われ不思議に思う彼女は、羅門の旧い知り合いの爺さんから薬草を買う中で、「人柱」の話を聞きます。底なし沼を渡る巫女の話の真相を解いた猫猫は、鳩小屋の鳩が白蛇仙女の伝達手段だったと気付きます。

十二話 里樹妃の受難
生理不順な里樹妃は、月のものが来ないことから不義を疑われます。潔白を証明するために猫猫が呼ばれます。
それは大丈夫でしたが、意地悪な元侍女頭が里樹が主上以外の男に書いた恋文を見つけたと騒ぎだします。

十三話~十五話 醜聞 前編・中編・後編
下女のために書いてあげた恋愛本の写しを恋文だとでっちあげられた里樹妃。塔に幽閉された里樹に付き添ってきたのは侍女頭の河南一人でした。ただでさえ気弱な彼女に、上階に捕まっていた白蛇仙女が素貞と名乗り、香を使って言葉巧みに追い込んでいきます。河南の事も信じられなくなった里樹は素貞の罠に嵌り、急を聞いて駆け付けた壬氏と猫猫の目の前で塔の上のバルコニーから落ちてしまいます。彼女を救ったのは、両足と左手を痛めながらも身をもって落ちて来る里樹を庇った馬閃です。

十六話 馬閃と里樹
獅子を素手で殴ったことといい、常人にはできない芸当ですが、これも恋のなせる業でしょうか。人見知りの里樹が思わず馬閃の胸に顔を埋めて泣くんですね。

終話
里樹には、一年間の出家の裁定が下りました。
帝に呼ばれた猫猫は、里樹に相応しい相手を聞かれます。
その結果、馬閃には、望むもの(者)は何でも与える&考える時間は1年との下知が。

里樹が陥れられた物語は「ロミオとジュリエット」が下敷きになっていると思われますが、こちらは悲恋ではなく成就しそうですね。不幸続きの里樹にもやっと「春」が訪れるのでしょうか。
ちなみに猫猫はこの物語を「理解できん」と感じています。それは壬氏も同様です。彼はもっとやり方があっただろうと思うのですが、猫猫は恋愛自体に懐疑的なんですね。
この二人、まだまだ平行線なのかな。

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ランチ酒

2024年05月19日 | 
原田ひ香(著) 祥伝社(発行)

へこたれてなんていられない。食べて、飲んで、生きていく!
犬森祥子の職業は「見守り屋」だ。営業時間は夜から朝まで。ワケありの客から依頼が入ると、人やペットなど、とにかく頼まれたものを寝ずの番で見守る。そんな祥子の唯一の贅沢は、仕事を終えた後の晩酌ならぬ「ランチ酒」。孤独を抱えて生きる客に思いを馳せ、離れて暮らす幼い娘の幸せを願いながら、つかの間、最高のランチと酒に癒される。すれ違いのステーキとサングリア、怒りのから揚げ丼とハイボール、懐かしのオムライスと日本酒、別れの予感のアジフライと生ビール……etc.今日も昼どき、最高のランチと至福の一杯! 疲れた心にじーんと沁みる珠玉の人間ドラマ×絶品グルメ小説集。(内容紹介より)


祥子は、元同級生の亀山太一の会社で『見守り』の仕事をしています。一人娘の明里を元夫のところに残して離婚した彼女は、娘との面会日が楽しみなのですが、再婚した夫から暫く娘とは会わないよう頼まれ、もやもやした気持ちを抱えています。
見守りは夜間の仕事が主なため、仕事終りの午前中にどこかの店に入って食事とお酒で一息つくのがささやかな楽しみの祥子の日常が美味しそうな料理とお酒を交えながら描かれます。

