杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

アリー スター誕生

2019年06月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年12月21日公開 アメリカ 136分

ドラッグと酒浸りのカントリー歌手ジャクソン・メイン(ブラッドリー・クーパー)は、カリフォルニア州でのコンサートの後に立ち寄った小さなバーで出会ったアリー(レディー・ガガ)の歌声に大きく心を揺さぶられ、彼女を次のコンサートに招待する。ジャクソンとアリーのデュエットは観客から喝采を浴び、ジャクソンはアリーを自身のツアーに同行させるうち、二人の間に恋愛感情が芽生える。やがてアリーは有名プロデューサーのレズに見出されてメジャーデビューし、ポップ歌手へ転身してスターの座を駆け上がっていく。友人たちの前で結婚式を挙げた二人だったが、アリーの転身を内心快く思っていなかったジャクソンはストレスからますます酒やドラッグに溺れていき、アリーのグラミー賞新人賞受賞のスピーチの場で大失態を演じる。レズはジャクソンの存在がアリーのキャリアの妨げになっていると考え、ジャクソンにその事実を突きつけるが、それが悲劇的な結末を生んでしまうことに・・・。

 

歌の才能を見いだされた主人公がスターダムを駆け上がっていく姿を描いた1937年の「スタア誕生」から、何度か映画化されてきた物語を、今回新たにブラッドリー・クーパー監督&レディー・ガガ主演で描いています。どぎついメイクのガガしか見たことがなかったけれど、素顔の方がずっと美しいじゃないですか

アリーと出会うまで、ジャクソンを公私共に支えていたのは兄のボビーでした。二人は親子ほど年が離れていますが、彼らの父親もまた酒浸りの男で、ボビーは早くに家を出ていたようです。少年時代に蓄音機に頭を突っ込んで大音響で音楽を聴いていたせいで片耳が難聴(失聴?)で、もう片方も失聴の危機にあるジャクソンですが、補聴器を着けることを拒み(自分の声しか聞こえなくなるという理由)続けていて、でも常に耳鳴りがしている状態。これだけでもかなりのストレスですね。

父親に対する複雑な思いが兄弟の間に微妙な溝を作っていて、アリーの提案で訪れた故郷の牧場が既にボビーによって売却されていたことに怒り狂ったジャクソンはボビーに殴りかかります。本音をぶつけ合った挙句、ボビーはマネージャーを辞めジャクソンから去っていきます。(でも彼が苦しんでいる時には手を差し伸べる兄貴なんです

アリーは純粋にジャクソンを尊敬し、愛し続けます。二人が初めて結ばれた朝のシーンや、友人たちの前でギターの弦で作った結婚指輪を贈るシーン、愛犬と戯れるシーンなどはとても幸福そうに描かれています。授賞式のスピーチの場でのジャクソンの粗相の時ですら、アリーは夫を庇い気遣います。自分の存在が彼に悪影響を及ぼしているのではと心配するほどのまっすぐな愛情をジャクソンに向けるのですが、そのことが逆に彼に疑問や彼自身が邪魔な存在だと気付かせてしまうことになるというのは本当に悲劇でした。

本編の歌はガガはもちろん、ブラッドリーもなかなかです


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メリー・ポピンズ リターンズ

2019年06月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年2月1日公開 アメリカ 131分

大恐慌時代のロンドン。バンクス家の長男マイケル(ベン・ウィショー)は今では家庭を持つ父親となり、かつて父や祖父が働いていたロンドンのフィデリティ銀行で臨時の仕事に就いていた。しかし現在のバンクス家に金銭的な余裕はなく、さらにマイケルは妻を亡くしたばかりで家の中も荒れ放題。そこへ追い打ちをかけるように、融資の返済期限切れで家まで失う大ピンチに陥ってしまう。そんな彼らの前に、あの「ほぼ完璧な魔法使い」メリー・ポピンズ(エミリー・ブラント)が風に乗って舞い降りてくる。(映画.comより)


アカデミー賞5部門に輝いた1964年公開の名作ディズニー映画「メリー・ポピンズ」の20年後を描いた続編です。監督はロブ・マーシャルで、実写とアニメーションが織り交ぜられた映像に、音楽やダンスがうまく溶け込んでいます。(そういえば、元作品をちゃんと観たことあったかな? )

メリー・ポピンズは、バンクス家の末っ子ジョージー(ジョエル・ドーソン)の揚げた凧に乗って20年前と変わらない姿で空から舞い降りてきます。あら、傘じゃないのねと思ったら帰る時はちゃんと傘でした

エレガントでマナーに厳しい魔法使い(なのね)のメリーさんですが、バスタブの底を抜けて海底探検に向かったり、絵画の世界に飛び込み華麗なミュージカル・ショーを繰り広げたりと、一風変わった方法でバンクス家の子供たちのしつけをするメリー・ポピンズ。(ジュリー・ウォルターズが家政婦のエレン役で出演していました。)