第一酒 表参道 焼き鳥丼
依頼主は外国暮らしの田端史江の娘・時江。前泊して高齢の史江の通院に付き添う仕事です。母が娘を想う気持ちは立場が違っても同じなのよね~。

第二酒 秋葉原 角煮丼
秋葉原のタワマンに住む新藤から再度の要請が入ります。(前回気まずく別れたらしい)この男、高収入でそこそこの容姿なのですが性格に難が大あり。女性蔑視傾向で俺様な奴。今回は契約結婚を提示されて唖然とする祥子でしたが、彼の条件に一瞬心が動いてしまったのは将来の展望もなく娘にも会えない焦りからでしょう。彼女の反応に冗談だと言った彼は彼なりに傷ついている様子。根は悪い奴じゃないんだろうなと。

第三酒 日暮里 スパゲッティーグラタン
中一の女の子の夜の見守りの依頼。シングルマザーだけどタワマン住まいということは夜のお仕事?全く手のかからない少女ですが、逆に張り詰めた糸の危うさを感じてしまう祥子。朝食を作ってあげたことでほんの少し心を開いてくれた少女に自分の娘を重ねてしまいます。

第四酒 御殿場 ハンバーグ
今回の仕事は荷物を届けることで三度目。依頼主の角谷から御殿場アウトレットでグッチの小銭入れをプレゼントされたり、有名ハンバーグ店(絶対「さわやか」だよな~~😍 )で食事したりとデートのような時間を過ごしますが、下の名前も知らないまま別れます。
次に依頼が来ても断わるよう言われて理由を尋ねた祥子に議員秘書をしている彼は何も知らない方が良いと答えます。後日彼が贈賄容疑で逮捕のニュースが・・・

第五酒 池袋・築地 寿司、焼き小籠包、水炊きそば、ミルクセーキ
高校三年生の男子の見守り(夜食を作り、模擬試験会場まで送る)の後に訪れたのは、末期がんで入院中の作家の樋田の病室。夜の見守りの依頼で、食通・グルメで売れた彼女は祥子が食べた池袋の店の料理やお酒の話に目を輝かせ、久々に安眠します。彼女から築地で食事をしてまた話して欲しいと言われ訪れた水炊きそばの店と市場の端の喫茶店の懐かしい味のミルクセーキ。築地を愛している作家に想いを巡らせる祥子です。

第六酒 神保町 サンドイッチ
ネットで誹謗中傷されたことがきっかけでエゴサーチをやめられない女子大生・実咲の見守りを頼まれた祥子ですが、一夜で彼女の心を開くことはできません。
編集者の小山内から連絡を受けて神保町の喫茶店で会った祥子は彼の母の元子の近況と樋口のその後の話を聞きます。樋口は小康状態になり自宅に戻っていると聞いて心から良かったと思う祥子でした。

第七酒 中目黒 焼肉
買物依存症の青年・蒼汰の見守りでまず頼まれたのは彼の腕を縛ること。変なプレイではなくネットで買い物をしないためです。祥子はIT大手に勤める彼に実咲の件をそれとなく相談します。すると警察に相談していると匂わせれば誹謗中傷していと一緒に駅に歩く途中で彼が教えてくれた有名焼肉店のランチを食べながら、元子や咲や角谷のことを考える祥子は、ある決心をします。

第八酒 中野 からあげ丼
亀山と腹を割って話すことした祥子は、角谷の件を問い質します。彼は薄々危なさに気付いていたけれど、ここまでの事件になるとは思っていなかったと詫びます。飯を驕ると言われて連れて行かれた店は、第一酒で彼女が行こうとして店がなくなっていたあの唐揚げ店でした。飲み食べする中で、亀山は祥子が頼んだ角谷の消息を調べることと実咲の件の解決に協力すると言いました。

第九酒 渋谷 豚骨ラーメン
実咲と母親を交えての話し合いの末にようやく解決の糸口が見えてきます。画像を流出させたのが疎遠になっている親友というのがいかにもな感。人間は輝いている相手に嫉妬と焦燥感を覚えるものなのよね。😞 
編集者の小山内から告げられた好意に対しては、娘を理由に婉曲に断ります。互いにはっきり示さないのが大人の対応ってことで。