画家のマイケルは妻に家計の切り盛りを任せきりだったので、妻亡きあとの家計はなかなかに苦しい状況です。家を担保に借りたお金の返済も滞っていて、銀行から差し押さえ通告を受けます。実は前頭取のドース・ジュニア (ディック・ヴァン・ダイク)から経営を受け継いだ甥のウィルキンズ(コリン・ファース)は、銀行の利益第一で、借金の抵当になっているマイケルの家を取り上げようとしているんですね。子供たちが母の大事にしていた器の世界に入るアニメーションパートでは、ロイヤル・ドルトン・ミュージック・ホールから客の大切なものを盗む盗賊団の首領のオオカミ役で登場します。

少しでも返済の足しにしようと考えたジョージーと、双子の兄ジョンと姉アナベルとの間で取り合いになり欠けてしまった器の修理を頼むために、メリーが子供たちを連れて訪れたのは、従妹のトプシー(メリル・ストリープ)の家ですが、丁度第2水曜だったため建物内部が逆さまになってしまいます。ここでもメリーは逆さまの状況を逆転の発想で楽しいことに変えてしまうんですね

物語の進行役には、ガス灯の点灯夫となったジャック(リン=マニュエル・ミランダ)。自転車で朝と夕にガス灯の消灯・点灯をして街中を回るのが仕事ですから知り合いも多くて、バンクス家の危機を救おうと大勢が協力してくれます。マイケルの姉のジェーン(エミリー・モーティマー)とは後半良い雰囲気になりますが、これもメリーの素敵なかしら?ジェーンは労働組合の支援活動家で、弟嫁亡きあとのバンクス家のサポートもしています。

お隣には元海軍軍人のブーム提督が住んでいて、ビッグベンがいつも5分進んでいると嘆いているのですが、このくだりは、後半の大時計の針を5分だけ遅らせたシーンの伏線にもなっていました

実はジョージーが凧の修理に使った紙こそが、大人たちが必死に探していた銀行の株券だったというオチです。そもそもこの株券の裏にマイケルが家族の姿を描いていたのだから、その浮世離れした迂闊さにはちょっと呆れてしまうわ

大勢の協力もあって家を取り戻した皆が立ち寄った公園で、風船売り(アンジェラ・ランズベリー)から自分に合った風船を選んで空に浮かぶシーンがハイライトですね。 

基本的に私の苦手なタイプのミュージカルでしたが、カラフルな魔法の世界は楽しかったです。バンクス家の子供たちは基本的に良い子たちだけど、そこは何といっても子供ですから喧嘩もすれば過ちも犯します。メリー・ポピンズは決して子供たちに何をしろとか言いません、自分たちで考えさせるのですが、これってけっこう大変な忍耐と寛容さを必要とします。むしろ大人に向けてのメッセージ性を感じました。

ジャックだけは一貫して子供たちと同じ心を持っていたけれど、大人になったマイケルが最後に子供時代の魔法を素直に受け入れていた心を思い出すのも良い終わり方ですね。


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さだまさしコンサートツアー2019~新自分風土記~

2019年06月27日 | ライブ・コンサート他

第4377回  東京国際フォーラム ホールA  開園16:05 終演21:55

セットリスト 

1.雨宿り

2.長崎小夜曲

3.祈り

4.精霊流し

5.望郷

6.驛舎

7.神の恵み~A Day of Providence~

8.前夜(桃花鳥)

9.October ~リリー・カサブランカ~ 

10.セロ弾きのゴーシュ 

11.生生流転 

12.償い 

13.主人公 

14.まほろば 

15.修二会(アンコール) 

5分押しで始まったコンサート。台風接近の予報に短めでとのトークから始まったけれど、結局いつものように三時間近く楽しませて頂きました。中坊時代の「ほぼ一日がかりの長崎帰郷話」ネタでは30分近い時間を割いて・・・これまでも何度も聞いたネタですが、何度聞いてもそのたびに笑ったりじんわりしたりで、ほんと、トークの冴えは衰え知らず 長崎編と京都編の二部構成ということでしたが、楽曲はオリジナルをアレンジしたものも多く、それはそれで新鮮。常連のまさ友さんによると、セトリはこのツアーでは初日から変わっていないそうです。

毎回、時代に柔軟に対応し、常に変わっていこうとする姿勢と、変わらぬ芯にある志に刺激を受けて帰ってきます。


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パッドマン 5億人の女性を救った男

2019年06月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年12月7日公開 インド 137分

インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリー(ソーナム・カプール)との出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。


現代のインドで、安全で安価な生理用品の普及に奔走した男の実話を映画化したヒューマンドラマです。モデルとなったのは1962年生まれのアルナーチャラム・ムルガナンダム氏。商用の3分の1の低コストで衛生的な製品を製造できるパッド製作機を発明し、女性たち自身がその機械で作ったナプキンを女性たちに届けるシステムを開発した功績により、2014年米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリを授与されています。日本では当然のように普及していたナプキンですが、インドではまだまだ迷信による不衛生な状態に女性が置かれていたというのは少なからずショックを受けました。

映画の冒頭で描かれるのは、ラクシュミとガヤトリの初々しくも愛溢れる暮らしの描写です。手先が器用なラクシュミは、妻のために自転車の後部座席を作って二人乗りで外出します。色鮮やかな結婚式のシーンから暫く、甘い生活が続きますが、ある日、ガヤトリが家の外に・・・月の触りの女性は不浄とされ、家の外で過ごすんですね 妻を娶るまで、女性のそのようなしきたりに気付かずにいたラクシュミは、妻が汚い布で手当てをしていることにもショックを受けます。そんな不衛生なものを当てていては病気になってしまうと心配して、ナプキンを買いにいったラクシュミはその値段にさらに驚くことになります。それでも妻のためにと買ってきたのに、高すぎてもったいないと拒否されてしまうんです。このことがきっかけとなり、彼は真剣にナプキンを自作することを思いつくのです。

でも古い因習を打破するのは並大抵のことではありません。当の妻でさえ恥ずかしいと嫌がるので、彼は動物の血を使った実験や、女子医科大の学生に協力を仰いだりするのですが、逆に村人の好奇な目と非難に晒され、母や妹たち、妻さえも家を出ていくと言い出します。これが同性である女性が作るのであれば、周囲の評価も変わるのでしょうけれど、あいにくラクシュミは男性なので彼の行動は全く理解されないどころか変人扱いなのです。

村を出たラクシュミはそれでも研究を続け、市販品の材料がセルロース・ファイバーであることを知ります。さらに大手企業が使う大きな機械にヒントを得た彼は簡便な製造機を発明します。試作品をパリーに渡したことがきっかけで、彼女の協力が得られ、工科大学でのデモンストレーションで賞を獲ります。特許を取ればというパリーの提案に、ラクシュミは金儲けのために作ったのではない、貧しい女性たちの少しでも助けになればと考えていると話します。その後二人は、女性たち自らが機械を使ってナプキンを製造し販売するシステムを構築していくのです。

愛する妻のために始めたことなのに、当の妻は夫の行為を誤解し拒否します。一方、パリーはラクシュミの一途な思いに賛同して彼に協力するうちに彼を愛するようになっていきます。ラクシュミが成功したのは半分以上パリーの助力にあるように見えるのだけど、最終的にラクシュミは妻の元へ帰っていくんですね。もしラクシュミが妻からパリーに愛情を移したとしたらそれはそれで興覚めだったかもですが、やっぱり少しだけもやっとしますねぇ ガヤトリは良くも悪くも無知無学な村の女性で、パリーは進歩的な都会の女性。どちらが良い悪いではなく、やっぱりラクシュミの行動の原点は妻への深い愛情だったということですね。

学のないラクシュミの、アメリカで拙い英語を使ってのスピーチはユーモアと女性への尊敬に溢れた素晴らしい内容でした。基本、ものづくりや発明は、それを使用する側への愛情から湧き上がるものなのだと再確認できる作品です。


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Mr.&Mrs.フォックス

2019年06月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年4月19日公開 アメリカ=イギリス 95分

詐欺師のピーター(ティム・ロス)とハリー(ユマ・サーマン)のフォックス夫妻は、ギャンブルで大金を失ってしまう。しかもその金は、かつての仕事仲間、イリーナ(マギーQ)から横取りしたものだった。その首に賞金がかけられた2人は、追跡を逃れるため、ロンドンからロサンゼルスへ高飛び。そこには、セレブの映画監督と再婚したピーターの元妻ジャッキー(アリス・イヴ)が暮らしていた。久しぶりにジャッキーと再会するピーター。彼女の指には、夫から贈られた500万ドルの宝石が光っていた。イリーナの許しを請うため、その指輪を奪い取ろうと企むハリー。こうして、2人はジャッキーが暮らす豪邸に忍び込むが、そこへハリーに復讐を誓うイリーナがギャングを引き連れて現れ……。

 

放題からして「Mr.&Mrs.スミス」の二番煎じの胡散臭さがあります。出演陣は豪華ですが、内容はしょうもない詐欺師夫婦のその場凌ぎのドタバタ劇でした。

ピーターは酒とドラッグが手放せず、ハリーに振り回されっぱなしで良いとこなし。容姿は最高だけど性格は最悪なハリーはギャンブル依存症で、手にしたお金もすぐにポーカーに消えてしまう。そもそもこの夫婦、愛し合っているのかも定かじゃない。彼らの周囲の人間も一筋縄ではいかない奴らばかりでなんだかなぁ。

誰が被害者なのか加害者なのかも混沌としたまま話が進みます。もう勝手にして~~という感じでした。 

 


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判決、ふたつの希望

2019年06月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年8月31日公開 レバノン=フランス 113分

レバノンの首都ベイルート。自動車修理工場を営む、キリスト教徒のレバノン人トニー(アデル・カラム)と、住宅補修の現場で働くパレスチナ難民のヤーセル(カメル・エル=バシャ)。そんな二人の間に起きた些細な口論が、ある侮辱的な言動をきっかけに法廷へと持ち込まれる。両者の弁護士が論戦を繰り広げるなか、メディアはこの衝突を大々的に報道。事態は国全土を巻き込む騒乱へと発展していく……。(MovieWalkerより)


キリスト教徒のレバノン人男性とパレスチナ難民の男性との口論が裁判沙汰となり、やがて全国的な事件へと発展していく様子を描いた作品です。ジアド・ドゥエイリ監督はレバノン出身で、自身の体験に基づいて描いたそうです。