第十酒 豊洲 寿司
再入院した樋田の依頼で豊洲市場の見学と食事に出かけた祥子。
水族館を覗き見るような見学コースには違和感を覚えるものの、仕事場と観光客を分けることについては納得するのね。
廻らない寿司屋でのおまかせコースはどれもとっても美味しそう。カウンター席に座った2組の女性客との連帯感の様なものも生まれます。
最後は、仮釈放される角谷から届いた手紙に心揺れながらも出かけて行く祥子。
小山内には断っておきながら、なんですが、恋心は杓子定規にはいかないものです。

娘と会いたい思いに悩む祥子は、見守りの相手からアドバイスを受けながら、元夫の再婚相手とも徐々に友好な関係を築いていきます。自分も誰かの役に立ちたいと思うようになった彼女の人間的な成長も描かれます。
何より、仕事終わりに入る店の美味しそうな料理の数々とそれに合うお酒の描写が素敵です。土地勘のある人なら「あぁ、あの店だ」とわかるよね😁 

人生まさに色々ですが、美味しい料理と美味しいお酒がご褒美なら頑張れそうと思える作品です。😀

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虫たちの家

2024年05月12日 | 
原田ひ香(著) 光文社(発行)

九州の孤島にあるグループホーム「虫たちの家」は、インターネットで傷ついた女性たちがひっそりと社会から逃げるように共同生活をしている。新しくトラブルを抱える母娘を受け容れ、ミツバチとアゲハと名付けられる。古参のテントウムシは、奔放なアゲハが村の青年たちに近づいていることを知り、自分の居場所を守らなければと、「家」の禁忌を犯してしまう。(あらすじ紹介より)


面白いタイトルに惹かれて手に取ってみました。
「虫たちの家」は、インターネットで傷ついた女性たちが社会から身を潜めて暮らす九州の孤島にあるグループホームです。ここでは互いに本名も過去も明かさず、マリアが付けた虫の名前で呼び合っています。

オーナーのマリアと古参のテントウムシ、それからミミズとオムラサキの4人で暮らしていましたが、新しくトラブルを抱えた母娘(ミツバチとアゲハ)を受け容れることになります。大人たちの中に未成年のアゲハが加わることで自分たちの暮らしに変化が起こるのではと心配するテントウムシの予感はやがて現実になります。

アゲハが村の青年たちと親密になっていると近所の老人から聞かされたテントウムシは、自分の居場所を守りたい一心で「家」の禁忌を犯しネットでアゲハの素性を調べてしまうのです。そもそもネット閲覧禁止を決めたのはマリアとテントウムシだったのに、どうして?と感じてしまいましたが、唯一の居場所を失うかもしれないという恐怖が理性を凌駕してしまったということでしょうか。

アゲハは傷害事件の被害者であるだけでなく、痴態画像をネットにばらまかれた過去をテントウムシに打ち明けていたのですが、そんな目に遭ったのに異性に近づくアゲハの行動が理解できないテントウムシは、アゲハの言葉をそのまま信じられなくなっての行動でした。そして調べるほどにアゲハの裏の顔が見えて来るのです。

物語は、過去の出来事の回想と現在が交互に描かれます。現在パートはテントウムシの視点ですが、過去は誰の視点なのか?初めはテントウムシの子供時代だと思っていましたが、実は・・・な衝撃が待ち構えていました。

ミツバチとテントウムシは過去に接点がありました。
過去を語る少女の母が神経を病んでいたことが伏線になります。

日本ではないどこか遠くの国で暮らす駐在員とその家族。政情不安なため壁で囲まれた敷地の外に出る事は出来ず、狭いコミュニティーの中で心理的に追い込まれていく少女の母。少女自身も友達ができずに現地人の家政婦と両親だけの世界の中で、大人の軋轢に巻き込まれていき、やがて彼女の一言がきっかけで母が自殺し、少女は父親と日本に帰国します。