きっかけは些細な行き違いと侮蔑の言葉です。個人対個人の争いが、法廷に持ち込まれると国や信仰の問題にまで発展し大事になっていく様は、客観的に観れば喜劇ですが、その奥の根の深いところにある民族の歴史と確執に焦点を当てれば悲劇でもあります。

トニーは、キリスト教マロン派の右派政党「レバノン軍団」の熱心な支持者です。身重の妻シリーンは騒がしいベイルートを出てダムールに引っ越したいと言いますが、トニーは激しく拒絶します。そんな時、彼らの家の前で工事をしていたヤーセルとちょっとしたことで喧嘩になるんですね。ヤーセルがトニーに「くず野郎」と悪態をついたことが許せずトニーは建設会社の社長に抗議し、ヤーセルの謝罪を求めます。渋々謝罪にやってきたヤーセルに今度はトニーが侮辱の言葉を浴びせかけ、かっとなったヤーセルはトニーに暴行、ケガを負わせてしまいます。元はヤーセルがパレスチナ難民とわかっていて嫌がらせをしたトニーが悪いのですが、怒りの収まらない彼は告訴しますが、証拠不十分で棄却されるんですね。まぁ当然ですよね。

ところが、ケガを押して働いていたトニーが倒れ、それにショックを受けたシリーンが早産となり赤ん坊が生死を彷徨う状態になる事態に。これも全てヤーセルのせいと、トニーは弁護士のワジュディー・ワハビーに話をもちかけ控訴します。他方ヤーセルのもとには「これはヘイトクライムだ」と主張する若い女性弁護士ナディーンが訪れ、弁護を買ってでるんです。法廷で激しく対立す双方の弁護士ですが、実はこの二人は親子なんです 家族でも主義主張が相容れないというサンプルでもあるのかな。

法廷の場で、暴行の前にトニーがヤーセルに投げかけたパレスチナを侮辱した言葉が明らかになると、法廷内外での論争と対立が起き、テレビやマスコミも連日報道し、当人たちの気持ちなどおかまいなしに、国を揺るがす騒乱となります。事の大きさに責任がとれないとヤーセルは解雇を言い渡され、トニーの家には脅迫や嫌がらせの電話がかかってきます。大統領の仲裁も功を奏さず、無言でそれぞれの車に乗り込むトニーとヤーセルでしたが、ヤーセルの車のエンストに気付いたトニーは手早く直して無言で立ち去ります。この時二人の間に流れる空気が少し動いたような。

裁判も大詰めで、トニーが6歳の時に起きたダムールでの大虐殺(キリスト教徒の民兵組織がパレスチナ難民やイスラム教徒を虐殺した報復として、ムスリムの武装集団がマロン派キリスト教徒の村であるダムールを襲って民間人500人以上を虐殺した事件)で家族を奪われた過去に苦しみ、それ故にパレスチナ難民を嫌っていたことが明らかになるんですね。国を追われたヤーセルと故郷を奪われたトニー。二人の心にある憎しみは、個人に向けたものというよりもっと大きな国とか運命に対してぶつけられる筈のものです。

裁判の審判は互いの立場や環境を冷静に鑑みた上での至極公平なものでした。二人は静かに判決を受け入れ、それぞれの支援者に感謝の意を表して裁判所を出ます。先に出て階段を下りていったトニーが振り向いてヤーセルと交わした視線には、もう憎しの影はありません。むしろ互いを称え合うような表情を浮かべる二人にとって、この裁判はこれからの人生における重大な出来事となった筈。互いに民族の代表のような形で歴史を背負わされた二人ではありますが、個人と個人とて向き合えばそこに和解の糸口は見えるのです。逆に国とか宗教とかイデオロギーが絡んでくると、一人ひとりが見えなくなり憎しみという共通項で括られてしまうんですね。

印象的だったのは、トニーの妻のシリーンが感情に流されず夫をいさめる姿です。子供を喪いそうになった時も、裁判で二度の流産の過去を暴露された時も、彼女はヤーセル側を責めることはしません。過去は過去として前を向く強さこそ、称えられるべきだと思うなぁ

映画は、分断された社会の実情をリアルに表現してみせます。まずはお互いを知ること、そこから一歩が踏み出せるんだということを伝えている気がしました。


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メン・イン・ブラック インターナショナル

2019年06月17日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2019年6月14日公開 アメリカ 115分

NYに本部を置く最高機密機関「メン・イン・ブラック」(MIB)。所属するエージェント達はブラック・スーツとサングラスに身を包み、地球に生息するエイリアンが犯罪や侵略行為を行わないように監視し取り締まっている。エリート新人女性エージェントM(テッサ・トンプソン)は、エージェントO(エマ・トンプソン)に命じられロンドンへ。ロンドン支部での初ミッションはMIB内部に潜伏するスパイを摘発する事だ。上官のハイT(リーアム・ニーソン)の指令に従い、イケメンチャラ男だが敏腕のエージェントH(クリス・ヘムズワース)とチームを組み捜査を開始。何にでも擬態しエージェントの姿にも化けることのできるエイリアンを探すため、イギリス・フランス・モロッコと世界各国で捜査を進める二人に危機が迫る。既にスパイ側が先手を打ち、二人を抹消する裏工作を始めていたのだ。逆にMIBに追われる身となり、全てのエージェントが信用できない状況の下、追い詰められていく二人だが・・・。(チラシより)

 

「メン・イン・ブラック」シリーズの4作目は、これまでのトミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスのコンビから一転、男女の組み合わせになりました。シリーズは好きでしたから劇場鑑賞にしたのですが・・・なんだろう、このもやっと感は 

題名のインターナショナルは、彼らがロンドン・パリ・マラケシュに出没するから?宇宙人相手に(地球の)世界ロケってのもどうよ!どうせなら宇宙を舞台にして欲しかったぞ。

クリス・ヘムズワースも好みのタイプの俳優なんですが、今回演じているのはかなりのチャラ男で、敏腕の触れ込みもオイシイところは全部Mに持っていかれて良いとこ無しなんだもの。逆にMは新人なのにやけに優秀で、そつがない!まるでMがHのお守り役みたいに見えました。これならOとMで組んだ方が面白いものができたんじゃないかとさえ思ってしまいます。

冒頭、エージェントHとハイTは、ハイブという凶悪なエイリアンを撃退して地球を救います。他方、20年前にエイリアンを目撃して以来、MIBに憧れていたモリーは、長じて自力でMIBのアジトに辿り着くんですね。その時点で並外れた能力の持ち主ということになるのか エージェントはスカウト制のMIBですが、モリーは自らを売り込みます。モリーの能力を見込んだOは彼女を見習いとして活動させることにします。その初仕事がHに同行しての要人ヴァンガスの警護。なのにハイブの刺客らしき敵に目の前で暗殺されちゃうんですね。要人から託されたのは未知の兵器で、それは惑星を粉々にするほどの威力を持っています。犯人を追ってマラケシュへ飛んだ二人ですが、兵器の存在を知ったMIBから追われることに という展開です。

この兵器を巡って、Hの元カノの武器商人リザ(レベッカ・ファーガソン)とのバトルもあり、そこでMが助けたエイリアンとの再会があったりします。(ちっちゃい時は可愛い姿でも成長すると・・・)謎の刺客とのハイテクなバイクを使った追走シーンや、様々な武器も登場し、それなりに楽しめるけれど、登場するエイリアンもなんかイマイチで

あ!チェスの駒キャラのポーニィはぶさかわ系でキュートです。彼が山場で思わぬ活躍をします。Hより役立ってたかも 

裏切者はいかにも怪しげなC(レイフ・スポール)じゃなくて、もちろんあの人 ハイブに乗っ取られていたのねぇ~そしてニューラライザーでHも記憶を消されていた(ヴァンガスがHは変わったと言ったのも納得)というオチまで。いやいや、これじゃMが主役でも仕方ないかも 

でもな~~やっぱり相棒ものなら男同士の方が・・・


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それだけが僕の世界

2019年06月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年12月28日公開 韓国 120分

かつてWBCウェルター級東洋チャンピオンとして、華々しく脚光を浴びたプロボクサー=ジョハ(イ・ビョンホン)。しかし40歳を過ぎた今は、チラシ配りなどで生活費を稼ぎネットカフェに寝泊まりする日々を送っている。そんなある日、17年振りに母親=インスク(ユン・ヨジョン)と再会を果たすジョハ。過去のある出来事から母親との関係は完全に断絶していたが、老いた母から一緒に暮らそうと頼まれ、明日の暮らしにも困っていたジョハは渋々インスクの家に向かう。そこには生まれて初めて会う弟=ジンテ(パク・ジョンミン)が住んでいた。突然の弟の出現に戸惑いを隠せないジョハ。サヴァン症候群だというジンテは、何を言っても「は~い」と無邪気な返事をするばかりで、ジョハの苛立ちは収まらない。一方、長年母に溺愛されて育ってきたジンテは荒っぽいジョハに恐怖心を抱き、食事中もキャッチャーマスクを装着する始末。ちぐはぐな3人の奇妙な共同生活が始まるが、それでも初めて息子2人が揃ってくれたことにインスクは嬉しくて仕方がない。3人の生活が、それなりにうまく回り始めていたのもつかの間。そんな折、インスクが仕事のため1か月近く家を空けるという緊急事態が起こる。かねてよりジンテにピアノの才能を感じていたインスクは、自分が不在の間に開催されるピアノコンクールにジンテを出場させたいとジョハに懇願。当面の生活費とコンクールの賞金につられジンテの面倒を見ることを了承する。インスクが旅立ってすぐ、急にいなくなったジンテをイライラしながら探すジョハ。そこで彼が見たものは、街の広場のピアノで見事なベートーヴェンの演奏を披露するジンテだった。ジンテの周りには人だかりができ、皆が彼の演奏に聴き入っていた。様々な思惑が交錯する中、迎えたコンクール当日。ジンテの演奏は成功するのか?優勝の行方は?しかし運命の歯車は、誰もが予想しない方向へと回り始めていた―。(公式HPより)


落ちぶれた元プロボクサーの兄と天才的なピアノの腕を持つサバン症候群の弟が織り成す兄弟の絆を描いたヒューマンドラマです。昔観た「レインマン」は兄(ダスティン・ホフマン)がサヴァン症候群で、商売の傾いた弟(トム・クルーズ)が兄へ渡る遺産目当てに一緒に暮らすうちに変わっていくんでしたっけね 展開としては似たようなもの・・・というか、状況設定を変えただけじゃん 悪くはなかったけど。