アゲハが通っていた高校の生徒から話を聞いたテントウムシは、アゲハが自ら画像をばらまいたのか?今一つ信じられないまま島に戻ってきますが、マリアたちにネットを使ったことがばれていて、禁を破ったことで島を追い出されてしまうのです。
自分の居場所はここだ!と固く心に決めて戻ってきたのに逆の結果になったわけですね。
島を去る彼女にアゲハは「おばさん!」と叫びます。
一度もそんな言葉で呼ばれたことが無いテントウムシは、もう一つの意味(叔母)に気が付きます。

それから数年後。
清掃の仕事をして暮らしているテントウムシは、アゲハと再会します。
アゲハの母ミツバチはテントウムシが二年前に自分の父親に会いに来たことで、彼女が父の子供ではないかと疑い、アゲハを使って「虫たちの家」に潜り込んでテントウムシの居場所を奪おうとしたのでした。ミツバチ自身がその母と同じように心を病んでいる女性であり、そんな母に育てられたアゲハは、母の病の原因となったテントウムシを憎んでいたのですね。
だからといって自らを傷つける行為をするというのは、やはりアゲハにも同じ「血」が流れているからでしょうか。何だか切ないなぁ。
親たちの複雑な関係が娘たちに大きな影響と傷を残し悲劇を生む構図が哀しかった。

テントウムシが島を出た後、マリアは亡くなりミツバチ母娘は金目の物を盗んで出て行き、「虫たちの家」は崩壊していました。でもせめてもの救いはミミズとオオムラサキが元気に暮らしていること。そしてテントウムシと再び交流が始まりそうなことです。

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薬屋のひとりごと 4

2024年05月03日 | 
日向夏 (著), しのとうこ (イラスト) ヒーロー文庫

壬氏が宦官ではないと知ってしまった猫猫。
後宮内で皇帝以外のまともな男がいるのはご法度、それがばれないようにどきどきする毎日を過ごす。そんな中、友人の小蘭が後宮を出て行ったあとの就職先を探していることを知る。猫猫と子翠はそんな小蘭のために伝手を作るために後宮内の大浴場に向かう。その折、気弱な四夫人里樹妃が幽霊を見たという話を聞いてそれを解決すべく動き出す。
一方、翡翠宮では玉葉妃の腹の子が逆子だとわかる。ろくな医官もいない後宮でこのまま逆子を産むことは命に関わると、猫猫は自分の養父である羅門を後宮に入れるよう提案するが新たな問題が浮上する。
後宮内で今まで起きた事件、それらに法則があることに気が付いた猫猫はそれを調べようとして――拉致される。宮廷で長年黒く濁っていた澱(おり)、それは凝り固まり国を騒がす事態を起こす。(あらすじ紹介より)

TV放映されていたアニメを見て興味を惹かれました。
ラノベは現在15巻まで発売されているようです。先は長い😓 

序話から終話の間に22話あります。
一話 湯殿
二話 赤羽
三話 踊る幽霊
四話 噂の宦官
五話 氷菓
六話 逆子
七・八話 巣食う悪意 前後編
九話 狐と狸の化かし合い
十話 足跡
十一話 狐の里
十二話 鬼灯
十三話 祭り
十四話 取引現場
十五話 砦
十六話 羅半
十七話 蠆盆  
十八話 飛発(フェイファ)
十九話 行軍
二十話 奇襲作戦
二十一話 事の始まり
二十二話 狐につままれた
 
序話が誰の視点なのは読み進めるうちにわかってきます。
そうか~~彼女だったのか!

浴室に出るという幽霊の調査を頼まれた猫猫は壬氏 と共に湯殿へ。幽霊の正体は銅鏡の凹凸が映し出したものでした。里樹妃は鏡に映し出された亡き母親に似た姿に涙します。
里樹妃は侍女たちに虐められていますが、侍女の簪が妃から奪ったものだと気付いた壬氏は侍女たちを窘めます。

玉葉妃の赤子が逆子かもということで、猫猫の推薦で羅門が召喚されます。
かつて羅門が注意喚起した毒おしろいの張り紙が剥がされていることを疑問に思った
猫猫は、診療所の年配者である深緑を訪ねます。診療所は先帝のお手付きとなった者たちの居場所となっています。一度でも寵愛を受けたら後宮を出ることは許されない彼女たちにとって、寵を受ける妃たちは憎悪の対象で、そのため数々の妨害行為をしていたと考えた猫猫でしたが、そこに死んだはずの翠苓が現れ、子翠を人質にとって蘇りの秘薬の作り方を知りたくないかと言います。

猫猫がこの誘惑に逆らう筈もありません。拉致されていく道中、彼女は翠苓と子翠が姉妹のように仲が良いことに気付きます。実は子翠の正体は上級妃・楼蘭 で、翠苓は異母姉でした。ちなみに子翠は虫好きですが翠苓は蛇を異常に怖がります。

楼蘭の故郷の森の中の隠れ里に連れて来られた猫猫。
豊穣の神の狐神を信仰する里の祭りの様子は楽し気ですが、お面に描かれた赤と緑の色彩の違いが意味するのは子一族の遺伝的な色覚異常です。

猫猫は幽閉されますが、クソガキ・響迂の手引きで抜け出し、「里長の倉庫」で動物実験の痕跡と解体された飛発を見つけます。ところが楼蘭の母・神美に見つかってしまうのね。😟 極度に脅える翠苓の様子がこれまでの彼女とは全く違って見えます。楼蘭が猫猫は三十路を超えた薬師だと嘘をついたので、神美から「不老の妙薬」を作ることを命じられ難を逃れました。この母親がとんでもないモンスターキャラ。😖 折檻が趣味で翠苓を苛め抜き、夫の隣室で男娼に耽る彼女が望むのは不老です。でもその容貌は既に衰えているんですけどね。

響迂が猫猫を逃がそうとして見張りに見つかり、それを庇った翠苓が神美に水牢に入れられそうになって、思わず「クソババア」と言ってしまった猫猫は神美の怒りを買い蠆盆 の罰を受けることになります。でも彼女にとってはむしろ嬉しいプレゼントなわけ。子翠から貰った笄を錐に壬氏から貰った簪を小刀代わりに毒蛇を殺した上で悠々と蛇を焙って頬張る猫猫。この処刑を母に提案したのは猫猫のことを良く知っている楼蘭です。また翠苓の蛇嫌いは以前この罰を受けたからなのでした。普通の神経では耐えられないよな~~😓 

一方、後宮から姿を消した猫猫を探す壬氏たちは、子昌が反乱を企んでいる証拠を握ります。愛娘を攫われ怒り狂った羅漢に罵倒される壬氏。養子の羅半の機転で呼ばれた羅門のとりなしで事なきを得ますが、羅漢は壬氏に立場をはっきりさせるよう迫ります。ここで遂に壬氏が皇弟であることが明かされます。

禁軍の指揮をとる壬氏。軍師の羅漢の奇襲作戦で砦は陥落します。羅漢自身は馬車から飛び降りた際にぎっくり腰になって途中退場ですが(^^;

反乱の無謀さは誰の目にも明らかです。楼蘭はその結末を危惧し、地下の火薬製造工場で働く者たちを逃がし火薬に火を点けます。翠苓に頼まれた見張りによって牢から助け出された猫猫が楼蘭と再会します。彼女に連れて行かれた部屋には毒を飲まされた5人の子供たちがいました。反逆者は一族郎党女子供も処刑台が待っています。
楼蘭は猫猫に子供たちを「託し」ます。(この意味はもう少し後になってわかるの。)
猫猫は壬氏に貰った簪を楼蘭に渡し「いつか返して。それ貰いものだから」と。彼女なりの願掛けですね。

禁軍の奇襲(雪崩を起こした)と火薬の爆発音に驚いた子昌ですが、外の様子を見るためには妻の部屋を通らなければならず・・・ここで彼の妻への思いが吐露され、腹黒狸キャラの彼の意外な素顔が明かされます。
そこに現れた楼蘭は母に毅然とした態度を示し、棚に縛られ閉じ込められていた翠苓を助け出し、父には責任を持つよう促します。