夫の暴力に耐えかねて自分を置いて家を出て行った母への恨みを抱えていたジョハですが、心の底では母の愛情を求めていたんですね 障害があるとはいえ、弟のジンテは母の愛情をたっぷり注がれて育っていて、もやっと感が拭えない気持ちは当然でしょう。母に仕事で家を空けると言われ渋々ジンテの面倒を見ることを引き受けたジョハですが、一緒に暮らすうちにジンテの純粋さや人の良い笑顔がジョハの頑なだった心を和らげていきます。特にジンテのピアノの演奏を聴いてからはね

ジンテのためにTシャツを買ってきたのに自分の買い物で弟から目を離したとか、チラシ配りを手伝わせた(本当は家でゲームとピアノばかりのジンテを外に連れ出したかったのだけどね)とか、一方的に母に責められたり、車に轢かれそうになった時も当たり屋扱いされたり・・・ジョハのぶっきらぼうで愛想のない態度は、しばしば誤解を招きます これじゃぁひねくれるのも仕方ない でもそんな時もジンテのピアノが心を解きほぐしてしまうんですね

車を運転していたのはジンテの憧れのピアニストでしたが、彼女は事故に遭って義足になり、それ以来ピアノが弾けずにいました。でもジンテの演奏を聴いて、またピアノに向かうことができるんですね コンクールでは彼女の模倣だと見なされ賞を逃すのですが、例え模倣でも聴衆の心を打ったのは事実。娘が再びピアノを弾いたことに感動した母親の強い推薦もあり、ジンテは発表会に特別参加を認められます。

実はインスクは末期癌で、仕事ではなく入院のため家を空けたのでした。ジョハがそのことを知った時には死期が迫っていました。病室でもインスクはジンテのことばかり心配しています。この母親、無神経なくらいなジョハへの対応が随所に見られ最後まで過去に息子を捨てたことを心から後悔しているようには見えなかったのよねぇ それでもジョハは母を赦すんですね

そういえば、登場する母親たち(インスクや大家やピアニストの母)は皆シングルマザーだったのも何かのメッセージを含んでいるのかしら?

大家の高3の娘が母の心配をよそにジンテとゲームばかりしているのですが、ジョハも加わってのゲームシーンがなかなかコミカルでした

ラストで、街の広場に抜け出してピアノを弾いていたジンテを見つけ出したジョハが弟の手を握って横断歩道を渡りますが、これは冒頭でインスクの差し出した手を握るジンテのシーンに重なります。兄弟の心が通じ合ったシーンではありますが、大好きなお母さんは逝ってしまったけれど、彼の周りには兄さんをはじめとして面倒を見てくれる人がいるんだなぁってちょっと安心するシーンでもありました。

ジンテを演じたパク・ジョンミンは韓国の若手実力俳優と言われていますが、三か月猛特訓して、演奏シーンも実際に彼が弾いているようです。(もちろん全部じゃないとは思いますが)そういえば昔中居君が「砂の器」の和賀役にあたり、やはりピアノを猛練習しましたが、役者って努力の天才ですね


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食べる女

2019年06月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年9月21日公開 111分 PG12

雑文筆家のトン子こと餅月敦子(小泉今日子)は、古びた日本家屋の古書店「モチの家」の女主人。料理をこよなく愛する彼女の家には、恋や人生に迷える女たちが夜な夜な集まってくる。トン子を担当する編集者で男を寄せつけないドドこと小麦田圭子(沢尻エリカ)、ドドの飲み仲間であるドラマ制作会社の白子多実子(前田敦子)、求められると断れない古着屋店員の本津あかり(広瀬アリス)、いけない魅力を振りまくごはんやの女将・鴨舌美冬(鈴木京香)ら、年齢も職業も価値観もバラバラな彼女たちを、おいしい料理を作って迎え入れるトン子だったが……。(映画.comより)

 

「食」と「性」をテーマに8人の女たちの日常を描いた筒井ともみの短編小説集「食べる女 決定版」の映画化です。・・・って・・え~~!!そうだったのどうりでPG12なわけだ 勝手に美味しいご飯にまつわるお話だと誤解してたので、けっこう生々しい場面に引いてしまいました。

そもそも、誰にも感情移入できなかったのよね~~ 男に利用されるだけのあかりさんとか、別れた夫に未練たらたらで、子供連れて今カノと暮らす家にやってくるツヤコさん(壇蜜)は論外ですが、マチ(シャーロット・ケイト・フォックス)に至っては、なんであんな男(池内博之)と結婚したのか設定自体が無理くりな感じ。原作ではちゃんと背景が描かれているのかな。 どの女性も一昔前の男性上位な思考に陥っているようで前半部分は気持ち悪かったかなぁ。ただ、後半部分は、それぞれが新しい道を選んで踏み出していくので、少しは気持ちが上向きになれますかね。