覚悟を決めた子昌は、最期まで悪役を演じきって息絶えます。
楼蘭によって神美と引き合わされた壬氏 。楼蘭は神美の知らなかった真実を語ります。
かつて神美の父が禁止されていた奴隷交易で女帝に目をつけられ、娘の神美が人質として後宮に入れられたのです。子昌は婚約者を取り戻そうと、奴隷交易に代わる事業として後宮拡大を提言しました。後宮に抜け穴を作って神美を逃がそうとすらしましたが、想いは最後まで届かなかったのです。先帝から侍女との間に設けた娘を娶るよう頼まれ断れなかった子昌でしたが、神美の方は自分が後宮にいる間に妻子をもうけていた子昌を恨み憎悪し、翠苓とその母を虐め抜いてきたのですね。

楼蘭の挑発にキレた神美は飛発の暴発で命を落とします。これも楼蘭が仕組んだことでした。モンスターな母親ですが、それでも彼女なりに母を愛してはいたのですね。

楼蘭は壬氏 に重要な情報と引き換えに二つ頼み事をします。
一度死んだ者は見逃すことを了承した壬氏は二つめも甘んじて受けるのです。それは母が憎んでいたその美しい顔を傷つけることでした。
皇弟・壬氏を傷つけたことで撃たれた楼蘭は砦の屋上から落ちていきます。

馬車の中、死んだ子供たちと共に眠る猫猫を訪ねた壬氏。その傷を見た猫猫との会話で抑えきれなくなった彼が迫ろうとした時、物音が!子供たちが飲まされたのは甦りの薬だったのね。猫猫が攫われた理由はこのためだったのです。そして一度「死んだ」子供たち(翠苓も)は見逃すと壬氏は約束しています。全ては楼蘭が仕組んでいたわけで、その聡明さ凄すぎ!

その後、玉葉妃 が無事皇子を出産したことでお役御免となった猫猫は花街に戻り、薬の後遺症で記憶を亡くした響迂(趙迂 と名を変えています)と緑青館 で暮らしています。他の子供たちと翠苓は、阿多が引き取って南の離宮で匿われています。
子の一族は処刑されましたが楼蘭の遺体は見つかっていません。

花街にやってきた壬氏は、猫猫に約束の履行を迫ります。簪の行方に呆れながらも納得してしまうの彼が可愛いぞ。結局彼は猫猫の首に噛みつくのですが、それってディープキスの変形かい!もっといい雰囲気になりそうなところで趙迂に邪魔されるのは今後もお約束になりそうな…扉の隙間から覗いている遣り手婆と高順も面白すぎ😁 
それでも猫猫の膝枕はGETした壬氏様なのでした💛

終話では都から遠く離れた港町 での露天商と娘の会話が登場します。
玉藻と名乗る娘が交換を持ち掛けた簪には穿ったような跡が。これってあの簪ですよね!やっぱり生きていたんだ~楼蘭。彼女は海の向こうに興味があるようで、また違った舞台で再登場するのかな。そして簪は巡り巡って再び猫猫の元に戻るんだろうな。😀

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慈雨

2024年05月02日 | 
柚月 裕子 (著) 集英社文庫

警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。


警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子と四国巡礼の旅に出ます。それは彼の贖罪の旅であることが徐々にわかってきます。
初めは一人で行くつもりでしたが、同行したいという妻への長年の苦労に報いたい思いもあって一緒に行くことにしたのです。飼い犬の老犬マーサの世話は同居の娘・幸知が面倒を見てくれ、二か月以上の長旅が始まります。

神場は16年前に解決済みとされた『純子ちゃん殺害事件』で口外できない苦悩を抱えていました。

旅に出て早々、愛里菜ちゃん殺害事件が起こります。犯人は小児性愛者と考えられ、現場近くで白の軽ワゴン車が目撃された点など16年前と酷似していることに胸が騒ぐ神場は思わず後輩刑事の緒方に捜査状況を尋ねます。
緒方にとって神場は今も尊敬する刑事で、かつ恋人の幸知の父親でもあります。捜査が難航するなか、緒方は神場に助言を求めてきます。
神場は緒方が立派な男だと認める一方、娘が刑事の妻になって辛い思いをすることを考えると交際を認めることができずにいました。