ドドとタナベ(ユースケ・サンタマリア)の出会いの描き方も、一歩間違えたらストーカー つい今期ドラマ「私定時で~」のブラック上司を連想してしまったぞ。

トン子の家で食卓を囲んで食べる家庭料理は確かに美味しそうでした。女性同士、辛いことや悲しいことがあっても、美味しいものを大好きな人たちと一緒に食べれば元気になれるという視点で、「食べたいものを自分で選ぶように、自分にとって気持ちが良いと感じることに素直でいればいい」というメッセージがストレートに伝わってくる作品ではありました。


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アラジン

2019年06月10日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2019年6月7日公開 アメリカ 128分

ダイヤモンドの心を持ちながら、本当の自分の居場所を探す貧しい青年アラジン(メナ・マスード)が巡り合ったのは、王宮の外の世界での自由を求める王女ジャスミン(ナオミ・スコット)と、 “3つの願い”を叶えることができる“ランプの魔人”ジーニー(ウィル・スミス)。
果たして3人はこの運命の出会いによって、それぞれの“本当の願い”に気づき、それを叶えることはできるのだろうか──?(公式HPより)


「アラビアン・ナイト」の物語をベースに、不思議なランプを手に入れた若者が愛する女性を守るため繰り広げる冒険を描いたディズニー・アニメの実写化です。「ホール・ニュー・ワールド」などの名曲の他、「ラ・ラ・ランド」「グレイテスト・ショーマン」のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが手がけた新曲も物語に新しい躍動感を与えています。 個人的に、ディズニーの2000年以前のアニメーション映画は好みじゃないので、アニメ版は観ていないのですが、最近の実写版はどれもハズレがなく、これも面白かったです

アラジンが盗みを働くのは生きるためで、決して悪人ではありません。猿のアブーは彼の唯一の家族で相棒です。(かなり手癖は悪いですが、その特技がアラジンの窮地を何度も救ってくれるんですね)人生を変えるチャンスを掴もうとしていた彼は、ジャスミンを王女と知らずに助けます。彼女に釣り合う男になろうとしたアラジンは、邪悪な大臣ジャファー(マーワン・ケンザリ)の甘い誘いに乗って、魔法の洞窟からランプを持ち出そうとしてジーニーと出会うのです。ジーニー役はウィル・スミス。これがもう、ぴったりのはまり役で、メイクしなくても地でいけそうなほどキャラになりきっています。アラジンとジャスミンが主人公ではあるけれど、間違いなくジーニーが一番目立っていました

ランプを擦った「ご主人様」の命令に逆らえないジーニーは、人間の権力への終わりのない欲求に辟易しています。ところがアラジンは、純粋にジャスミンと親しくなりたいだけ、そして3つ目の願いでジーニーを自由にしてくれると言います。こんな人間、初めて!ジーニーはアラジンを友達として認識するようになるんですね。

ジャスミンは強い自立心と旺盛な好奇心を持ち、自由に憧れています。城を抜け出して町に出たのも、民の本当の姿を知りたかったから。求婚者の王子たちと比べても、彼女は賢い王になれる素質も能力もあるのに、時代の常として女性であるが故に自由も権利主張も許されません。それでもジャスミンは自らの夢を決して捨てず、運命に立ち向かっていく強い女性として描かれています。

物語の舞台である砂漠の王国アグラバーは、南アジアと中東と北アフリカの文化を足してボリウッド風にした感じの描写になっています。特にダンスシーンは「インド映画だったっけ?」と錯覚しそうなほど かと思えばヒップホップの要素を取り入れていたり、ダンスに関してはかなり斬新で現代的でした。

アラジンを助けてくれるもう一人(一枚)の仲間の魔法の絨毯も仕草が擬人化されていて可愛げがありました。

ジャファーはアラジン同様コソ泥から身を起こした人物ですが、二番手に留まることを是としない野心が、結局彼の身を滅ぼしてしまいます。この「二番手」というのがキーポイントですね 人間欲張ってはろくなことがありませんぜってことで。

ジャスミンの父王は、ジャファーの野心の前に成すすべもない状況でも抗う娘の姿を見て、いつまでも子供と思っていた娘の成長と王としての素質に気付きます。

法律に従う実直で誠実な家臣のハキームが、ジャスミンの「自分の良心に従って」という言葉にジャファーに逆らう場面も良かったな

王になれば法律も変えられるらしいので(それなら父王自身が変えちゃえばいいのに)めでたく結ばれる二人。

自由になった(=人間になった)ジーニーはジャスミンの侍女とこれまためでたく結ばれ・・あぁここで冒頭のシーンになるのかぁぁ・・・すっかり忘れてた自分

 


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ブレイン・ゲーム

2019年06月09日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年10月6日公開 アメリカ 101分 R15+

FBI特別捜査官のジョーメリウェザージェフリーディーンモーガンと若き相棒捜査官キャサリン・コウルズアビーコーニッシュは、連続殺人事件の捜査に行き詰まり、元同僚のアナリスト兼医師ジョンクランシー博士アンソニーホプキンスに助けを求める。博士は隠遁生活を送っていたが事件に特別の感情を抱き、容疑者のチャールズアンブローズコリンファレルを追跡していく。だが並外れた予知能力の持ち主である博士は、この殺人犯が自身以上の能力をもっていることに気付く…。(公式HPより)