以後、神場と緒方はそれぞれ別々の場所で二つの事件に向き合っていくことになります。

二つの事件が同一犯による可能性に気付いた神場。純子ちゃん殺害事件で逮捕した犯人が冤罪だったのではないかと疑念を抱き続けてきた彼にとって、
愛里菜ちゃん殺害の犯人を追うことは、警察の不祥事を暴くことになり、刑事を引退した彼にとっても他人事では済みません。同時に妻子にも迷惑をかけることになります。強い葛藤を抱きながら巡礼の旅を続ける夫に香代子は不安を覚えながらも敢えて問うことはせずについていきます。

旅の途中途中で、夫婦の過去や関わった事件のエピソードも登場します。
幸知が夫婦の実子でないことは名前の「幸」という字から察知できました。
夫婦が三度出会う遍路の男性の過去は哀しかった。温かくもてなしてくれた老婆の壮絶な過去の話も・・・不躾と承知していながら敢えて問う神場への返答が彼の背中を押します。

刑事として一生を全うする覚悟で、このまま真実から目を背けては人間として失格だと心を決めた神場は同じ後悔を抱える鷲尾捜査一課長に話し、共に被害者や遺族の無念を晴らそうとします。立場上表立っては動けない鷲尾は神場の推薦のもと、緒方を秘密裡の捜査に引き入れます。

権力の失墜を恐れた上層部から再調査を禁じられ抗えなかった神場と鷲尾の後悔を知った緒方は、恋人の父親を追い込むことになるかもしれない捜査に苦悩しながらも刑事を続けていく覚悟を神場に伝えます。
神場は緒方に娘が実子でないことを告白しますが、緒方から幸知は既にそのことを知っていると聞かされ驚きます。夫婦は幸知が苦しむのではないかと考えずっと伏せてきたのです。全て自分の杞憂だったと知った神場は緒方に娘との交際を許します。

旅が終わりに近づいた頃、喫茶店で目にした男の子の行動にヒントを得た神場はすぐに緒方と鷲尾に連絡します。これがきっかけとなり執念の捜査が実り愛里菜ちゃん殺しの犯人が逮捕されます。それは即ち純子ちゃん事件の犯人であることも示唆されますが、結末では触れられていませんでした。
全てを捨ててでも刑事として生きることを決めた三人の執念の物語でもあります。

人間には八十八の煩悩があり、四国霊場を八十八ヶ所巡ることで煩悩が消え、願いが叶うとされる巡礼の旅の様子はちょっとしたガイドブックのよう。
妻と共に辛い道のりを歩き、人の温かい心に触れるうちに神場の中の迷いも消えていきます。
上意下達の警察組織の中で声を封殺された神場と鷲尾の苦悩は自分たちの正義の挫折でもあります。二人が悪夢にうなされるのはその後悔から来ているのですね。冤罪となれば彼は全財産を被害者遺族と犯人として服役している男に渡すと決めていますが、この点に関してはそこまでする必要があるのかとの思いもあります。そもそも犯人とされた男には多数の性犯罪の余罪があり、同情できないということもあるので。ただ、冤罪はやはり許されることではないことも承知しています。十数年前ということでDNA鑑定の不確かさという要素も含まれていてなかなか難しい問題でもありました。

神場は旅を通して妻への感謝を改めて感じることになります。刑事の妻として夫を支え続けた香代子の大らかさや人に対する捉え方が神場の心の支えとなっていたことに彼は気付くのです。刑事の娘である幸知の緒方に対しての心遣いも母譲りと言えるでしょう。

表題の「慈雨」は結願寺の手前で降ってきたお天気雨。まさにラストに登場するそれは、物語の締めくくりに相応しい優しく降り注ぐ慈しみの雨なのでした。


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