 

サイコスリラーはあまり好きではないのですが、アンソニー・ホプキンス出演ということでチョイスした作品です。クランシー博士と容疑者に共通するのは予知能力です。(博士は触ったものの過去や未来が見えるんですね)

博士は娘を病気で亡くしてから妻とも別れてひっそり暮らしていますが、その理由は後半の容疑者との対決の中で明かされます。予知は出来ても未来を変えることはできないというのは本人には辛く惨い能力ですね。訪ねてきた元同僚の頼みをにべもなく断った博士ですが、彼らの未来を垣間見てしまったことから前言撤回し協力するという筋書きです。未来は固定されたものではなく、様々な可能性を秘めているパラレルワールドでもあるという描き方です。コウルズ捜査官は初め超能力の存在を疑っていましたが、ジョンと捜査を進めるうちに考えを改めます。そりゃ~目の前で起きたことそのものが現実であり真実なのだから当然かも。

連続殺人の被害者たちは、今は健康そうに見えても、いずれも死を前に長い苦痛が待っているような人たちでした。アンブローズは彼らへ慈悲の死(首の後ろを鋭い刃物で突き刺し痛みもなく即死させる手口)を与えたのだと言い、自身に迫っている死を前に博士を後継者にしようとしていたのでした。

アンブローズに「お前はただの殺人者。たとえ痛みや苦しみがあっても、人生最後の瞬間にはそれさえもが幸福なのだ。」と言った博士に、彼は「お前の娘にも同じことが言えるのか」と返し、博士は言葉に詰まります。娘の苦しみの先を予知できた博士は娘を安楽死させていて、アンブローズはそのことを知っていたのですね。博士が仕事を辞め隠遁生活を送っていた理由でもあります。彼は自らの能力を呪ったかもしれませんね。知らない方が幸せなことだってあるんです。

将来苦痛を伴う死が待っているにせよ、他者の命を奪うことは許されることではないと思います。命の選択は本人にしかできない。他者が自分の思い込みで決めて良いわけではないんじゃないかな 

この話に救いがあるとすれば、博士が過去に引きこもることをやめ、妻と向き合う勇気を持てたことかも。


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ビブリア古書堂の事件手帖

2019年06月02日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年11月1日公開 121分

五浦大輔(野村周平)は祖母の遺品から夏目漱石の直筆と思われる署名が入った「それから」を見つけ、鑑定してもらうため北鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」を訪れる。店主である若い女性・篠川栞子(黒木華)は極度の人見知りでありながら本に対して並外れた情熱と知識を持っており、大輔が持ち込んだ本を手に取って見ただけで、大輔の祖母が死ぬまで隠し通してきた秘密を解き明かしてしまう。そんな栞子の推理力に圧倒された大輔は、足を怪我した彼女のために店を手伝うことに。やがて大輔は、栞子が所有する太宰治「晩年」の希少本をめぐり、大庭葉蔵と名乗る謎の人物が彼女を付け狙っていることを知る。(映画.comより)

 

三上延原作の同名小説の実写映画化です。小説はシリーズ化されていて、一応読破してます。でも今回はそれが裏目に出たというか、小説の中の登場人物のイメージが違い過ぎるんです栞子は髪型や伏し目がちな表情は良いとして、原作ファンの男性なら楽しみにしていたかと思える胸の膨らみは完全防御で今回全くその点はスルーされ・・・別にそれを強調してくれとは言いませんが 小説の挿絵のイメージが強すぎて大輔君(こちらも、もう少し気弱なイメージなんですが)ともども、違和感が拭えませんでした。

映画本編は「晩年」に隠された祖母・絹子(夏帆)の秘めた恋が並行して描かれていきます。

作家志望の高等遊民である田中嘉男(東出昌大)が「ごうら食堂」の若妻・絹子と出会い惹かれ合う様が、太宰治や夏目漱石の小説を交えて語られます。知られてはならない恋ですが、絹子の夫は気付いています。遂に一線を超え、結果として妊娠した絹子を夫は受け入れ・・・だからこそ大輔が存在しているというわけです。声に出して語る代わりに夫は表情や背中で心情を観客に伝えてきます。この演出が良いなぁ こういう人柄だからこそ、絹子は夫の元に留まったのでしょうね。

さて、「晩年」を狙う男の正体は小説を読んだ時は「へぇぇ~」と思いましたが、何しろ犯人はもう知っているので、ついつい「あ~~そんな信用しない方がいいよ~」とか突っ込みながら観てしまいました

 

(ここからネタバレ)

稲垣(成田凌)と名乗る彼の正体は、田中嘉男の孫。彼の執念はまさに異常者で、栞子たちを追い詰める時の無表情な様子は怖さがあります。

小説では栞子は本を燃やしてしまうのですが、映画では海中に投げ捨てていました。

実は希少本は無事なのですが、映画では本当に消えてしまったように描かれ、大輔の首を絞めたりする行為は殺人未遂で逮捕は当然だと思うけれど、その辺も軽くスルーされてて消化不良だなぁ

どうせ映画化するなら、大輔関連じゃなくて、お客さんの依頼で本にまつわる真実を解き明かす話の方が良かったな


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